Fringe81田中 弦氏×ヘイ佐俣 奈緒子氏 強い組織はプロダクトマネジメント視点で作るエンプロイーエクスペリエンス(従業員体験)を語る(1/2 ページ)

Web業界で注目される気鋭の起業家2人が、組織や働き方のこれからについて語り合った。

» 2018年12月19日 12時00分 公開
[織茂洋介ITmedia マーケティング]

 「新しい働き方」や「未来の会社」について考えるイベント「Tokyo Work Design Week」が2018年11月17日から24日まで開催された。6回目となる今回は「Employee Experienceが変わると、チームが変わる」をテーマに、ヘイ代表取締役副社長兼コイニー代表取締役社長の佐俣 奈緒子氏と、Fringe81代表取締役の田中 弦氏が登壇。気鋭のベンチャー起業家として知られる2人が組織作りについて語り合った。

エンプロイーエクスペリエンスとは何か

デジタル広告の会社から生まれた「Unipos」の提供価値

 そもそもなぜ両氏が「働き方の祭典」で語り合ったのか。まずは2人の接点となった「Unipos」について説明しよう。

 Fringe81の子会社であるHR Tech企業のUnipos(ユニポス)は、社内で「ピアボーナス」を送り合うサービスを提供している。ピアボーナスとは、個人間の成果給。同じ職場で働く仲間に急ぎの仕事を手伝ってもらったり、いいアイデアをもらったりしたときにお礼にコーヒーをおごるような感覚で、感謝のメッセージとともに少額のボーナスをポイントとして送り合う。ポイントは給与として支払われる他、Amazonギフト券のようなものに交換されることもある。また、Uniposでは従業員同士がポイントを送り合う様子をSNSのように社内で可視化することで、従業員の一人一人の活躍にスポットライトが当たるようにもしている。

 ITmedia マーケティングの読者ならご存じの人も多いと思うが、Fringe81はこれまでデジタル広告事業を専業としてきた。もともと自社内で取り組んでいた従業員同士の「ほめ合い」の制度にピアボーナスの仕組みを取り入れたところ、離職率を大幅に減らす効果が生まれたことから、独立した事業としてUniposが生まれた。

 ピアボーナスは従来の給与制度でカバーできない日々の貢献に支払われる「第3の給与」とも呼ばれている。Uniposの導入事例にメルカリやSansan、サイバーエージェントなど新進気鋭の企業が名を連ねていることからも、この新しい給与体験が組織にもたらす期待の高さは推察できるだろう。

 佐俣氏のヘイも、Unipos導入企業の一つだ。同社は佐俣氏が創業したスマホ決済サービス「Coiney」を運営するコイニーとネットショップ開設サービス「STORES.jp」を運営するストアーズ・ドット・ジェーピーが経営統合して2018年2月に誕生した。ヘイでは、2人の代表を設置している。代表取締役社長の佐藤裕介氏(フリークアウト・ホールディングス取締役/注1)が事業を、代表取締役副社長の佐俣氏が組織作りを担うという役割分担だ。

注1:佐藤氏はヘイ代表取締役就任に当たり、フリークアウト・ホールディングス代表取締役社長から現在のポジションに転じた。

 コイニーはリアルのサービスを、ストアーズ・ドット・ジェーピーはオンラインサービスを手掛ける。また、佐藤氏はフリークアウト出身であり、ヘイは3つの異なる企業文化を持っていることになる。組織が流動化する中で、皆が働きやすい組織を作るため、ヘイでは個々の従業員が発信した内容に対してリアルタイムかつ双方向にフィードバックできる仕組みが求められていた。Uniposはそれを実現するための手段の1つとなっているのだ。

エンプロイーエクスペリエンス(EX)とは何か

 チームの活力と会社へのエンゲージメントを高めるため、HR(人事)領域で今注目を集めている概念が、「エンプロイーエクスペリエンス(EX:従業員体験)」だ。

 EXが重視される背景は3つあると田中氏は説明する。1つ目が、世界中で課題になっている採用難というトレンド。2つ目が、業務のデジタル化が進み従業員の健康と生産性の追跡が可能になったこと。3つ目が、ミレニアル世代の台頭だ。

 「給料さえ払っていれば従業員は辞めないという時代ではありません。その会社に入って何が得られるのかという、感情の上下を含む体験は、従業員の定着あるいは離職防止のための鍵となります。EXはまず可視化から。何が不満か可視化できれば改善のための手を打つことができます。今後、企業活動の主役になっていくミレニアル世代は、それまでの人々と異なる価値観を持っています。彼らに対して、どういうときに自分が評価されたと感じるかを聞くと、昇給や昇進と同じくらいに、直接の感謝や称賛を求める声が強い(注2)」(田中氏)

注2:関連記事:「上司が部下の勤労に感謝すると仕事のパフォーマンスが上がる件――Unipos調査

 EXは今まさに世界中で大きなトレンドとなりつつあり、専門チームを設ける企業も出始めている。シェアリングエコノミーの象徴的存在であるAirbnbもその一つだ。AirbnbのWebサイトではEXチームについて「社員の面倒をいろいろと見る部署です。ヘルシーでおいしい社食の献立を組むのも仕事。最新テクノロジーをそろえてやるのも仕事。ベスト&ブライテスト(超一流)な人材を引き抜くのも仕事」と説明している。

生産性に関わる人とモノの全てをEXの視点で

 現在、ヘイでは5人のスタッフがEXチームを運営している。創業して間もないヘイの存在を認知してもらい、興味を持ってもらい、入社してもらってエンゲージメントを築くまで、全てがEXの仕事と定義している。佐俣氏にとって人事は専門外だが、EXにはプロダクトマネジメントの経験値が生きると直感したという。「組織自体をプロダクトとして、従業員をユーザーとして捉えると、Webサービスの運営と変わらない」と佐俣氏は語る。

 ヘイのEXチームでは「ファン作り」をKPIにしている。入社して活躍する人が増えるに越したことはないが、まずは自社のことを好きになってくれる人を増やすことが大事と考えているのだ。ファンが増えれば、その人自身はヘイに入社できなくても他の人にヘイを推薦してくれるかもしれない。あるいは顧客になってくれるかもしれない。

 エンゲージメントという点では、実際にヘイのオフィスに足を運んでもらうために、説明会を毎週実施している。訪れた人にオフィスを見せ、従業員と話してもらい、一緒に食事をするというカジュアルな催しで、入社を志望しなくてもヘイに興味を持っている人であれば誰でも一回は申し込みを可能にしているのが特徴的だ。毎週約20人が来訪しているというから、これだけでも1年で1000人近くのファンと接することになる。

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