複雑化するデジタルマーケティング運用業務はともすると過重労働の温床になりがちだ。このイメージを払拭し、「働き方改革」に率先して取り組むのがメンバーズだ。
企業のWebサイト制作からデジタルマーケティング全般を支援する業界大手のメンバーズが、働き方改革に取り組んでいる。2017年度における月平均残業時間は前年比20.8%減の17.4時間。2年間で38.1%の削減を実現した。
主に受託で動く同社はかつて、業務時間がクライアント企業の都合に左右されやすい傾向があった。「週明けまでに」という急ぎの仕事を金曜の夕方に振られるくらいは序の口。文字通り徹夜も辞さない体制で業務に当たっていたこともある。
これをどう変えたのか。そもそもなぜ世間の「働き方改革」ブームに先駆けて業務改善を進めたのか。取締役 兼 常務執行役員の高野明彦氏に話を聞いた。
働き方改革の名の下、今やあらゆる企業が社員の労働時間削減に取り組んでいる。しかし、メンバーズがこの課題解決に着手したのは、もう10年も前のことだ。
2008年といえばメンバーズの上場から2年が経過した年だ。今では大企業のデジタルマーケティング支援全般を請け負う同社だが、当時はネット広告代理店としての売り上げの方が大きく、多くの競合企業との苛烈な競争にさらされていた。
「当時は時間管理という概念がほとんどありませんでした。終電で帰れたらまだ良い方で、会社に寝泊まりしたり、休日出勤したりするのも当たり前。分かりやすいブラック企業だったと思います」と高野氏は振り返る。
体力の限り働き、疲弊した社員が続々と退職していく。皆忙しく働いてはいるものの生産性が伴わないため、利益に結び付かない。当時、2期連続で赤字決算に陥り、上場廃止基準に抵触する寸前だった。事業継続のためには経営改革が必須であり、中でも人事制度改革は喫緊の課題となった。
責任者となった高野氏がまず着手したのが、裁量労働制の廃止だ。これは、世間一般の見方からすると、やや意外に映るかもしない。実際、裁量労働制の方が残業代を支払う必要がなく、コスト削減につながると考える経営者は多いだろう。
しかし、メンバーズではこれまでの経験から「裁量労働で成果主義を採用すると、否応なく労働時間は長くなる。持続可能な経営をするには、社員が健康で長く働ける環境を作るほかない」(高野氏)と考え、あらためて就業時間を9時から18時までと設定し、超過した分は残業代を支給することを決めた。
同時に賞与制度も見直した。それまでは1カ月の給与を基準に成果に応じて金額を変動させていたが、会社の利益の半分を賞与ファンドとする完全利益連動型に改めた(注)。利益はコストと反比例する。つまり、残業代がかさむほど、賞与の原資は目減りする。最悪、赤字決算ともなれば賞与はゼロになってしまう。「だから、早く来て早く帰って、効率良く短い時間で働いて利益を出して皆で分配しようというメッセージを投げかけました。それによって会社の業績も回復して成長軌道に乗り、残業時間も平均30時間ほどで済むようになりました」(高野氏)
注:後述する2016年の「みんなのキャリアと働き方改革」で再度見直しを行ったため、現在の賞与制度とは異なる。
人事制度改革が順調に見えたのもつかの間、2015年頃に高野氏は再び窮地に立たされることになる。多くの企業でデジタルマーケティングへの取り組みが活発化し、メンバーズの業績も順調に推移していたが、それと同時に業界全体で人手不足が深刻化してきたのだ。
より高い年収を求めて他社へ移る社員が増え、それまで低下傾向にあった離職率が一気に上昇傾向に転じた。そこで2016年4月に立ち上がったのが「みんなのキャリアと働き方改革」と名付けられたプロジェクトだ。このプロジェクトにおいて、若手もベテランも、男も女も、東京在勤者も地方在勤者も、単身者も既婚者も、あらゆる立場の社員が、どういうキャリアを望んでいるのか、徹底的に議論を重ねた。
「若手社員に何歳でいくら欲しいかと全社アンケートを取ったところ、『30歳で500万円』といった予想外に低い答えが多く返ってきました。これくらい、もう普通に支払っているつもりだったんですけどね。そこから、社員はことさら高い報酬を求めているのではないということが分かってきました。自社の給与水準が業界平均より低いかもしれないという不安があったり、長期的に見て良いキャリアを歩めるかどうか見据えられなかったりすると、外に目が向いてしまうんですね」(高野氏)
そして、さらなる議論を重ねた上で、「年収20%UP(基本給+手当=固定給25%アップ)」「女性管理職比率30%」「残業時間50%削減(月30時間から15時間へ)」といった3年計画の目標を立てた。労働時間をさらに減らすという結論に至ったのは、共働きが当たり前になる中で、子育てや介護に追われる社員の姿が浮き彫りとなったからだ。
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