ディノス・セシールとブレインパッドが、アパレル商品におけるダイナミックプライシングの実用化を進めている。これにより利益の最大化や「衣服ロス」の削減が期待されるが、一方でアパレルならではの難しさもあるようだ。現在の進捗や課題、今後の可能性を聞いた。
データアナリティクスを基に製品やサービスの価格を需要と供給のバランスに合わせて動的に変動させる「ダイナミックプライシング」が注目されている。日本国内では、ホテルの宿泊料金や航空チケットの料金に一部適用され始めているが、この仕組みはさまざまなビジネスで応用できる可能性がある。
アパレル業界もその一つだ。衣料品の余剰在庫や大量廃棄は収益の根幹に関わる深刻な悩みの種だ。また、企業の社会的責任として環境負荷軽減を求める動きもある。ダイナミックプライシングを用いてシーズン内にできるだけ多くの商品を売り切ることで「フードロス」ならぬ「衣服ロス」削減につながれば、経営的にも社会的にも大きな課題解決が期待できる。
海外ではZARAが実店舗でダイナミックプライシングを実施して論文を発表し、注目されている。だが、日本のアパレル業界での適用事例となると、これまで目立つものはなかった。そうした中、ブレインパッドが2020年5月21日に発表したのが、ディノス・セシールの通販ブランド「セシール」のオンラインショップにおける取り組みだ。具体的にどのような取り組みを行い、現時点でどのような成果が得られているのか。ディノス・セシールとブレインパッドの両社に話を聞いた。
ディノス・セシールは、テレビショッピングやカタログ通販で知られた総合通販企業のディノスとアパレル中心のカタログ通販企業であったセシールが2013年に合併して誕生した企業だ。合併後も既存の事業はそれぞれのブランドのまま引き継がれている。
今回ダイナミックプライシングの取り組みを実施したのはセシールの方だ。「Cecile〜Il offre sa confiance et son amour〜」(セシール創業時からのキャッチフレーズであった「愛と信頼をお届けする」のフランス語訳。「空耳」ネタの定番でもある)のサウンドロゴでおなじみの同ブランドは、取り扱い商品の約7割を衣料品が占める。特にレディースアウターなどの商品は需要のある期間がかなり短い。色違いなど展開によってはSKU (Stock Keeping Unit:在庫管理における最小単位)も多くなりがちで、余剰在庫は積年の課題となっていた。
もちろん、売れる見込みのない商品をやみくもに作っているわけではない。ダイレクト通販の老舗であるセシールは以前から、類似商品の過去データなどを用いた需要予測を行ってきた。しかし、気候変動や災害などの環境変化は避けようがないし、アパレルでは売れるものは毎年変わる。売れそうなものを売れそうな分だけ作るというのは理想だが、実際には需要予測にはどうしても不確実な部分は残る。
そうであるならばやはり、価格変更(値引き)のタイミングや値引き率などを最適化し、作ったものを売り切った上で最大限の収益を上げることを考えなければならない。そして、これが難しい。
「季節性の高いファッションは商品寿命も短くある意味生ものに近い。販売開始後、在庫の量やトレンドを見てセールにかけていくといった形で在庫を消化していくが、想定通りにはいかないこともある。特に最近の異常気象や災害など予期しない事態による影響も大きくなっている」と、ディノス・セシールの藤田満氏(セシールマーケティング本部 マーケティング戦略部 部長)は語る。
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