インタビュー
» 2020年02月12日 08時00分 公開

マーケターの育成について語る:庭山一郎氏×油野達也氏 B2Bにおける「マーケティングの貧困」を抜け出すために (2/2)

[冨永裕子,ITmedia マーケティング]
前のページへ 1|2       

最終的に変えたいのは経営層のマインドセット

庭山 MA導入に当たっては戦略を立てなければいけないし、戦略の実現に必要な組織を作らなければ、自社に最適なツールは分からないものです。それなのに最初にツールを買ってしまうからうまくいかない。なぜそうなるのかといえば、他の会社がMAを導入したことを聞きつけた経営者が「わが社でも」とIT部門に丸投げするケースが多いからです。

油野 ツールを使う人の立場で考えない。

庭山 それというのも日本のB2B企業ではきちんと機能しているマーケティング組織がまだ少ないからです。あったとしても社内では政治的に弱い立場にあることが多いですね。

油野 ERP導入が挫折するケースとよく似た構図ですね。業務を分かっていないIT部門が業務変革のためのツールを選定するのだから失敗するのは当たり前です。戦略や組織がないまま導入したのでは、それは動かないERPにもなりますよ。両者の共通点は経営が関わっていないことですね。

庭山 まさにそれこそが真の課題です。Symphony Marketing Masterの対象は現場のマーケターですが、最終的にはマーケティングを経営課題として捉えてもらいたい。

油野 だとすると、経営層に向けた教育プログラムを提供すればいいのではありませんか。

庭山 それも考えたのですが、まずは若い世代に期待したい。残念ながらマーケティングに理解のない経営者もまだまだ多いのが現状。むしろ現場でマーケターを育てて、その人たちが経営幹部になるのを待った方が結果的に早いと思うのです。

油野 ツールを導入しておしまいという会社は、そのツールも値段の安さだけで選んでしまいがちです。当社データビークルの製品を検討する場合でも、値段を理由に導入を渋る人たちはいます。安物を買うことで失われる時間の価値を考えていない。残念なことですが、私たちはそういう人たちを説得するのは半分諦めています。

庭山 マーケティングに投資を渋る経営者はまだまだ多いですね。1000億円のビジネスをやっていて3年後の売り上げ目標が1200億円という会社があるとしましょう。営業部長に見通しを聞いてみたけれど、どう頑張っても1100億円までしかならない。そんなとき私たちは「100億円の穴埋めはマーケティングでやりましょう。受注決定率を10%として、1000億円規模のMQL(Marketing Qualified Lead)を供給できる仕組みがあれば可能です。やりませんか」と提案するのですが、年商1000億円超の大企業がデマンドセンターへの投資に必要な2000万円が出せないということも実際に起こっているのです。

「Symphony Marketing Master」のこれから

油野 長い目で見てマーケティングの価値が分かる人を育てるためにも、育成プログラムは必要ですね。最初にリリースしたのが初級編の「Basic」で、今後プログラムを拡大するということですが。

庭山 はい、今後は中級、上級向けのプログラムも開発予定です。これはもともとシンフォニーマーケティングの社内資格であったものを応用しており、中級まで行けば特定商品のマーケティングは一通り任せられる水準に到達します。われわれの社内では上級編となる「Platinum」「Titan」があって、Platinumは全社のCMO 、TitanはグローバルのCMOができる水準です。

油野 マーケティング部門で採用募集をかけると、イベ ントやWebマーケティングができるという人は大勢来ますが、リードジェンから逆算して予算の最適配分ができるという人はとても少ないのが現実です。手元に予算500万円があったとしたら、それを各施策にどう振り分けたらいいか、きちんと考えられるマーケターは需要があると思います。認定資格にする予定はありますか。

庭山 はい。真面目に勉強した人が転職したときに履歴書に書けるようなものにしようと思っています。

「コト売りの時代」だからこそデマンドジェネレーションが必要

油野 庭山メソッドの一丁目一番地は「引き合い依存からの脱却」ですよね。これからの企業は既存顧客からの注文を待っているだけでなくマーケティングの力で自ら案件を創出できるようにはならなくてはいけない。

庭山 そうです。今、多くの企業の中期経営計画に入っていて、現場が実現に困っている言葉が2つあります。1つはDX(デジタルトランスフォーメーション)で、もう1つが「モノ売りからコト売りへ」です。そして、この「コト売り」こそが、引き合い依存からの脱却への追い風になっているのです。モノ売りの時代は、提案に呼ばれるのを待っていればよかった。しかし、コト売りをしようと思ったら、社内の奥深くで発芽した小さなニーズを発見する仕組みが必要になります。

油野 私は以前、部下に対して「営業はRFP(提案依頼書)をもらった時点で負けている。書く側に回れ」と言っていたものです。お客さまの課題を先回りして発見しなければいけないと。とはいえ、誰にでもそれができるかというと難しい。エスパーを育てることはできないのだから、もっと科学的なやり方が必要ですよね。

庭山 それこそが、私たちのやりたいマーケティングです。

営業とマーケティングの分断を乗り越える

油野 マーケティングについて学ぶ必要性があるのは営業担当者も同じだと思っています。営業もマーケティングの仕組みを理解した上で動かないと立ち行かなくなりますから。

庭山 実は今回の教育プログラムを営業に受けさせたいという会社が多いのです。各社にマーケティング組織がないからその役目を営業担当者が代わりに担うしかないということかもしれませんが、いずれにしても、おっしゃるように今はマーケティングを理解していないと営業もできない時代なのだと思います。油野さんのようなトップ営業はもう再生産できないレッドデータブック(絶滅危惧種)ですから。

油野 経験の少ない新人でも売れる仕組みを作れること。それがマーケティングの力だと思います。だから営業は最低限、マーケティングが何をやっているかは勉強した方がいいですね。一般的に、日本の営業はマーケティングのことを金食い虫だと思っていますが、マーケターはマーケターで、自分たちとは違うことで役に立とうとしていると、営業は理解すべきです。

庭山 金食い虫はその通りです。私自身はマーケティング側の人間ですが、あえて言わせてもらうと、マーケターが社内でリスペクトされていないとしたら、それはマーケターの方が悪い。マーケティング部門への評価は後工程である営業部門がするのが当然だからです。よく、これからのマーケターに必要なスキルを聞かれるのですが、私の答えはシンプルに「営業とコミュニケーションが取れること」です。

油野 マーケティングと営業が分断している場合ではないですよね。

庭山 マーケターが営業と仲良くなる方法は、実は難しくありません。営業に良い案件を持って行けばいいだけです。受注につながれば、評価は一気に変わります。結局は売り上げに貢献すること。マーケティングと営業の分断を解消するにはこの方法しかありません。

分業と相互の役割の理解

油野 私は、営業の仕事の中で今後も残るのは既存顧客との密着だけだと思っています。その他の仕事は細分化して、チームでそれぞれの役割を果たすようにしなければならない。マーケターがいてインサイドセールスがいるというプロセスが必要です。売った後はカスタマーサクセスという新しいプロセスもあります。バレーボールでも、ネットを超えたボールの全てをスパイクで打ち返すことはできません。いったんレシーブで受け、トスを上げてもらって、スパイクを打つようにしなければ勝てない。

庭山 企業内の組織間連携は重要なテーマです。しかし、例えばインサイドセールスを設置するにしても、マーケティングのナレッジがないと、なかなかうまくいきません。単にインサイドセールス部門を設置しても、アポイント獲得自体が目的になってしまうと、コールドコールを始めてしまう。そうやってアポイントを取って営業が訪問しても、名刺交換だけして終わることになる。お客さまにとってはうっとうしい電話が増えるだけで、結局は営業にとっても質の良いリードが供給されない。

油野 ただ分業するだけではダメで、それぞれが自分の担うプロセスの前後も理解する必要がありますね。

庭山 B2Bでも単価の低い商材であれば、訪問なしのクロージングも可能だと思います。しかし、契約単価が高い場合は難しい。ビジネスに合ったプロセスを設計しないとB2Bエンタープライズでは戦えないと思いますね。

油野 テックベンチャーの社長はそこを分かっていないといけませんね。やはり経営者もこの研修サービスを受けるべきですね。

寄稿者紹介

冨永裕子

冨永さん

とみなが・ゆうこ フリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタント。2つのIT調査会社でエンタープライズIT分野におけるソフトウェア分野の調査プロジェクトを担当する。その傍ら、ITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトも経験する。新興領域、テクノロジーとビジネスのギャップを埋めることに関心あり。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

Loading