元祖グロースハック企業Dropboxと、わずか数年で世界有数のフリマアプリに成長したメルカリ。急成長のドライバーとなったグロースハックのノウハウが明かされた。
「急成長の方程式」というものがあるのならば、事業を起こそうとする人なら誰でも知りたいはずだ。できれば机上の空論ではなく、それを実践して成長を遂げた企業の考え方を聞いてみたい――。そんな期待に応えるパネルディスカッションが実現した。
2019年11月20日にフロムスクラッチが開催したマーケティングカンファレンス「MiXER」のオープニングキーノートセッションにDropbox Japanの上原正太郎氏とメルカリの野中翔氏が登壇。シンクロ代表取締役社長でオイシックス・ラ・大地CMT(Chief Marketing Technologist)を務める西井敏恭氏がモデレーターとなり、両社のグロースハック哲学と具体的なノウハウを掘り下げた。
グロースハックという概念を生み出したのは、Dropboxの創業初期をマーケティング面で支えたショーン・エリス氏だ。グロースハックは一般的に、製品やその売り方を工夫して成果をモニタリングし、改善しながら成長を加速する営みと考えられる。他ユーザーを紹介すると自分の無料アカウントのストレージ容量がアップするというDropboxのやり方は、世界で最も有名なグロースハック施策として知られる。こうした営みの積み重ねでDropboxは1000億円規模の売り上げに世界最速で到達し、今や180カ国以上で6億人を超えるユーザーに利用されるようになっている。
グロースハックの定義について上原氏は簡潔に「人も資金も時間もない中、いかに出費を抑えつつ、いかにユーザーを獲得できるかを考え、実行すること」とまとめている。
グロースハックが必要とされるのは基本的に創業間もないスタートアップだ。スタートアップには時間も予算もない。投資家は将来性のある企業に投資を持ちかけ、2〜5年以内で回収しようとする。短期間で利益を出せなければ投資は打ち切られ、会社自体存続できなくなってしまう。故に最小限のリソースで最大限のグロースを実現しなければいけない。
創業期を切り抜けたとしても、グロースハックが不要となるわけではない。フェーズによってグロースハックの手法は大きく変わる。例えばそれまで口コミとオンラインプロモーションしか行ってこなかったサービスが、ある程度拡大したタイミングで一気に認知を高めるためにテレビCMを放映することがあるが、これなども一種のグロースハックだといえる。
一方、日本国内にも独自のグロースハックを確立し、急成長を遂げた企業がある。それがメルカリだ。2013年にリリースされたフリマアプリ「メルカリ」の月間利用者数は約1450万人、累計出品数は11億品を超えている(2019年12月現在)。日本国内におけるメルカリ上の累計流通額は1兆円を越え、他の追随を許さない巨大マーケットを形成している。
野中氏は、グロースハックを「LTV(顧客生涯価値)がマーケティングコストを上回る状態を作ること」と定義する。ここであえてCPA(獲得コスト)ではなく「マーケティングコスト」という言葉を使うのは、以下のような意図がある。
例えば、メルカリ内に出品されたモノが1万円で購入された場合、メルカリ側の収益は販売手数料10%分の1000円ということになる。1000円であれば100円。一度の取引だけで顧客獲得の全てのコストを回収するのはするのはかなり難しい。
そうであれば、一度の購入だけでなくLTV、つまりユーザーが生涯メルカリで行う取引から得られる総利益に対するマーケティング施策のROIを評価すべきではないかと考え、これを日々実行している。具体的には初回獲得施策だけでなくクーポン配布などによるリピーター施策も併せて行い、ユーザーのLTVが初回獲得のみならず継続利用促進まで含めたマーケティングコストを上回る状態を目指しているのだ。
では、両社はどうやってそれぞれの考えるグロースハックを実践してきたのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.