ニューバランスが選ばれ続ける理由をトップマーケターたちが熱く語る商品力だけではない(1/2 ページ)

多くのファンを魅了するニューバランス。ディープなニューバランス“信者”を自認するデジタルマーケティング業界のトップランナーたちが、同ブランドが信頼される根幹にあるCX(顧客体験)について語り合った。

» 2019年10月31日 19時00分 公開
[やまもとはるみITmedia マーケティング]

 CX(顧客体験)プラットフォーム「KARTE」を提供するプレイドは2019年10月25日、CXをテーマにしたカンファレンス「CX DIVE 2019 AKI」を東京・虎ノ門ヒルズフォーラムで開催した。本稿ではその中から「なぜニューバランスというブランドに惹かれるのか?」と題したセッションの内容を紹介する。登壇者はMoonshot代表取締役CEOの菅原健一氏とインフォバーン執行役員の羽村悠己氏、ニューバランスジャパン. DTC ECチーム マネージャーの牧嶋琢実氏。モデレーターはヤプリ執行役員CCOの金子洋平氏が務めた。

左から金子氏、菅原氏、羽村氏、牧嶋氏

ニューバランスが「ファーストシューズ」に選ばれる理由

 デジタルマーケティングの先駆者として業界で名をはせる今回の登壇者各氏は、長年にわたるNew Balance(以下、ニューバランス)のファンでもある。登壇時ももちろん、それぞれ自慢の一足を履いていた。

 「996」や「574」をはじめとした人気シリーズを持ち商品力の高さでファンを獲得しているイメージのあるニューバランスだが、菅原氏や羽村氏はニューバランスの魅力はCXによるところが大きいと語る。

 菅原氏がニューバランスのファンになり買い続けている理由の一つが、店舗での体験だ。顧客の足に合った一足を選ぶことを重視するニューバランスは一部直営店舗において、3Dスキャンによるサイズ計測を導入している。

 どのサイズ、どのスニーカーを選んだらいいのか、顧客は必ずしも答えを分かっているわけではない。菅原氏は「ニューバランスはスニーカーを選ぶ指標を提示してくれて、選び方を変えてくれる。これに慣れると他のブランドを選べなくなる」と語る。羽村氏は「スニーカーを履いたときに感じる心地よさや安心感が店舗やECサイトでも提供されている」と付け加えた。顧客体験の一貫性が、ブランドの魅力や信頼感につながっているというのだ。

菅原氏

 牧嶋氏も、ニューバランスの魅力の一つに店舗での足の計測を挙げる。3Dスキャンでは、足長だけではなく幅や甲の高さも測定し、測った足型を基に「この型番ならこのサイズ」といったように、ちょうどいい履き心地の商品を提案している。また、ECサイトでも同様に足長と足囲(ウイズ)で選べるようにしている。

 正しいウイズサイジングで最適かつ快適な一足を選べるため、ニューバランスはファーストシューズ(歩き始めの赤ちゃんが初めて履く靴)として選択されることが多い。「ニューバランスが足のサイズに真剣に向き合っているブランドだと認知してもらえている結果」と牧嶋氏は見ている。

 ファーストシューズにニューバランスを履いた子どもたちは、成長過程で他ブランドの靴を履いたとしても、ある年齢になると一定数がニューバランスに戻ってくる。また、父親が自分のお気に入りのニューバランスを贈るなど、親が子どもに対してのインフルエンサーになるケースも多いそうだ。こうした傾向から金子氏は「ニューバランスは卒業されないブランド」と評価している。

金子氏

売れ筋の商品に固執しない

 牧嶋氏がニューバランスジャパンに入社したのは今から6年前。20代の若者の間でニューバランスが大ブームとなっていた時期で、当時はECサイトに商品を出せばすぐに売り切れる状態だった。今でこそブランドの「中の人」となった牧嶋氏だが、自身ももともと熱心な「ニューバランス信者」の一人だ。入社面接では少年時代から続くニューバランスへの愛を30分間近く語り続けたというエピソードもある。

 そんな牧嶋氏がニューバランスの特徴の一つと考えているのが「売れ筋の商品に固執しない」という点だ。一般的なブランドであれば、短期的に利益を最大化させるために、売れている型番があれば色違いをどんどん発売するなどの展開を考えるところだが、ニューバランスはそれをしない。売れ筋にしがみつくのではなく、むしろ新しい商品で新しい利用スタイルを提案するのがニューバランス流だ。

 これまでにも例えば、日々の生活にランニングやフットボールを取り入れるというライフスタイルを提案してきた。ファッションアイテムとして選ばれることも多いニューバランスだが、スポーツユースに耐える機能も持っている。そこで、「プロ用ではない普通のシューズでも10キロくらいは気持ちよく走れる」といった提案をしたところ、新しい属性の利用者を取り込むことにつながった。

 「売れ筋を追いかけ過ぎると急ブレーキがかかる。商品群を切り分けして新しい客層を取り込み、顧客のセグメントごとに商品を選んでもらえるようにすることが大事」(牧嶋氏)

牧嶋氏
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