多くの企業が顧客体験を向上させるための取り組みを始めているものの成功している企業はまだ多くない。うまくいくにはどうすればいいのか。エキスパートに聞いた。
昨今、企業はますます顧客中心主義にシフトしている。顧客満足度の高さは企業の株価と相関し、経営にとって顧客体験(CX:カスタマーエクスペリエンス)が無視できない課題となっている。そして、多くのCEOはデジタルをCXの主な手段と考えている。
一体なぜこれほどCXが重視されるようになったのか、デジタルを活用してCXに取り組まない企業はどうなってしまうのか。そしてCX向上施策を失敗に終わらせないために何をすればいいのか。
Gartnerマネージング バイス プレジデントでCX領域に精通するアナリストとして知られるジーン・アルバレス氏に聞いた。
――なぜ今、多くの企業がCXに向かい始めたのでしょうか。
アルバレス氏 多くの製品がコモディティー化した今、残された数少ない差別化ポイントがCXだからです。これはB2BかB2Cかに関係なく、あらゆる業界に共通しています。
多くのCEOは、売り上げや価格、マージンを維持するためにCXが重要だと気付き始めています。単純に考えて、カスタマーサービスの質が低ければ、顧客はいかにそれまでのマーケティングやセールスがよくても、その製品・サービスを提供するサプライヤーを変えてしまうかもしれませんよね。
例えばタクシー事業者の場合を考えてみましょう。ニューヨークのタクシーは、車内は汚いく支払いも面倒で頻繁に道に迷います。要するに、CXがよくない。だからUberが参入した際は多くのユーザーを獲得できました。一方で、東京の場合は既存のタクシーサービスの品質が素晴らしく、顧客は満足しているので、わざわざUberを使う必要がない。
つまり、すぐれた顧客体験は、新規参入によるリプレースを防ぎやすくなるのです。逆に体験がよければ、他人に薦めることさえあるでしょう。
――顧客を満足させるのは企業として当然のことともいえますが、それが特に今強調されているのは、それだけユーザーの力が大きくなったからということなのでしょうか。
アルバレス氏 そうだと思います。あらゆる情報を収集し、また発信するすべを得たユーザーは、以前とは比較にならないほど多くの選択肢を獲得しました。
CXはもはや企業だけでなく、政府や自治体までもが取り組むべき課題となっています。
市民は、気に入らないことがあればSNSを通じて仲間を集め、行動を起こします。同じ不満を持つ人同士がつながりやすくなった結果、市民の声は非常に大きな影響力を持つようになったのです。
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