――同じ消費財でもFMCG(日用品)もあればアパレルや家電など単価の高いものもあります。価格帯によって課題は異なってくるのではないでしょうか。
ラオ いろいろな業界がある中で販売手法は当然違います。棚の配置を自動化したい企業もあればデジタルカタログを充実させたい企業もあります。Consumer Goods Cloudの最初のケイパビリティー(強み)はリテールのエグゼキューションなので、どちらかというとFMCGに向いているといえるかもしれません。しかし、今後リリースを続けていく中では機能を追加し、高級品にも対応したいと考えています。Salesforceでは業界別プラットフォームを提供する中で、サブバーティカルという形で、さまざまな要件をいただきながら進化させています。
――売り場の問題は直営店でない限り消費財メーカーだけではなかなかコントロールしにくいところもあると思います。Salesforceには小売業向けのソリューションもありますが、店舗が持つシステムとConsumer Goods Cloudを連携させることも考えられるのでしょうか。
ラオ 市場や国によって課題はさまざまですが、小売とブランドは互いに良い関係を築く必要があります。小売店との密な連携やコミュニケーションは重要です。
POSなど共用すべきデータがあれば、もちろんつなげることはできます。システムの連携を取るために重要な役割を果たすのが、Salesforceが2018年に買収したMuleSoftの「Anypoint Platform」と、そこから生まれた機能である「Salesforce Customer 360」です。連携に当たっては適切なオペレーションに標準的な形でデータを取り込んでいくことが重要になります。これをよりスマートな形で実現していきたい。
――他社との連携もさることながら、社内をどうつなぐかも大事ですね。いわゆるOMO(オンラインとオフラインの融合)は大きなトレンドですが、マーケティング部門が戦略を立てる上でも店舗からのデータは重要になると思われます。
ラオ おっしゃる通りです。実際、お客さまからもそのような声をいただいています。例えば新商品のキャンペーンをどこの店舗から始めればいいかというとき、戦略としては売り上げの高く見込める店を優先させたい。Consumer Goods Cloudで、発射したメールの反応がいい地域か悪い地域かが分かれば、店舗担当者はそれに基づいた訪問計画を立てられます。既にそういう議論は始まっています。
――Salesforceには「Marketing Cloud」「Commerce Cloud」「Service Cloud」など、さまざまなソリューションがあります。それらをSalesforce Customer 360で統合することで、関係者が同じデータを基に顧客にとって最適な施策を考えられるのでしょうか。
ラオ 私たちの立ち位置として、B2BからB2Cまでを網羅したソリューションを提供しているベンダーはSalesforceしかないと考えています。ブランディングからマーケティング、広告、メディアのコスト最適化など全てを網羅している。これらと連携してConsumer Goods Cloudが扱うことができる世界というのは、非常に大きなものであると考えています。ロイヤルティー施策など全てをコネクトしていけるし、B2Cのプロセスから取得したデータをB2Bに生かすことも考えています。
リテールエグゼキューションは一部にすぎません。3カ月ごとに新たなケイパビリティーを追加し、将来に向かって実現できることは広がっていきます。それが同じテクノロジーでできることが重要です。
――新たに生まれる課題に柔軟に対応し、負の遺産を背負うことなくシステムを更新していく上で、Salesforceが提供するSaaSという形態が大きな意味を持つことになりそうですね。ところで、多くの消費財にとって店舗が依然として重要なチャネルであるのは間違いありませんが、消費財メーカーのビジネスの在り方もどんどん変わってきています。EC化が一層進んで店舗の役割が単なるショールームになったり、また店舗の無人化などのトレンドが本格化することさえも将来的には考えられると思います。そうなると、そもそも人が店舗を巡回する必要がなくなっていくことも考えられないでしょうか。
ラオ Consumer Goods Cloudの最初のリリースは現場担当者にベネフィットを享受してもらえることを重視しており、当分はここがビジネスのオポチュニティーとして大きなものであり続けると考えています。
先進国は少し早いかもしれませんが、Amazon Goのようなハイテクの店がROIに見合うものになるのはまだまだ何年も先の話でしょう。ただし、いつか将来のある時点でそれらがコストに見合うものになったら、仕事の中身そのものが変わってくるということはあるかもしれません。また、将来的に成熟した市場で消費財メーカーが店舗を回るスタイルからEコマース中心に移行するタイミングが来るかもしれませんが、いずれにしても一番大事なのは、新たなサービスができても、それが統合されることによって、お客さまに良い体験をしていただけることだと考えています。
そのために重要なのは、新たに生まれるケイパビリティー同士をつなげられることなのです。
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