店舗の商品棚の前で撮影した写真を機械学習で画像認識し、在庫状況や商品棚上のシェア、 品切れ情報などが簡単に確認できるようになる。
デジタルトランスフォーメーションは消費財(CPG:Consumer Packaged Goods)メーカーにとって、財務やサプライチェーン、最終消費者とのやりとりに至るまで、ビジネスのさまざまな部分で大きな影響を及ぼす。eコマースのインパクトも大きい。しかし、デジタル化が大きく後れている場所がある。それが、店舗の中の「棚」だ。大半の消費財の売り上げはほとんどが物理的な店舗から来ているのに、ここだけがデジタル化されていない。これは大きな課題であり、チャンスでもある。
この課題に挑むのが、小売業向けにデジタルマーケティングサービスを提供するベンチャー企業のTraxだ。同社は2019年7月11日、東京・渋谷のTRUNK(HOTEL)でプライベートイベント「Trax Innovation Day World 2019」を開催し、日本市場への本格参入を発表した。
Traxは、日用品や飲料製品など店舗の商品棚を撮影した画像を分析しデジタル化できるサービスを、Coca-ColaやProctor & Gambleなど大手を含む消費財メーカーや小売業者向けに提供している。
これを使うことにより、在庫状況や商品棚上のシェアを可視化し、品切れ情報などが簡単に確認できるようになる。さらには商品のラベルの向きや適切な場所、値段のタグなども確かめられるので、実績に応じてそれらを適宜改善し、SKU、ブランドおよびカテゴリーの各レベルでより効果的なアクションを促進することで、効率的に売り上げを伸ばすことができる。
TraxでAPACマネージング・ディレクターを務めるナダブ・イタック氏は「Traxは店舗の中に『目』を入れることができる。棚の視認性を上げて画像で捉えた棚を分析一元管理することで、正確かつ次のアクションにつながるデータをお届けできる。また、ストアオーディット(店舗監査)の時間を大幅に削減し、その分営業担当者は営業活動に注力できる」と語る。
消費財メーカーはこれまでも、店舗内のデータを見るために、仕入れやPOSのデータを見てはいた。しかし、店舗に何が入ってくるか、何が出ていくかは分かっても、実際に棚で何が起こっているかは分からない。これを補完するために営業担当者が目視で棚を確認したり、調査会社のデータを購入するということもやってはきたが、それらの取り組みは即時性という点で限界があるし、正確さや網羅性を追求すればするほどコストがかかるのが難点だった。
TraxでCPGソリューション責任者を務めるシャビット・クリン氏は、同社が提供するサービスを次の3つの要素に分けて説明した。
Traxではスマートフォンで棚の写真を撮影し、それを機械学習による画像認識やAR(拡張現実)などの技術と組み合わせることでデジタルデータを取得する。従来、店舗の棚の状況を把握する作業は手間も時間もかかるものでであったが、この仕組みを活用することで、営業担当者やマーチャンダイザー(MD)の負担を大幅に軽減できる。オーディットに関する専門知識を持たないパートタイムの従業員やトラックのドライバーなどのリソースを活用したり、作業そのものをクラウドソーシングに委ねたりすることも考えられるという。スマートフォンの他にも固定カメラとIoT技術の要素を組み合わせた手法も用意している
次に、取得したデータからインサイトを得なければならない。クライン氏によれば、Traxのようなサービスを活用すると、例えばコンビニエンスストア1店舗で約7000のデータポイントができる。Traxでは膨大なデータから読み解くべきことを分かりやすくビジュアライズし、データ分析の非専門家でも簡単にデータにアクセスできる仕組みを提供している。もちろん、顧客データや出荷データなど他のデータソースと統合するための仕組みも用意する。
データを取得して現状を把握し、何が課題かインサイトを得たとしても、それに対してどういうアクションを取るのかが分からなければ意味がない。そこで「Trax Retail Advisory」というカスタマーサービスプログラムを提供し、専門チームが店舗ごとに異なる課題に合わせて現場で実行可能なアクションプランの策定に関わる。
シンガポールに本社を構えるTraxは、イスラエルを拠点に研究開発を進めつつ欧米、アジア、中東など世界各国に営業拠点を拡大している。同社はコンサルティング会社のDeloitteが発表するテクノロジー企業の成長率ランキング「Technology Fast 500」やビジネス誌『Red Herring』が選ぶベンチャー企業ランキング「Red Herring Top 100 Global」に名を連ねるなど注目度も高い。
日本で新たに事業展開する理由としてイタック氏は「日本は先進国の中でも最も進んだ国の一つだが高齢化など市場にはいろいろな課題がある。消費意欲が停滞しており、小売業界では労働人口の減少が店舗施策にも影響を及ぼす厳しい状況だ。一方で東京オリンピックを目前に控えてインバウンドブームもある。小売業がビジネスを拡大するチャンス」と話す。
守るも攻めるも、日本の小売業界はまずデジタル化からということなのだろう。
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