企業はソーシャルメディアとどう向き合うべきなのか。あらためて考える。
「Twitter」や「Facebook」に加え「Instagram」「YouTube」「LINE」、そして「TikTok」など、ソーシャルメディアとカテゴライズされる領域にはここ10年ほどで多くのプレーヤーが加わった。これらのメディアに公式アカウントを持つ企業・ブランドも増え、今やソーシャルメディアはマーケティングコミュニケーションになくてはならない存在になった。
しかし、ソーシャルメディアの可能性や活用方法について、依然として疑問や迷いを抱く担当者も少なくないだろう。むしろコミュニケーションの手段が増えた分、課題は増えているとさえいえるかもしれない。
現在、ソーシャルメディア活用企業において担当者が何に挑んでいるのか。本稿では、アジャイルメディア・ネットワークが2019年7月10日に開催した「ソーシャルメディアサミット2019」におけるクロージングディスカッションの内容を基に、それぞれが抱える課題から企業のコミュニケーション活動の今後の在り方に至るまで、ポイントをまとめる。
登壇者はサントリーコミュニケーションズ デジタルマーケティング本部 部長の坂井康文氏、ローソン プロモーション部 シニアマネジャーの白井明子氏、シャープマーケティングジャパン デジタルマーケティング部の山本隆博氏の3人。モデレーターはおなじみの徳力基彦氏が務めた。
サントリー坂井氏のソーシャルメディアとの出合いは2006年にさかのぼる。ソーシャルメディアという概念がまだ浸透していなかった当時、広報担当だった坂井氏が着目したのがブログだ。ブログによる口コミの影響力がメディアに取り上げられるようになり、坂井氏はその事例を集めては部内で共有し、経営層にもブログの活用を提案した。
2008年には自社ブログを開始し、ブロガーイベントも自ら企画した。初期にハイボールをテーマにしたイベントを開催した際には、それをきっかけにハイボールに関するブログ記事件数が増え、その現象を紹介した主要紙の記事数も増加。これがさらなるブログ記事数増加へとつながった。
今となっては信じられないことだが、国産ウイスキーは当時に至るまで30年近く需要減少が続いていた。それが2009年に上昇に転じ、現在に至るまでの大ブームにつながるのだが、ブログがその一端となったのは間違いない。この一連の動きは社内外で認められ、その後も坂井氏は2011年にFacebook、2013年にTwitter、LINE、YouTube、2015年にInstagramで公式アカウントを開設するなど、率先してソーシャルメディアに取り組んできた。
ソーシャルメディアを持続的に活用する上で、社内における運用担当の組織化や人員増も着実に進めてきた。2017年4月には広報や宣伝、顧客サポートやデジタルマーケティング、CRMを担う機能会社サントリーコミュニケーションズが設立され、これを機に公式アカウントの運営は広報部門からデジタルマーケティング部門へと移管している。
ローソンのTwitter公式アカウントは2010年にスタートした。白井氏は上司から任命されて初代の運用担当者となり、以来ソーシャルメディアの活用に取り組んでいる。白井氏のファーストネームを採用したローソンの公式アカウントのキャラクター「ローソンクルー♪あきこ」は、「MarkeZine」の2018年度公式アカウント好感度調査で1位を獲得している。
ローソンは国内向けにはLINE、Twitter、Instagram、Facebookを使い分け、インバウンド目的では「Weibo」と「WeChat」にも公式アカウントを持っている。インドネシア、タイ、中国の各国でもソーシャルメディアアカウントを運用しており、幅広い消費者とのつながりを保っている。
ローソンでは「プレミアムロールケーキ」や「悪魔のおにぎり」「バスク風チーズケーキ」など、ソーシャルメディアをきっかけにしたヒットを何度も経験している。特に悪魔のおにぎりはマス広告を一切打たずに発売直後から話題になり、白井氏はソーシャルメディアの力を実感したという。同商品は発売から13日間で販売数が265万個を突破。これまで売り上げで独走していた「シーチキンマヨネーズ」を単日ベースで抜いた。
白井氏は、悪魔のおにぎりなどの成功は「商品力があってこそ」と強調する。商品力がなければどれだけコミュニケーションプランニングに長けていてもブームは起こらない。重要なのは高い商品力と正確性や信頼性に配慮した情報発信だというのだ。組織力を生かしたソーシャルメディア活用に向けて、白井氏は現在、新しい企画やアカウント活用を全社的にアドバイスする役割を担っている。
シャープのTwitter公式アカウント開設は2011年。それまで広告や採用を担当していた山本氏はアカウント開設時に担当を任され、以来1人で同社のソーシャルメディア運営を背負ってきた。
Twitterで「シャープさん」と呼ばれ大人気のアカウントになってからも、なかなか社内の理解が得られず苦労も多いようだ。上司に呼ばれて「このツイート何が面白いの?」と問い詰められることも1度や2度ではなかったという。転機が訪れたのは2015年、Twitterが行った調査で、シャープの公式アカウントはユーザーから高い好感度を獲得た。さらには購入の意思決定にも好影響を及ぼしていることが分かった。
山本氏は自らを商店街の「八百屋のお兄さん」に例える。店頭に立つ八百屋のお兄さんは通りがかりの買い物客に道を尋ねられたら教えてあげるし、天気のことなど世間話もする。会話の中で「キャベツが欲しい」というお客さんがいればキャベツを売るが、頼まれもしないのにいきなり売りつけるようなことはしない。
以前はいかにツイートすれば拡散するかを考えていた山本氏だが、上記のような考えから今は「どれだけお客さんの近くで話せるか」を重視している。
シャープさんの元には日々膨大なリプライが寄せられるが、山本氏は基本的にその全てに返信している。ツイートの内容は変化しており、2013年頃はシャープさんへの応援のツイート、2015年頃にはシャープ製品の購入報告ツイート、そして今では家電製品の購入相談まで寄せられるようになっている。ラインアップのないジャンルでは他社製品を案内することもあるのがシャープさん流だ。
「会社組織からはみ出すことで、お客さんとの距離が縮まる。お客さんに近づくためにシャープ社員を半分辞めている」と山本氏は語る。実際に辞めたわけではないにしても距離を置いて会社を見ることで会社側の論理を排除し、顧客の利益最優先で動くことが関係構築に重要だと山本氏は考えている。
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