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» 2019年05月14日 07時00分 公開

「デジ損」から会社を守る 第2回:パーソナライズはコンテンツがいくらあっても足りない? 効率よく始めるための考え方を紹介します

パーソナライズでデジ損を防ぐといっても、果たして何から手を付ければいいのか。今回は、セグメントに関する基本的な考え方「PIEモデル」について説明します。

[安部知雄,サイトコア]

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「デジ損(デジタル機会損失)」とは何か

企業のWebサイトには日々、多くの訪問者が何かしらの目的をもって、何度も訪問しています。しかし、多くの場合、表示されるコンテンツはいつも同じなので、訪問者に関連性が低く琴線に触れないコンテンツを表示してしまうことになります。これでは訪問者の興味を喚起することができません。訪問者はサイトから離脱するでしょう。結果的に企業は、ビジネスへとコンバージョンするチャンスを逸してしまうことになります。このことをわれわれはデジタル機会損失=デジ損と呼んでいます。


 デジ損(Webサイトでの見えない機会損失)を防ぐためにパーソナライズが重要とはいえ、サイトの訪問者全てにパーソナライズしたコンテンツを提供するのは現実的ではありません。無理にそれをしようとすれば、いわゆる「コンテンツ地獄(何を誰のためにどれだけ用意したら良いか分からなくなる状態)」に陥ってしまいます

 今回は、有効な「パーソナライズ」を始めるに当たっての具体的な取り組み方として「PIE(パイ)モデル」を紹介します。これは、自社のマーケティング施策や、そこから流入してくる見込み客を3つに分類し、特定できたセグメントに注力して施策を進めるという考え方です。

顧客体験(CX)の大きな役割を担うコンテンツ

 前回、Webサイトの使いにくさが離脱につながり、究極的には機会損失(デジ損)に至るという実情について紹介しました。

 皆さんもどこかのWebサイトにおいて、リアル店舗だったらクレームになるような残念な体験を一度はしているはずです。デパートやスーパーマーケットで売り場を移動する度に同じ店員から「どのような柄がお好みですか」と何度も聞かれたり、いつも赤を購入しているのにちっとも覚えてもらえず毎度白の商品から提案されたりすれば「店長を呼びなさい」と言ってやりたくなるのではないでしょうか。

 コンテンツは、顧客体験(CX:Customer eXperience)において大きな役割を担っています。顧客が昨日あるいは先週、あるいは今この瞬間、ブランドとどのように接点を持ったかというコンテクスト(文脈、背景、意図)に基づいたコンテンツを提供できなければ、顧客の関心はすぐに冷めて、サイトを離れてしまいます。

 上の例でいえば、赤色の商品を見せてもらうために前回同様の情報をインプットして何度もクリックしなくてはいけないようでは、すぐに他社に乗り換えられてしまいます。

 同じ業界の競合他社に乗り換えられるという狭い理由だけではありません。Webやモバイルの使いやすさへの顧客の期待値は、業種問わずありとあらゆる分野において、どんどん上がってきています。そのため、ちょっとした良くない体験が、大きな不満につながってくるのです。

パーソナライズがLTVを増大させる

 繰り返しになりますが、デジ損を防ぐには何よりもユーザーに不快な体験をさせないことです。そのためにはパーソナライズが欠かせません。せっかくWebサイトを訪問してくれたユーザーに向けて、個々に最適な情報コンテンツを最適なかたちで提供するのです。

 まずはアクセスの流入元となったWebサイトの内容や検索ワードなどからユーザーの属性を判断しましょう。そして、そこから自社サイトに求められている情報を予測し、適切なコンテンツを表示させるのです。そのとき、ユーザーが利用しているデバイスに合ったレイアウトに落とし込むことも忘れてはいけません。

 このようにして適切なパーソナライズが提供できれば、サイトの訪問者に興味を持ってもらい、より長くサイトに滞在してもらい、相手が必要とする情報を提供することができます。その過程で徐々に育まれていくのがエンゲージメントです。

 エンゲージメントは、顧客のロイヤルティーを高めるとともに、顧客生涯価値(LTV:Lifetime Value、一人の顧客が生涯にわたって企業にもたらしてくれる価値の合計)向上の前提となるものです。パーソナライズに向けた取り組みがいかに重要であるかが、お分かりいただけるかと思います。

「PIEモデル」を活用する

 しかし、だからといって全ての訪問者に対して個別に最適化したコンテンツを提供するのはさすがに無理があります。日本人の気質なのか、これをやらなければいけないと考える人が少なくありませんが、最初から完璧を追い求めると、全てのコンテンツが完成してようやくパーソナライズし始める頃には、そのパーソン(顧客)はもういなくなっているかもしれません。

 大半のマーケティング担当者はパーソナライズがもたらす利点を理解していますが、そのために必要になる作業が多過ぎることに圧倒されてしまっています。まずは最初の一歩を踏み出すことが肝心です。

 そこで、作業に時間をかけずにパーソナライズの効果を得られるようにするための手法として私たちが推奨するのが、顧客セグメントを分類してパーソナライズの対象者を特定する「PIE(パイ)モデル」です。PIEモデルでは、各セグメントを次の要素で評価します。

  • P(Potential:潜在価値):体験をパーソナライズすることで、どのくらいエンゲージメントを向上できるか。あるいは、主要なKPIにどの程度のインパクトをもたらすのか。
  • I(Importance:重要度):そのセグメントに何人の訪問者が含まれるか。セグメントの規模が大きいほど、より大きな成果が得られる傾向がある。
  • E(Ease:容易さ):ある訪問者がそのセグメントの該当者であることをどれだけ簡単に判断できるか。Webサイトにその訪問者が来訪した瞬間に誰かを特定することができるか。

 サイトコアでは、まず上記3つのPIE要素のうち2つ以上を満たす顧客セグメント向けにコンテンツをパーソナライズすることを推奨しています。

 最も可能性のあるビジネス価値を表していて、規模が最大で、重要性が最高のセグメントを識別できたら、各セグメントのパーソナライズに必要な作業量を検討していきましょう。この手順を踏むことで、無理のない取り組みができるようになります。

 初めてのパーソナライズはこのPIEモデルを使って、簡単かつ小さなところから始めてみることをお勧めします。失敗と改善を繰り返し、小さな成功を着実に収めていくことで、気付きも得られるでしょうし、より洗練されたパーソナライズ施策の実現に向かっていくことができるでしょう。

顧客セグメントの分類

 次回は、訪問回数に応じたパーソナライズの施策について紹介します。

執筆者紹介

安部知雄サイトコア マーケティング グループ アジア地域担当本部長。国内大手鉄鋼メーカーで世界各国への機械販売に従事。世界市場におけるマーケティング力やコミュニケーション力の重要性を再認識し、マーケティングコミュニケーションエージェンシーへと転職。外資系企業の日本参入を多数支援し、クリックテック・ジャパン立ち上げにも携わる。2016年5月より現職。


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