グローバルに運営拠点をまたぐ巨大Webサイトを再構築するのは並大抵のことではない。富士通はそれをいかに成し遂げたのか。サイトオーナーとシステム構築・運用者が、それぞれの立場から語った。
企業のWebサイトは顧客と直接つながるための重要な接点の1つだ。一方で、B2Bの観点でいえば、営業部門やパートナー企業の活動を促進するツールとしての役割も担う。また、世界各国で事業を展開するグローバル企業ともなると、社内向けだけに限っても膨大なコンテンツを抱え、その運営者も多拠点に散在することになる。
富士通の社内ポータルサイトは社内の274部門がサイトオーナーとして関わり、保有するコンテンツ数は約25万ページにも上る。同社では2017年、これを全社・全拠点において共通ポリシーの下で展開すべく、社内ポータルサイト再構築を断行した。
2018年5月18日に開催された「富士通フォーラム2018東京」では、リニューアルを担ったサイトオーナーとシステム構築・運用者が、それぞれの立場から内幕を語った。本稿ではその概要を紹介する。
「グローバル企業における情報発信基盤再構築のポイント Sitecoreをベースとした富士通のWebサイト再構築事例」と題したセッションで最初に登壇したのは、富士通システムプラットフォーム技術本部企画統括部シニアマネージャーの絹田昌子氏だ。絹田氏は富士通の社内向けポータルサイトおよび顧客向けのプロダクトサイトの企画運営を担当している。
今回、再構築の対象となったのは、社内の営業担当者やシステムエンジニアが顧客に最適な提案をするために利用する「拡販・技術情報サイト」だ。同サイトの利用者は約3万人。先述した通り、25万ページのコンテンツを抱え、サイトオーナーも多い。
同サイトにおいては、営業やSEの利活用を促し生産性を高め、一方でコンテンツ提供部門の運用効率化と負荷軽減が求められていたが、従来の各部門による運用では限界があるのが明らかだった。
まず、各部門が個別最適で独自に運用ルールを定めていたため、見た目もサイトの構成もバラバラだった。そのため、サイトを横断して情報を探す際、必要なタイミングで必要な情報を入手できない。また、モバイルデバイスに未対応であったり、ニーズの異なる利用者にも画一的な情報発信しかできないといった課題もあった。
これらの課題を解決するために各部門の関係者を集めたワーキンググループが結成された。その中で絹田氏がリーダーを務める「サイト検討会」が情報発信の在り方を検討し、大まかな方向性を決めた。また、「移行検討会」「ガイドライン検討会」「ポータル企画」と、テーマ別にサブ会議を設け、具体的な内容はそこで検討した。関連部門が多く合意形成が大変だったが、執行役員が主査を担う「ステアリングコミッティ(略称:ステコミ)」が最終的な意思決定を担うことで、寄り合い所帯のプロジェクトを推進することができたという。
2015年にサイト検討会が立ち上がり、要件整理と設計にかかった時間は実に1年半。要件整理のポイントとして最も重視したのは「常に利用者起点であること」だ。プロトタイプを開発し、利用者である営業やSEに徹底的にレビューしてもらい、フィードバックを得て要件を固めていった。その結果、運営作業を部門間で共通化して効率化を図り利用者に最適な情報をプッシュできるようにする、閲覧権限に応じて正しく情報を出し分ける、さらに効果測定や改善を部門横断で行えるようにするといった方向性が固まった。
これらの方向性を実現するために3つの解決策が導き出された。1つ目が、富士通のサービスとプロダクトの全体を網羅する情報を発信する新しいポータルサイト「さびぷろ」の構築。2つ目が、共通のレイアウトテンプレートを作成してプロダクトサイトのデザインを統一すること。3つ目が資材名や単語を統一するガイドラインの策定と実装だ
さびぷろでは、顧客の課題やニーズから製品情報へ誘導し、別サイトに遷移することなくワンストップで情報収集が可能になった。また、所属部署や利用者ごとのニーズに応じて最適な情報をプッシュ表示できるようパーソナライゼーションを実現。さらに統一テンプレートで、どの製品でも同じUXにして使いやすさを増した。また、商談フェーズ別に情報を整理し、どこからでも利用できるよう、スマートデバイスにも対応した。
意識したのは、各サービス・プロダクトの担当部門における個別最適ではなく、全体を俯瞰する視点だ。ベースとなるコンセプトは3つの「ONE」。1人1人にお薦めの情報を表示(One for One)し、1つの情報を統一的に提供(One Information)し、目的のコンテンツへダイレクトにアクセス(One click)できるようにすることだ。
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