中小企業向けのマーケティングオートメーション(MA)ツールとして多くの企業に支持される「HubSpot」。市場で存在感を増している理由を、さまざまな観点から紹介する。
インバウンドマーケティングを体現する中小企業向けのマーケティングオートメーション(MA)ツールとして、世界90カ国以上で3万4000社に導入されている「HubSpot」。この連載では、同ツールがなぜ多くの企業に支持されているのか、なぜ市場で存在感を増しているのか、さまざまな観点から紹介していきたい。
第1回は、開発・販売元であるHubSpotを支えるカルチャーについて迫る。HubSpotは各種調査において「働きやすい会社」としてトップクラスにランクインしている。
働き方改革やワークライフバランスなど、多くの日本企業が喫緊に取り組むべき課題となっている今、同社のやり方は参考になることだろう。
HubSpotを設立したのは、ブライアン・ハリガンとダーメッシュ・シャー。2人は2004年にマサチューセッツ工科大学(MIT)のビジネススクールで出会った。ブライアンは、スタートアップのマーケティングを手伝っていた際に、従来のダイレクトメールや一斉配信のメール、テレアポなど、相手の時間を中断させるような古いマーケティング手法はもう効果がないと気付く。
2人は「嫌われないマーケティング」を目指してインバウンドマーケティングという考え方を提唱した。それは、かつてロックバンドのGrateful Deadがライブの録音やコピーを許し、より多くの人に聞いてもらうチャンスを獲得し、ファンを増やしていった手法を現代版に置き換えたような考え方だった。
ご存じの通り、同社はブログやダウンロード資料など豊富なコンテンツを無料で提供している。「先にgiveして、後から顧客になってもらう」という考え方だ。
インバウンドマーケティングの考え方と同じように同社を支えているのが、「カルチャー」だ。同社の「カルチャーコード」は、128ページに及ぶスライド(外部リンク)にまとめられている。この中では、以下の内容について詳しく記されている。
「常に顧客のためになることを考える」「結果が全て」「働き方は自由」といった同社のカルチャーは、プロダクトや販売方法にも表れている。
カルチャーが製品にどのように反映されているか、ということについては第2回で紹介するので、今回はカルチャーと働き方についてフォーカスしたい。
HubSpotでは、働く場所、働く時間などに制限はない。どこで働いてもよく、オフィスに来る必要はない。休暇は無制限で、旅行先で仕事をしてもよい。夢のような職場であるが、こうした働き方を支援する環境やツールを会社が提供している。
業務の流れも、自由な働き方に最適化している。一般的な企業であれば、見込み客から問い合わせがあれば、すぐに営業に行くだろう。しかし、HubSpotでは、最初の営業から最後の契約まで全てオンラインで行う。それが例え隣のビルの会社であってもだ。「外出しない営業」を徹底しているのだ。米国は国土が広く、HubSpotの主なターゲットが中小企業であるという事実も影響しているが、メールやチャット、ビデオ会議、オンラインの見込み客管理などのツールを最大限に活用したHubSpotのスタイルは、次世代の営業スタイルということができるだろう。もちろん、営業にはノルマがあり、それを達成する必要はあるが、外出のための移動時間やコストが削減されるので、営業効率は非常に高い。
HubSpot社内でのパフォーマンス評価においては、新規顧客獲得と併せて継続率が重視される。故に営業は売って終わりではなく、継続して利用してもらうために、活用状況についてクライアントと毎月1回程度のミーティングを行うなど、フォローアップしている。
また、現時点では正式には採用していないものの、「カスタマーハピネスインデックス」という顧客の満足度の評価基準も考慮している。ブログやEブックなどを活用したインバウンドマーケティングで獲得した見込み客をオンラインのコミュニケーションを通して育て、契約し、サポートする。この一連の流れを実現するのが、MA製品であるHubSpotおよび「HubSpot CRM」だ。経営思想とプロダクト、営業スタイルが一貫しているというのは、見事である。
なお、HubSpotでは、販売代理を行うパートナー制度を重視している。パートナー企業は全世界で3400社に上り、Hubspot導入企業の20%がパートナー企業の顧客となっている。パートナーの評価においても、重視しているのは継続率だ。パートナー制度については連載の第3回で詳しく紹介する。
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