顧客の過去・現在・未来のエクスペリエンスは「データ」を媒介にして1本の「時間」の軸で長くつながって行く。全ての産業がサービス業化する時代のマーケティングとはどうあるべきなのか。
スターバックスの「The Third Place 」(オフィスでも家庭でもない第3の場所)やディズニーランドの「Where Your Dreams Come True 」(夢がかなう場所)に代表されるように、これまで、エクスペリエンスの提供は体験の「場」にフォーカスしてきました。しかし、いったんIoTが導入されると顧客の過去・現在・未来のエクスペリエンスは「データ」を媒介にして1本の「時間」の軸で長くつながって行きます。そして、このことは全てのインダストリー(産業)がカタチを変えて、サービス業になることを示唆します。顧客のエクスペリエンス、すなわちブランド体験価値が変わりゆく中、マーケターはどうするべきか。エクスペリエンスデザインの専門家と読み解いていきましょう。
※本稿は朝岡崇史『IoTビジネスモデル革命』(ファーストプレス)から一部の内容を抜粋・編集して転載しています。
例えば「自動運転サービス業」という新規ビジネスにおいては、クルマは特定の個人が所有するものではなく、社会の公共財として共有・管理し、頻繁に利用されることによって初めて価値が生じる、という共通認識がある。また「スポーツトレーニングサービス業」では、センサー内蔵のシールやBluetooth通信デバイス、生体データを可視化するタブレット端末などモノ単体に価値があるのではなく、エクスペリエンスとデータを統合し、一気通貫したトータルのサービスの形になって初めて価値が生まれるのである。
企業のマーケティング戦略を研究する立場から、こうした新しいムーブメントをいち早く看破したのが「サービス・ドミナント・ロジック(Service Dominant Logic)」(『マーケティングのための新しい支配的論理の進展』バーゴ・スティーブン・L、ロバート・F・ルッチ著、Journal of Marketing Vol.68、2004年)である。「モノかサービスか」を二分法で考えるのではなく、お客さまとの価値の共創が起きることを前提にして、モノとサービスを1つの塊として捉えることに特徴がある。「サービス・ドミナント・ロジック」は製造業のサービス化や、モノとサービスを一体化させ、お客さまが買った後の使用価値や経験価値を高めることを主張しているという点で、エクスペリエンス2.0の『経験経済』や『経験価値マーケティング』の考え方とも相通じるものがある。提唱者であるバーゴ・スティーブン・L、ロバート・F・ルッチらが後年の論文(2008年)で指摘しているように、『経験経済』は「サービス・ドミナント・ロジック」の最も重要な概念の1つである、と考えることもできる。
また、「サービス・ドミナント・ロジック」は次回で解説する「シェアエコノミー」や近年、注目を浴びつつある「サービスデザイン」いうビジネストレンドの理論的な背景になっていることはぜひ押さえておきたい。
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