成長が続く一方でネガティブに語られることも増えてきたアドテクノロジー。2016年はどうなるのか。広告主側とパブリッシャー側双方の事情をよく知るマイクロアド COMPASS事業部 部長 福田裕也氏が解説。
マイクロアドがDSP(デマンドサイドプラットフォーム)とSSP(サプライサイトプラットフォーム)をリリースしたのは2011年。2016年で6年目を迎えます。興亡の激しいインターネットの世界で、広告主、パブリッシャー双方にとって「当たり前」の仕組みができたこと自体は、あらためて考えても大きいことだと思います。
デマンド側とサプライ側で多少事情は異なりますが、この1、2年でアドテクノロジー関連の会社は多岐にわたり、データを活用した広告配信やプレミアムなメディアに配信するPMPなど、今ある仕組みにひと手間加えるような、さまざまなプレイヤーが出そろってきています。2015年は特に、動画広告にネイティブアド、データフィードなど、さまざまな広告フォーマットが動き始めました。
しかし、アドテクノロジーに対して半信半疑な方も多いと思います。中には既にネガティブに語られ始めているものもあるようです。
とはいえ、アドテク領域の各プロダクトが過去のさまざまな課題を解決するものとして生まれたものであることは、間違いありません。
例えば動画広告は、広告主にとってバナー一辺倒だった広告表現そのものを変える新しいアイデアであり、「邪魔なもの」「間違えてクリックしてしまうもの」といったネット広告にまつわる固定観念を引き剥がす手段になり得るものです。さらにメディアにとっては新たな収益源となる可能性を持っていますし、動画の内容次第では広告の力でユーザーの興味を引く可能性もあります。
データフィードも、リターゲティングによる「押し付けバナー」から「提案型バナー」へと変化していく過程で重要なテクノロジーといえます。
アドテク市場をとりまくネガティブワードを耳にする機会は少なくありませんが、見方を変えれば、それだけ多くの企業がそれらを導入し、感じた意見を率直に語るようになっているからでもあります。業界にとっては、テクノロジーが普及し、それ故にネガティブワードがあふれるようになった今こそが変革期であり、次のステージにいくことができる企業とそうでない企業との分かれ道に立っていると感じています。
やや大げさに書きましたが、デマンド側とサプライ側両方に携わってみて感じたのは、さまざまな広告フォーマットやテクノロジーを浸透させていく上では、お互いをもっとよく知る必要があるということです。
これまではアドテクノロジーそのものが新しかったため、それぞれが独立していても、ある程度満足のいく成果が出ていましたし、双方が協力をすることに否定的な風潮がありました。しかし、当初のアドテクの売りであった「枠から人へ」があらためて「人から枠へ」へと見直されていくとともに、広告主はメディアを、パブリッシャーは広告を、それぞれより深く理解していかなればならないフェーズに入ってきています。
広告主であれば、どんなところに広告配信することが良い結果を生んでいるのかという点は“何となく”把握できていると思います。しかし、その配信先がどのようなメディアであり、どういうユーザーをターゲットにしているのか、なぜ良い結果が出ているのといったところかまで深掘りできているケースはまだ多くありません。
一方で、パブリッシャーサイドも“何となく”よく出ている広告は分かっているものの、なぜその広告と自社サイトの相性がいいのかといったところまではなかなか把握できていないのが実情です。
その理由が分からなくても自動的にデマンド、サプライ両方の要望を満たす(≒それぞれのKPI到達を目指す)ことができるのがDSP/SSPの強みとはいえるのですが、例えばデマンドサイドでいえば、現時点で満たすことができているのはCPA最適化、いわゆる「刈り取り」をするケースばかりで、ブランド訴求やユーザーの興味を喚起するような訴求を行うケースで満足のいく結果が出ているかと問われると、まだまだ活用の幅が狭いといわざるを得ません。第2回「ネット広告は“リターゲティング無間地獄”からどう脱却するか?」でお伝えしたように、市場拡大という意味でリターゲティング一辺倒ではなくデータフィードを活用したオーディエンス拡張の配信や動画広告ができてくることが望ましいといえますが、お互いに相手の特性をよりうまく活用することができれば、もっと有効な広告配信が可能になると考えています。
DSPのデータのほとんどがリターゲティングにしか使われていないのは、広告主側のKPIにまず最大限注力するため仕方がないかもしれませんが、限界もあります。ユーザーがどこのサイトを見ても同じ広告にを追い回される「リタゲ地獄」になればなるほど効果は薄れてしまいます。今後、パブリッシャー側のデータを活用していくことでより最適な配信ができれば、RTBによる広告取引自体の拡大も期待できるでしょう。
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