販促? ブランディング? 目的によって情報を出し分けよう! メルセデス・ベンツ、日本とイギリスの事例から見る動画活用リッチコンテンツ・マーケティング情報局

昨今、動画を活用したプロモーションは、ただ配信するだけではなく、多様な表現方法で見せる事例が少なくありません。しかしその反面、ただ面白い仕掛けをするだけで、ユーザーの興味を引けるわけではないのです。重要なのは、「販促なのか」「ブランディングなのか」、動画を見せる目的に合わせて情報の出し方を変えることです。今回は、同時期/同じ製品にもかかわらず、国によって全く違うプロモーションを行なったメルセデス・ベンツの最新動画事例から、動画プロモーションのポイントをご紹介します。

» 2013年02月05日 16時15分 公開
[京ヶ島咲,リッチコンテンツマーケティング情報局]

 メルセデス・ベンツ社は2012年秋にベンツの新型Aクラスを発売しました。日本でも2013年1月より発売と発表しています。ベンツAクラスは、「高級車」としてのイメージの強いベンツの中でも、ファミリーや若者向けに手の届きやすい価格と充実した機能のバランスとれたエントリーモデルとして、1998年頃より発売されています。

 グローバルに展開する同社のプロモーションで今回取り上げるのは、イギリスと日本での取り組みです。どちらも若年層に向けたプロモーションであり、車という製品の特性上、製品の動きを動画で見せて訴求しています。しかし、イギリスと日本では訴求目的が異なるため、全く違った見せ方をしているのです。

TVCM×Twitterで参加感を高め、購入検討に必要な情報を深く訴求〜メルセデス・ベンツ イギリス〜

 イギリスで展開されたのはAクラスであっても高性能さが伝わるようなスタイリッシュなインタラクティブムービーです。生産国であるドイツ以外のヨーロッパ地域でもベンツは一般的に普及している自動車です。イギリスではベンツのロンドンバスが走っています 。

 イギリスでのプロモーションの目的は、「購入検討層へ向けた販売促進」です。車の販売においては、購入フォームへ向けた導線があるわけではないため、テレビCMやインターネットが直接の購入に至ることは難しいのですが、ユーザーによる展示場への来場や問い合わせ連絡の一助として今回のプロモーションに取り組んでいるといえます。このプロモーション動画は、小回りのきく走りやサンルーフがついていることなど、製品の機能紹介を中心に制作されています。

 動画のストーリーを少し説明します。主人公は人気ミュージシャン。シークレットライブ開催にあたって、彼の動向にファンやテレビ番組のリポーター、警察が注目しています。ローディー(ライブスタッフ)と思われる女性の運転する新型Aクラスで追いかけてくる人々から街中を逃げまわります。

 画像はYouTubeで公開されているものですが、実はこの動画、もともとはTVCMで放映されました。番組と番組の間に配信されるCMで新型Aクラスの動作のスムーズさや機能を見せながら、CMのラストにこの続きにはどのような内容が見たいかを問いかけ、Twitterのハッシュタグ「#YOUDRIVE」で視聴者に投稿してもらいました。

 国民の半数がTwitterユーザーであるイギリス。特に若い世代は、ほとんどの視聴者がテレビを見ながらソーシャルメディアをする傾向があるという調査が出ています(※1)。こうしたユーザーに対し、Twitterを活用したユニークなプロモーションを行うことは非常に有効と考えられるでしょう。

 新型Aクラスは前述の通り、若者たちが比較的手軽にハイクラスの機能を備えた車を持つことができるような価格設定になっています。テレビ番組とTwitterを連携させることで、自らが能動的にテレビのストーリーを決定することに参加できるという新たな試みとして、話題になりました。

 また、イギリスの国民性には「伝統を重んじつつ、新しいことを創り出していく」という面があります。昔ながらのイギリスの街並みを走る新型Aクラスを先進的な取り組みを介して視聴者へ見せることにより、「ベンツが面白いことをしている」「ベンツは進んでいる」「ベンツの新型Aクラスがカッコイイ」という認識をも与えているのではないでしょうか。

 ぜひ、YouTubeのインタラクティブ・ムービーを楽しみながら、新型Aクラスのスムーズな走りを体感してみてください。

ブランディングしきれていない日本の若者を取り込むために「アニメ」を活用〜メルセデス・ベンツ 日本〜

参考

NEXT A-Class


 一方、日本ではベンツのイメージを塗り替えるような画期的なプロモーションが展開されています。人気アニメメーション「新世紀エヴァンゲリオン」のキャラクターデザインを手がけた貞本義行氏と「プロダクションI.G」を起用したアニメーションの展開です。テレビCMによる全国展開のほか、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」のシネアドとして30秒CMを放映、インターネット上で公開している特設サイトへの呼び込みを行いました。

 日本市場でのプロモーション目的は「潜在顧客層へ向けたブランディング」です。同社および同社製品を認知してもらい、今後は購入検討層へと移行してもらえるような手段として、まずは興味喚起の動画コンテンツを展開したのです。“ベンツとアニメーション”といったセンセーショナルなコラボレーション、わくわくさせるようなストーリーや車のデザインを組み合わせることで、これまで関心が薄かった層へ的確にアプローチしています。

 近未来の東京で出会った3人が伝説として語られる謎のトラックを新型Aクラスで追いかけ、街を駆け巡るというストーリーです。6分程度の動画ですが、しっかりと作りこまれていて、疾走感や迫力に思わず見入ってしまいます。

 ベンツがアニメーション? と思う方も多いと思います。しかし、その「疑問符」こそ、同社の狙いだったのではないでしょうか。

 「若者の車離れ」などと言われて久しい日本の若年層、ベンツというと「高い」というイメージがあり、興味を示さなかったかもしれません。しかし、そういった若い層に人気のアニメーションを起用することで歩み寄り、関心を引き出せるようにしています。また、20代〜40代のインターネット普及率が90%を超えている日本(※2)で、CMからインターネットへ誘導してソーシャルメディアなどでシェアできるようにしたことにより、「ベンツが面白いことをやってる!」と、話題を作ることに成功しました。

 製品の機能を見せる場面もありますが、近未来の設定であるため、シートが回転して運転手が切り替わるなど、現実にはあり得ないスペックです。しかし、こうしたユニークな設定がまずはベンツに目を向けて興味を持ってもらうきっかけになったのではないでしょうか。

 現在もWebサイトで公開されていますので、6分間のワクワクドキドキをぜひ感じてみてください。

ターゲットへ的確に訴求するには

 どんなプロモーションでも、ターゲットとする属性のニーズや興味の高いものをきちんと知り、有効となり得る手段を持って表現することで、的確に訴求することが重要です。日本国内だけの展開でも、同じ製品を異なるターゲット属性(年齢や性別など)に訴求する場合、動画の内容や表現方法、見せる媒体なども変える必要があるのです。こんなターゲットに訴求したい! そんな気持ちのあるマーケティング担当者さん、ぜひ参考にしてみてください。

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