以下の記事は、前野智純著『キラーウェブ 儲かるウェブの裏側』の内容を再編集したものです
オイシックスの事業には2つの柱がある。1つは有機野菜や食品を販売する「Oisix」およびスイーツの販売に特化した「Okasix」で構成される「インターネット通信販売事業」。もう1つは、全国約400店の牛乳販売店と提携し、シニア層に向けて食品を販売する「店舗宅配事業」だ。
メイン事業はOisixである。こだわりの有機野菜をはじめとする商品力と買い物のしやすさで、現在急成長している食品ネットスーパーだが、日本における「体によい食材」の市場はまだニッチ産業に分類される。
食品販売の難しさは、さまざまな企業が過去に失敗を積み重ねてきたことを見ても、想像に難くない。記憶に新しいところでは、ユニクロの事例がある。同社の子会社が2002年に食品販売事業「SKIP」を開始し、同時にネット上でもSKIPストアを開設したことが話題を呼んだが、わずか1年半で撤退した。
食品販売ビジネスは、かのユニクロでさえ短期間で諦めざるを得なかった事業だ。現在、食品ネットスーパー単体で黒字を出している事例としては、オイシックスは世界で初めての成功事例といえる。
そんなオイシックスも、事業を立ち上げた当初は試行錯誤の連続だった。まずは「売る商品がない」という、意外な苦戦を強いられることになる。
当然だが、食品ネットスーパーを立ち上げるには、売るための商品が必要だ。しかし、2000年当時は、ネットの普及率もまだ低く、野菜をネットで売るという事例もなかった。生産農家に「インターネット」「Eコマース」などと言っても、言葉の意味から説明しないといけない状態だった。
生産農家とのつながりもなく、市場の段ボール箱に書いている電話番号をメモして、農家に直接電話したこともあった。最初は門前払いされることもあったが、何度も通ううちに少しずつ認めてもらえるようになった。
スタート当初の商品数は野菜20品。初年度は認知度もまったくなく、一日の注文が2〜3件という日もあったという。しかし、農家同士のネットワークや農業資材会社などに徐々につながりができ、商品点数が増えていった。その中で同社の認知度も向上し、2007年3月時点では月間の訪問者数が80万人、商品数は1570点にまで拡大した。
オイシックスのECサイトで特筆すべき点は、新規獲得に加え、多くのリピート客を獲得していることだ。同社が描く顧客化のフローは、初回購入時はまず送料無料の「おためしセット」を購入してもらい、そこからリピート、さらに定期宅配サービスの「おいしっくすくらぶ」に加入してもらうというものだ。
一度買った人が期間無制限でもう一度商品を購入することをリピートの定義とするならば、オイシックスの顧客は、実に40〜50%がリピートするという。これは驚くべき比率だ。そして、購入者の25〜30%が、おいしっくすくらぶに加入している。
なぜ消費者はそれほどの魅力を感じるのだろうか。その秘密は「徹底した顧客満足」に集約される。オイシックスの高島宏平社長の言葉にあるように「サービスの満足度が低ければ、どんなマーケティングを講じてもダメ」というポリシーを追求しているからだ。もちろんアクセスログの解析によるユーザーの行動分析には力を入れているが、それ以上に、満足度を上げる議論が必要であるとの考え方がある。
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