――マーケティングとPRの役割が近づいてくると、それぞれの担当者の相互理解の重要性が高まってくると思います。双方の役割が一致する部分としない部分について教えてください。
太田: PRもマーケティングも、最終的に経営に貢献するという目的は同じです。ただし、アプローチは違うと思っています。マーケティングに関しては、基本的にはステークホルダーの中でも顧客となる人を狙って直接働きかける行為です。一方でPRはそれだけではなくて、例えばメディアやインフルエンサー、専門家の方など、第三者を通じた情報波及も設計する。それと、PRはファクトをベースにしたコミュニケーションです。事実に立脚して第三者をコミュニケーションに巻き込むところが違うのかなと思っています。
――マーケティングのマインドセットだとありのままのファクトを出すより「いかに盛るか」を考えがちですが、PRはそれではいけないと。
太田: 企業としての誠実さがないと PRはなかなか難しいのではないかと思います。私はオーセンティシティー(真正性)という言葉が好きです。だましたり誇張したりするのではなく、あくまでノンフィクションで、光の当て方を考えて共感していただくことが重要ではないかなと思います。
――スタートアップなどではマーケティングとPRを兼任する人もいると思います。同じ人が同じような仕事をしていても、立場を間違えると、うっとうしいコミュニケーションになってしまいそうですね。
太田: 私は、マーケティングコミュニケーションもPR起点で設計した方がいいと思っています。伝統的な広告に関しても、注目を浴びるために派手な見出しやタイトルで釣るというより、オーセンティシティーを大事に、ファクトをベースで潜在ニーズに働きかけるコミュニケーションを取った方が、結果的にはうまくいくのではないでしょうか。
――生成AIの時代、検索してもAIが返してくれた答えで満足してしまいWebサイトに飛ばなくなるなど、人々の情報探索行動がまた大きく変わることが予想されます。AIの進化がPRにもたらす影響についてはどう考えていますか。
太田: プレスリリースを生成AIが書いてくれるとか、AIを活用して現在のPR業務の工数削減や自動化を進めるのはもはや必然でしょう。2〜3年後ぐらいを見据えたとき、 PRという枠組みがもしかしたら変わっていくのかもしれないので、今はAIを使った上でPRの価値をどう拡張していくのかを考えています。
PRをより上位の概念で捉え直したとき、マーケティングコミュニケーションだけでなく人材採用に使っていくという視点もあれば、PR Analyzerのようなツールから上がってくる世の中のインサイトをダイレクトに製品開発にフィードバックしていくということもあるかもしれません。
――誰もが生成AI に答えを求めるようになると、生成AI に学習されるデータをどうオプティマイスするかも重要になってくると思います。PRは第三者を通じた情報波及とおっしゃいましたが、その意味ではPR活動の対象としてAIも含まれていくのではありませんか。
太田: 学習するデータや参照する情報源の信ぴょう性をAIがどう判定するのかというのは、大きな課題だと思います。現状ではまだ怪しいところもありますが、企業視点では生成AIに学習してもらうための正しい情報を発信していくことが、これからますます重要になっていくでしょう。その意味でも、PRはオーセンティシティーに根差したものであるべきなのです。
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