2025年はCMOの役割と課題が大きく変化すると予想される。具体的には何が起こるのか。「Marketing Dive」による10の予言を紹介する。
2025年、より限られたリソースでより多くの成果を求められるCMOは、ブランド構築にとどまらず、幅広い業務を担当することになりそうだ。
プライバシー保護の潮流や政治の影響により、各種マーケティングプラットフォームの環境も大きく変化している。2024年までの「当たり前」がいつまでも通用するとは限らない。
不確実性が増す中、マーケターは今後どのような課題に直面することになるのか。「Marketing Dive」による10の予言の後編をお届けする。
計測市場の競争はますます激化する
テレビ広告市場ではカレンシー(※注1)の複数化が進行している。調査会社Advertiser Perceptionsは、広告主の3分の2が「マルチカレンシーが未来の基準になる」と考えており、5分の3が過去12カ月間にテレビ取引で従来の視聴率に変わる代替カレンシーを使用した経験があると報告している。しかし、代替カレンシーの採用が増加しているにもかかわらず、移行に期間がかかり過ぎたため、かつて市場を独占していたNielsenに適応する時間を与えた可能性がある(※注2)。
※注1:カレンシーとは、広告の効果測定や取引において基準となる指標のこと。
※注2:Nielsenは2021年、パンデミック中にテレビ視聴者数を過小評過していたとして米メディア測定評議会(MRC)の認定を失った(2023年に回復)。これを機に新たな測定プロバイダーが台頭し、業界の競争と革新が加速している。
Advertiser Perceptionsのビジネスインテリジェンス担当シニアバイスプレジデントを務めるエリン・ファーネノ氏は「広告主が『なるほど、分かった』と思えるような転換点はまだ来ていません。未来はNielsenまたはその他ではなく、Nielsenとその他になるでしょう」と言う。
この「と」に相当する部分には、各キャンペーンの目標に応じて広告主が選択する。例えば、詳細な視聴者データの測定や成果、その他の主要業績評価指標(KPI)を重視する場合などである。より大きな可能性は、ファーストパーティーデータをサードパーティのカレンシーに統合することから生まれるだろうと語るのは、Video Advertising BureauのCEOであるショーン・カニンガム氏だ。
カニンガム氏は「これにより、マーケターとして目指すゴールに一歩近づけるのです。つまり、測定結果が多くの主要なKPI(重要業績評価指標)に直接結び付き、代用的なものや推測的なものではなくなるということです。測定結果がKPIに対して、点線のような曖昧なつながりではなく、太線で明確に結びついている感覚になります」と説明する。
Nielsenの独占力に対する挑戦を過小評価すべきではない。全数調査をベースとするプレーヤーは現在、代理店や広告主と生産的な関係を築いており、実質的な競争力を持っている。視聴者計測コストを巡るParamountとNielsenの対立(外部リンク/英語)は市場の現状を強く示すものだとカニンガム氏は語った。
「将来に向けて、私たちは非常に優れた競争力のある市場を築いています。2018年や2019年にはそうは言えませんでした」(カニンガム氏)
生成AIがブランドのモバイルアプリに歓迎すべき刺激を与える。
モバイルマーケティングの成長が見込まれている。米国におけるこのチャネルへの広告支出は2025年に2280億ドルを超えると予測されるが、その支出の大部分(82.3%)はアプリ内広告からのものだ。また、NordstromやBurger King、Chick-fil-Aなどの企業では、ブランドアプリ自体への注目がより鮮明になってきている。
ブランドアプリは、消費者とのエンゲージメントにおいて企業にさまざまな機会を提供する。しかし、2010年代の全盛期に比べて近年は市場に出回ることが少なくなっている。これは、開発とその後の更新に関連するコストと困難さが原因と考えられる。だが、Gartnerのバイスプレジデント兼アナリストであるニコール・グリーン氏は、このチャネルに歓迎すべき後押しをもたらす準備ができていると説明する。生成AIがアプリ作成を効率化し、よりスムーズなアップデートを可能にするというのだ。
「マーケティングは、コード作成のための生成AIの進歩だけでなく、ローコードやノーコード機能によっても恩恵を受け、実際に多くのことをよりスピーディーに実行できるようになっています」とグリーン氏は述べている。
生成AIは、チャットbotや音声アシスタントなど、より没入感のある体験を通じて、ブランドにアプリの機能を強化する機会を提供する。また、開発コストの削減にも役立ち、すでにインハウス化の増加につながっているとグリーン氏は言う。
グリーン氏はまた、消費者が時間を費やす場所で彼らと関わろうとするマーケターにとって、アプリとの提携はなじみ深いものであり、今後も重要性が続くだろうと予想している。
「このパートナーシップエコシステムは、収益化や新たな収入源に関しても非常に理にかなっています。なぜなら、顧客がいる場所にいなければならないからです。顧客がすでに使用していないものに引き込もうとしないでほしい」とグリーン氏は語った。
スポーツマーケティングの細分化は続く。
スポーツは、消費者が増加するプラットフォームやプロスポーツリーグに時間を費やす中で、マーケターが大規模なライブ視聴者にリーチする手段として重要性を保っている。NFLやNBAなどの主要リーグが関心を集め続ける一方で、女子スポーツや新興スポーツへのファン層が拡大し、広告主に新たな機会を提供している。2025年には、マーケターはファン獲得を目指して、スポーツマーケティングの予算をどこに費やすかに細心の注意を払うようになるだろう。
「スポーツリーグがテレビ放送やストリーミングのプラットフォーム、そして複数のメディア事業体に放映権を分割しているため、視聴者の分散は当面のところ避けられない事実だ」とAdvertiser Perceptionsでビジネスインテリジェンス担当エグゼクティブバイスプレジデントを務めるサラ・ボルトン氏は述べた。
電通グループとスポーツイノベーションラボの提携は、マーケティング業界がリーグを超えて視聴者を結び付け、細分化の影響を最小限に抑えようとしている一例だ。同様に、GroupMは女子スポーツ専用のマーケットプレイスを立ち上げ、Mars Wrigley(「スニッカーズ」や「M&M's」などのブランドを保有する食品会社)やAdidasなどの著名な広告主の参加により、急速に支出規模を拡大している。
「女子スポーツの人気は今後も衰えることなく、引き続き堅調に推移するだろう。2024年夏のパリオリンピックは、女性アスリートが複数のスポーツにわたってファンが追いかけたいスター選手であることを示す新たな証拠となった。賢明な番組制作者はそれに応えている。また、過去1年間で大手広告代理店が女子スポーツ部門を立ち上げ、専門のスポーツエージェンシーも登場しており、これらが女子スポーツやスター選手に広告費が流れ続けるよう支援している」とボルトン氏は述べている
第2次トランプ政権が不確実性をもたらす。
ドナルド・トランプ大統領の政権復帰は、マーケティング業界に多大な影響を及ぼす可能性がある。トランプ氏が提案した経済政策がインフレを加速させるのではないかとの懸念が高まっているし、輸入品に対する大幅な関税引き上げ案は価格上昇につながり、消費者の財布のひもをさらに締めることになりかねない。そのような状況になれば、マーケターは予算を縮小し、投資収益率の高いチャネルに集中せざるを得なくなる。つまり、新しいマーケティング手法の実験が犠牲になる可能性がある。
規制の変更も、マーケターにとって困難をもたらす可能性が高い。トランプ氏は最初の任期中に、多くのインターネットのプライバシー保護を覆す法案に署名した。次の任期で彼が何をするかはまだ分からない。しかし、マーケターはプライバシー規制のさらなる変更に適応する準備をしておく必要がある。
ブランドセーフティもマーケターが注目すべき分野の一つになりそうだ。一部の広告主は、物議を醸す話題の近くに広告が表示されることを恐れて、特定のニュースチャンネルでの広告出稿をためらうかもしれない。一方で、トランプ大統領の再選により、2016年と同様にニュースメディアの視聴率が上昇する可能性もある。
ソーシャルメディアは別の問題を抱えている。トランプの「言論の自由」アプローチとイーロン・マスクのXの支配により、プラットフォームはモニタリングポリシーを緩めるかもしれない。そうなれば、マーケターにとってブランドセーフティーのリスクがより高まる懸念がある。
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