アドビが考える生成AI時代のコンテンツ制作の課題とその解決法は?「コンテンツサプライチェーン」が鍵

求められる顧客体験はますます高度になる一方で、マーケターのリソースは逼迫している。効率的なプロジェクト管理を実現するためには、新たなソリューションが必要だとアドビは提言する。

» 2024年10月04日 08時00分 公開
[ITmedia マーケティング]

 2020年に買収によって「Adobe Experience Cloud」に統合された「Adobe Workfront」はマーケターの業務フローを効率化するためのプロジェクト管理ソリューションだ。このWorkfrontにAIを活用した新製品「Adobe Workfront Planning」が追加された。これによってマーケターの仕事の仕方はどう変わるのか。そもそもなぜマーケター向けのプロジェクト管理ツールが必要なのか。Adobe日本法人のアドビが2024年9月26日にオンラインで開催した同製品についての記者向けの説明会の内容を基に解説する。

クリエイティブ制作の現場で今、起きていること

 実はアドビが国内メディアにWorkfrontを正式に紹介したのは、今回が初めてのことだという。そこで説明会ではまず、アドビの萩原未来氏(デジタルエクスペリエンス事業本部デジタルストラテジーグループシニアソリューションコンサルタント)が、Work Frontがそもそも何のためにあるのかを話した。

 テキストと静止画だけのコンテンツから動画へ、さらに3Dへと、コンテンツへのニーズはますます高度かつ複雑化している。また、一人一人の顧客体験を最適化させるためには、さまざまなチャネルに合った大量のコンテンツが求められる。

 増大するコンテンツの需要に応えるためには、コンテンツ供給のための確かな仕組みが必要だ。アドビはこれを「コンテンツサプライチェーン」と呼んでいる(関連記事:「アドビの生成AI戦略は『コンテンツサプライチェーン』に焦点 大規模パーソナライゼーションをどう実現する?」)

 コンテンツを効率よく生み出すために大きな役割を果たすと期待されるのが「Adobe Firefly」をはじめとする生成AIだ。生成AIによって制作作業そのもののスピードは飛躍的に向上させられる。だが一方で、急激に増加したコンテンツをどう供給していくかという課題が残る。制作のリクエストをどうやって受け付けるか、レビューはどうするか、制作した画像をどうやって担当者に受け渡すか。いずれも悩ましい課題だ。

 また、生成AIの活用が本格化すると、それが社内のブランド基準に準拠しているのか、どのようなソースを使用し、著作権に抵触しないかといったことも管理する必要が出てくる。これらがスムーズに処理されない限り、コンテンツ制作だけがいかに高速化してもコンテンツの供給が追いつかず、結果的に顧客体験が高まることはない。

 さらに、実際にプロジェクトを運用する中では、どのタスクを誰に何をしてもらうか、リソースが足りなければどこで人員を手配するか、マネジャーは常に気を配らなければならない。外部の人に依頼した場合には予算と時間をトラッキングする必要もある。

 プロジェクトの情報をどのように共有するか、素材の受け渡しをどうするかも考えなければならない。プロジェクトのROIを分析する必要もある。

 このように、コンテンツ制作のプロジェクト管理には非常に多くの課題があり、プロジェクトの規模が大きくなるほどその複雑さは増す。

WorkfrontとWorkfront Planningでできること

 Workfrontはこうした課題を解決し、エンタープライズ規模のプロジェクト管理を実現する。

 マーケティングキャンペーンの開始から終了までのタスクには、一般的に個々のステージにおいて個別の製品が使われている。それぞれがつながっていないと、システムがサイロ化され、作業もそれぞれ分断された形で非効率に進められてしまう。そこで、Workfrontは各システムを仮想的につなげることによってコンテンツの制作サイクルを可視化して業務を円滑化に進め、マーケティングキャンペーンの運用を最適化する。

 このWorkfrontをさらに機能強化するのが、マーケティング担当者向けにデータインテリジェンスと生成AI機能を提供するWorkfront Planningだ。

 Workfront Planningはマーケティングキャンペーンの計画を立てる上で必要なデータをWorkfront上で見られるようにして実用的なインサイトを提供し、企業が迅速にキャンペーンを実行できるようにするためのツールだ。オムニチャネルのキャンペーンにおけるリアルタイムの稼働状況を見ることによって、顧客体験を可視化する。

 顧客体験はデジタル広告やSNS、メール、オウンドメディアなど、ブランドとのさまざまな接点を通じて形成される。これまでのプロジェクト管理はチャネルごとに別々のツールで管理されていたが、Workfront Planningによって並列に進む施策の進捗を単一ビューで見られるようになり、キャンペーンのプランニングを最適化しやすくなる。

 Workfront Planningは、日々のマーケティング作業とキャンペーンを結び付けて視覚化し、マーケティングのための記録システム(SoR)を作成する。例えば「タイムラインビュー」ではキャンペーンの開始と終了を時系列で表示してキャンペーン同士のつながりを確認できる。「スプレッドシートビュー」では、各キャンペーンに関するより深いインサイト(貢献者、主要なメッセージ、アセットなど)が得られる。これらのビューをフル活用することによって、キャンペーンのタイミングの最適化が可能になる。

断片化したマーケティング業務を単一ビューで可視化(画像提供:アドビ)

 生成AIによってマーケティングブリーフ(キャンペーンに関するドキュメント)を自動生成する機能も近日提供開始予定だ。マーケターは既存のアセット(プロジェクトの詳細を説明するプレゼンテーション資料など)をアップロードするだけで、キャンペーン記録を作成し、マーケティング戦術や目的、関連アセットやスケジュールに至るまでの全てを含んだマーケティングブリーフを生成できる。

 また、会話型のインタフェースにより、全てのキャンペーンの詳細(ターゲットとなるオーディエンスや地域、戦術、関連する事業部門など、マーケティングの「メタデータ」)を照会できる。

 「プロジェクトメンバーが個別にレポートを上げる必要はありません。Workfront Planningの中で作業を進めることによって、現在の情報がリアルタイムにシステムに反映されます。場合によってはプロジェクトの進捗に合わせてキャンペーンの見直しをすることもできます。これは静的なドキュメントによるプロジェクト管理ではできなかったことです」と萩原氏は指摘する。

 Workfront Planningでキャンペーン計画を立ててWorkfront本体でプロジェクト管理をすることによって、より正確なキャンペーンの策定と、その計画に基づいたプロジェクトの進行が可能になるということだ。

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