Salesforeが2024年3月に日本で提供を開始した「Einstein 1 Studio」および「Salesfore Data Cloud」の新機能について、記者説明会の内容を基に詳しく紹介する。【訂正あり】
セールスフォース・ジャパンは2024年3月15日に記者とアナリスト向けの説明会を開催し、SalesforceのAI+データ戦略と国内で提供を開始した「Einstein 1 Studio」および「Salesfore Data Cloud」の新機能について詳細を明らかにした。
企業で働く人たちが生成AIを業務に取り入れて顧客への提供価値を高めていくには3つの段階を経があるとSalesforceではみている。第1段階は、事前構築済みでユーザーが何もしなくてもすぐに利用できる生成AI機能を利用すること。第2段階は、プロンプトを業務に合わせてカスタマイズすること。そして第3段階が、対話型AIだ。
第2段階のプロンプトのカスタマイズには、Salesforceユーザーをサポートする狙いがある。すぐに使えるドラフトを得るにはプロンプトが優れたものでなくてはならないが、一般の社員が自分の業務に合わせてプロンプトをカスタマイズするのは無理がある。そうであれば管理者がテンプレートを用意して、ユーザーがプロンプトを意識することなくクリックベースで業務に合わせた使い方ができるようにした方がいい。その仕組みを提供するのが「プロンプトビルダー」である。プロンプトビルダーの特徴は3つある。
1つ目の特徴がプロンプトの「ノーコード実装」だ。例えばある人にメールを送るとき、宛先の名前を直接テンプレートの文章に埋め込むと、その人にしか送れないものができてしまう。代わりに「お客さまの名前」という変数の形式で埋め込めば、汎用的なプロンプトができる。このようなデータの埋め込みを、専門知識がない人でも直感的にできる。
2つ目の特徴が、Data Cloudに格納しているデータでプロンプトを強化できることだ。プロンプトにデータを埋め込むことで生成AIは文脈に即した結果を返してくれる。
3つ目の特徴が、できたプロンプトテンプレートを社員に配布する必要がないこと。ユーザーは自分のSalesforce環境からクリック一つで意識せずに使うことができる。
もっと複雑なこともできる。例えば、顧客の会員ランクに応じてオファー内容を変えたメールを送るとする。「顧客ランク」というデータを埋め込むだけでやりたいことができる場合もあるが、「過去1年間の購入金額が1000万円以上のお客さま」という条件の場合、テンプレート内に計算式を埋め込む設定が必要になってくる。そんなときはアプリケーションに自動化された一連の流れを追加するツール「Flow Builder」を使うことで、これもノーコードで実装できる。
Salesforceはプロンプトの裏側で動くLLMに関し、顧客が使いたいものに合わせる「Bring Your Own LLM」の方針を採用している。現時点ではOpenAI/Aaure OpenAIの2つのみ対応だが、順次対応モデルを増やしていく。業界固有のモデルや自社固有のデータで追加学習を施したモデルを使いたいニーズにも対応する。
データレイクやデータウェアハウスでも同様に「Bring Your Own」の方針を採用する。プロンプトに埋め込むデータはSalesforceアプリケーションの中だけにあるとは限らない。「Snowflake」に基幹システムの注文情報や購入データ、請求情報を格納しているケースもあれば、「Google BigQuery」にWebアクセスデータを格納しているケースもある。外部にあるデータを使うための処理を都度IT担当者に依頼するのは現実的ではない。負荷の大きいこの作業を不要にするのが、「Bring Your Own Lake」だ。これは、SnowflakeやBigQueryにあるデータを、実データのコピーなしで、あたかもコピーしたように使えるようにするもので、国内では2024年3月下旬に提供開始を予定している。
プロンプトに計算式を埋め込むような場合、外部のデータレイク内の構造化データにアクセスが必要になるが、プロンプトを強化し、顧客の文脈に合わせて出力をパーソナライズするとなると、非構造化データの活用も必要になる。例えば、営業担当者が先週のミーティングで顧客から製品に関する質問を受けたとしよう。その質問に回答するメールの文案を書こうとすると、ミーティングの議事録にAIがアクセスできなくてはならない。そこでData Cloudには構造化データだけでなく、議事録のような非構造化データも格納できるようにした。これが「Data Cloud Vector Database」だ。
外部の知識ベースから取得した正確な情報を用いてLLMの出力結果を強化するRAG(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)と呼ばれる手法も実装する。これにより、例えばプロンプトに「先週のミーティングでお客さまからいただいた製品に関する質問に対して回答メールを作成したい」と入力すると、最も関連性の高いデータを探し、その質問内容を抜き出してプロンプトを強化できる。RAGを実装したData Cloud Vector DatabaseおよびEinstein Copilot Searchの国内でのパイロット提供開始時期は現時点では調整中だ。
Salesforceはアプリケーションに生成AIを組み込むために2つのやり方を用いている。1つ目が「組み込み型AI」。これまで説明してきたような、定型の業務内でAIをそれと意識することなくに利用可能にしたものがそれに当たる。2つ目が、自由記述でAIに質問やさまざまな依頼を投げかけることのできる「対話型AI」だ。
Einstein Copilotはユーザーとの対話を通じてユーザーを支援する。それ自体は他のAIアシスタントと同じだが、Einstein Copilotの特徴はアプリケーションの壁に分断されないところにある。
例えば、営業担当者が「今月、特にアプローチが必要なお客さまトップ3はどこか教えてほしい」と依頼して、Einstein CopilotがA社、B社、C社を挙げたとしよう。次に「その3社の中に、カスタマーサポートの窓口にクレームやサポート依頼が届いているお客さまがいるか?」と質問する。「A社から来ている」という回答を見れば、営業担当者はB社とC社にアプローチしようと考える。さらに「その2社のうち、マーケティングキャンペーンに好意的な反応をしたのはどちらか」と質問する。「C社のメール開封率が高い」という回答を見たら、最終的にC社に重点的にアプローチすることになる――。この一連のやり取りは、「Sales Cloud」「Service Cloud」「Marketing Cloud」といった、それぞれのアプリケーションのデータに横断的にアクセスできるからこそ成立する。
Einstein Copilotは単なるAIアシスタントではなく、アクションを実行することもできる。例えば、ユーザーがメールに見積書を添付して送ろうとするとき、通常はCPQ(Configure、Price、Quote)ツールのような別のアプリケーションで見積書を作成し、ワークフローシステムで承認を得て完成版ができる。一連のプロセスをEinstein Copilot上で行うことができれば、ユーザーは自分の使い慣れた環境で、複数のアプリケーション間を行ったり来たりすることなく、メール送信まで完結できる。Einstein Copilotの利用開始は、2024年夏以降を予定している。
【訂正】2024年3月26日午後2時47分 「Data Cloud Vector Database」および「Einstein Copilot Search」の国内でのパイロット提供開始時期に関する記述を「調整中」に変更しました。
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