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» 2024年01月29日 16時00分 公開

「Salesforce Sales Cloud」の2つの生成AI機能は営業の仕事をどう変えるのか?Salesforceの最新AI戦略

「Salesforce Sales Cloud」に新たに搭載される2つの生成AI機能を軸に、Salesforceの最新AI戦略の概要を紹介する。

[冨永裕子ITmedia]

 「データ+AI+CRM+信頼」を掲げるSalesforceはAIの実装で次世代のCRM提供を急ごうとしている。2024年に入っていよいよ主力製品の「Salesforce Sales Cloud」に生成AIを含む新たなAI機能を実装した。本稿では、2024年1月17日に行われた記者向けの説明会の内容を基に、同社の最新AI戦略の概要を分かりやすく解説する。

2024年2月から利用可能になる2つの生成AI機能

 Salesforceは2016年にリリースしたCRM向けAI「Salesforce Einstein」で業界をリードしてきた。Salesforce製品の導入企業は見込み客の獲得からナーチャリング、成約までの多くの局面ですでにAIのサポートを得ている。もちろん、これは昨今注目が集まる生成AIではなく予測に特化したAIであるが、予測AIと生成AIの両方から価値を得ることが重要だというのがSalesforceの考え方だ。

 この方針の一環で、満を持して営業担当者向けの主力製品であるSales Cloudに搭載されるのが「セールスメール」と「通話サマリー」だ。2つの機能は2024年2月14日から日本でも一般提供を開始する。

2024年2月から利用できる2つの生成AI機能(出典:セールスフォース・ジャパン資料)

 セールスメールは、顧客の文脈を理解し、かつ効果的なメールをパーソナライズして自動的に生成する機能だ。画面からドロップダウンをクリックすると、すぐにプロンプトの作成が始まり、AIがデータにグラウンディングし、パーソナライズしたメールの下書きを作ってくれる。営業担当者は内容を読んで確認し、修正を加えてから送信すればいい(もちろんAIが下書きを勝手に先方に送ることはない)。これを使うことで営業担当者は、見込み客との前回の会話の内容を思い出す必要がなくなる。

 もう1つの通話サマリーは、オンライン会議の録音内容からサマリーを作成する機能だ。例えば1時間に及ぶようなオンライン会議に参加したとする。通常であれば、その直後に録音内容を基に議事録を書き起こし、それをチーム全員が読み返して重要事項を特定するといった作業が発生する。通話サマリーの機能を使うと、要約が自動的にできる他、裏側で働くセンチメント分析の機能が、見込み客がどの程度の関心を抱いたかも示してくれる。さらに、「見積書を送る」などのアクションアイテムも示してくれるので、営業担当者にとっては作業効率向上が期待できる。

 生成AIの機能を活用し、生産性向上の成果を得ている先行ユーザーも出てきた。その1つが米Crexiである。同社は商業用不動産取引のマーケットプレースを運営するスタートアップで、これまではメールの文案作成やオンライン会議での商談内容の記録に多くの時間を費やしていた。営業担当者が2つの機能を利用することで、それぞれの1日あたりの時間60%の短縮に成功したという。

営業マネージャーのためのAI機能

 このような生成AIのサポートが求められるようになった背景には、今の営業活動がかつてないほど複雑になっている現実がある。特に問題なのが、営業担当者が使う必要のあるツールが増え過ぎたことだ。2022年にセールスフォースが実施した調査結果によれば、営業担当者は平均して17種類のツールを常時利用しており、66%がツールの多さに圧倒されている状況だ。

 使うツールが多いほど、営業担当者は本来集中すべき営業活動以外の業務に忙殺されてしまう。そこでSalesforceは、「営業マネージャーの戦略的データ活用」「新規顧客開拓におけるチームセリング」「顧客との関係強化」という3分野の強化に乗り出した。

 Salesforceシニアバイスプレジデントのマリーアン・パテル氏(Sales Cloud担当)はまず、1番目の営業マネージャーの戦略的データ活用について、「データとAIの融合に焦点を当てている」と説明する。具体的には、メール、行動、取引先責任者の3種類のデータを重視している。例えば、「Einstein活動キャプチャ」では、EinsteinがGoogleやMicrosoftのアカウントからメールやカレンダーなどのデータを自動的に取得し、営業担当者がSales Cloudでアクセスできるようにするものである。また、「Activity 360」で、上記の3種類のデータを1カ所に集約して見られるようにした。

 「ビジネスの現状を知ることは、セールスライフサイクルのあらゆる局面で重要」と、パテル氏が話すように、優秀な営業マネージャーは常に現在どのぐらいの売り上げ目標を達成していて、期末に達成できる金額はどの程度かを意識して仕事をしている。期間終了までにチームが達成し得る売り上げ予測を示す機能が「Einstein売上予測」だ。Einsteinが予測モデルの構築時に、そのチームが過去に携わった商談に関する活動履歴などのデータを参照しており、これを利用することで、営業マネジャーは過去の実績と予測を比較して得られたインサイトを参考に、次の打ち手を考えられる。この他、案件の健全性に関するインサイトと予測を提供する「パイプラインインスペクション&案件インサイト」、キーパーソンに特化したインサイトを提供する「取引先責任者インテリジェンス」も提供開始済みだ。

営業マネージャー向けの強化ポイント

チームで取り組む新規見込み客の獲得

 2番目の新規顧客開拓におけるチームセリングの分野ですでに提供中の機能が「バイヤーアシスタント」と「Slack Sales Elevate」だ。バイヤーアシスタントはSales Cloudのアドオン「Sales Engagement」に搭載した機能で、Webサイトを拡張するものになる。この機能は、チームへのリード情報の転送や顧客との商談のスケジューリングに役立つ。また、Slack Sales Elevateは、Sales Cloud と連携するコラボレーションツール「Slack」のアドオンになる。例えば、商談金額が目標数値に達したとき、あるいは特定の地域や分野で商談が出てきたときに通知を受け取るように設定して、実際にその通知を受け取ったらチームは即座に次の行動に移るといった運用が可能になる。

 また、近々のパイロット提供開始を予定しているのが、「Einsteinプロスペクティングセンター」と「自動プロスペクト評価」の2つだ。Einsteinプロスペクティングセンターは、AIが自社のWebサイトに誰が来ているか、その人たちが何に興味を持っているかなどを一元的なビューで示してくれる。自動プロスペクト評価は、見込み客が自社の商材を購入してくれる可能性を自動的に評価してくれる。

 パテル氏は「ほとんどの営業担当者は、見込み客の誰に接点を持っているか程度の情報しか持ち合わせていないが、この2つの機能は、成約に至る可能性の高い案件のシグナルを営業チームに提供してくれる」と語った。

 もちろん、これらの機能の裏側で存在感を示しているのがEinsteinだ。Einsteinが活躍することで、商談の準備、見込み客獲得の自動化、プロスペクト動向のリアルタイムでの把握、チームメンバーとの情報共有が容易になる。

チームセリングを強化するAIの機能

生成AI機能の提供は顧客との関係構築から

 3番目の顧客との関係強化に関係する代表的な新機能が、先述のセールスメールや通話サマリーということになる。この2つの生成AI機能の提供開始には「Google Chrome」や「Microsoft Edge」などの普段使いのブラウザやGmail、Outlookなどの標準的なメーラーからSales Cloudを利用できるようになったことが大きく関係している。この他、英語版のみになるが、2024年2月から「Einstein Copilot for Sales」のパイロット版も提供開始になる。

 2つの生成AI機能の一般提供開始と同時に「営業ホーム」も利用できるようになる。これは営業担当者が1日の始まりに確認するべき情報を集約したダッシュボードで、その日のアジェンダと共にオポチュニティー、アカウント、リード、コンタクトの概要が表示される。裏側にはやはりEinsteinがいて、営業担当者が個別に設定した目標とその進捗状況の可視化、ToDo項目、最近の活動記録の提示、コンタクト候補の提案を行ってくれる。営業担当者はこのダッシュボードを使うことで、目標達成に向けて何をするべきかを把握し、AIの力を借りながら毎日の活動に取り組むことになる。

 顧客とのエンゲージメントを高め、成果を出すには「Sales Programs」というセールスイネーブルメント機能も役立つ。これは売り上げ目標の達成に向けて、通話数、メール送信数、パイプライン内の商談数、成約数がどれだけ必要になるかをマイルストーンで示し、営業担当者の成功と売上増大の実現を促す機能だ。

 この他、Einsteinがオンライン会議ツールで録画した内容から、状況に応じて特定のキーワードに関連するインサイトを自動的に抽出してくれる「Einstein会話インサイト」も、営業チームの生産性を高めることに役立つ。例えば、競合他社の名前、提案中の自社の商材の名前、価格に関する言及があった場合に役立つ。対話の内容は全てAIが書き起こしてくれるので、営業担当者はメモを取るのではなく、見込み客との関係を築くことに集中できる。

顧客との関係強化に役立つAIの機能

 これまでのSales Cloudは「Starter」「Professional」「Enterprise」と、高度な自動化、セールスAIなどの機能を利用できる「Unlimited」の計4つのライセンスエディションを用意していた。ここに新しく加わった選択肢が「Unlimited+」エディションである。Sales CloudにSlackやTableauを連携させてのチームセリングの機能、予測AIに加えて生成AIの機能を使いたい場合は、「Unlimited+」エディションが最善の選択肢になる。

執筆者紹介

冨永裕子

冨永氏

とみなが・ゆうこ フリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタント。2つのIT調査会社でエンタープライズIT分野におけるソフトウェア分野の調査プロジェクトを担当する。その傍ら、ITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトも経験する。新興領域、テクノロジーとビジネスのギャップを埋めることに関心あり。


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