【用語解説】ステマ規制ITmedia マーケティング用語集

2023年10月1日に施行されたステマ(ステルスマーケティング)規制について。

» 2023年11月20日 19時00分 公開
[ITmedia マーケティング]

 ステマ(ステルスマーケティングの略)とは、広告であることを隠して商品を販売する行為。2023年10月1日に消費者庁が「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」を景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)の不当表示として告示指定し、規制の対象となった。

ステマ規制が必要とされた背景

 SNSで人気を博すインフルエンサー、あるいはクリエイターと呼ばれる情報発信者が数多く生まれる中、企業などが彼らに製品・サービスの紹介を依頼するケースが増えてきた。

 消費者にとっては企業が直接発信する広告よりも信頼できるインフルエンサーのコンテンツの方が訴求力において勝る可能性がある。また、マスメディアを介した広告に比べて低コストで実施できることから、インフルエンサーマーケティングに積極的に取り組む企業は少なくない。

 しかし、これまで実際には、企業がインフルエンサーに依頼した「案件」が広告であることを明示しない形で発信されるケースも散見されていた。ステマの内容をインフルエンサーの自発的なレビューのように消費者が捉えてしまえば、消費者の商品選択における自主的かつ合理的な選択が阻害されかねない。

 有識者の間ではそのことが問題視されていた。だが、日本では広告における虚偽の情報や誤解を招く表示はこれまでも景品表示法で規制されてきたものの、不当表示(著しい優良誤認や有利誤認)がないステマについては特に禁止されていなかった。ちなみにOECD加盟国のうち名目GDP上位9カ国でステマ規制がないのは日本のみだった。こうしたことから、ステマ規制の議論が高まっていった。

ステマ規制までの経緯

 政治家や有識者などによる問題提起がなされる中、消費者庁は2022年3月に景品表示法検討会を設置し、ステマへの対応を明言。2022年9月にはステマ検討会を設置し、関係者からのヒアリングを経て、景品表示法の改正ではなく、同法5条3号に基づきステマを不当表示と指定することを提案する報告書案を任意の意見公募手続に付すと決定した。2022年12月28日には、意見公募手続に寄せられた意見を踏まえて修正した「ステルスマーケティングに関する検討会報告書」を公表。2023年1月から3月までにステマ告示案の意見公募手続、公聴会、消費者委員会への意見聴取を実施した後、ステマ告示の指定に至った。

何がステマに相当する?

 規制の対象となるのは、「事業者が自己の供給する商品や役務の取引について行う表示」であり、かつ「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」。つまり「実際には広告なのに、消費者が広告であることを分からないもの」ということになる。

 ここでいう事業者の表示とは、事業者が表示内容の決定に関与したと認められるもの。事業者が第三者を装ったり、事業者が第三者に対して表示を行うよう依頼・指示したものがそれに当たる。第三者については、明示的な依頼がなくても、事業者と第三者との間の関係性によっては「表示内容の決定に関与した」と考えられる点がポイント。個別の案件で金銭や物品の供与がなくても、イベント招待など対価性を有するものが提供されていたり、過去に取引関係があったり将来的に取引関係がある可能性があったりするなど、客観的に見て表示内容が第三者の自主的な意思によるものとは認められない場合には、ステマと見なされる可能性がある。逆に、事業者が第三者の表示に関与したとしても、客観的に見て第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合は、事業者の表示とはならない。

 何をもって「消費者が事業者の表示であることを判別することが困難」とするかは表示内容全体から判断する。事業者の表示であることが記載されていない場合はもちろん、記載されていたとしても不明瞭である場合は、判別が困難と見なされる。逆に、事業者の表示であることを記載せずとも、事業者の表示であることが社会通念上明瞭であるもの(事業者のWebサイトでのコメント紹介など)は規制の対象にはならない。

誰が規制される?

 規制の対象となるのはインターネット上の表示(SNS投稿、レビュー投稿など)だけでなく、テレビや新聞、ラジオ、雑誌などにおける表示も同様。ステマ規制施行以前に発行され、既に終了した表示は対象にならないため、原則としてマスメディアのコンテンツに関しては2023年10月1日より前に掲載されたものは対象にならない。しかし、インターネット上のコンテンツに関しては、過去に投稿されたものであっても10月1日以降も公開されていれば規制対象になる。実際に規制されるのは、商品・サービスを供給する事業者(広告主)であり、インフルエンサーやエージェンシー、制作会社などが規制されるわけではない。

違反するとどうなる?

 ステマ規制の違反が疑われる場合、消費者庁は、関連資料の収集、事業者への事情聴取などの調査を実施する。調査の結果、違反行為が認められた場合は、当該行為を行っている事業者に対して再発防止を求める措置命令が出され、事業者の名前が公表される。措置命令に従わない場合は刑事罰の対象となり、2年以下の懲役または300万円以下の罰金または両方が科される。

WOMJの新ガイドライン

 日本のWOM(口コミ:Word Of Mouth)マーケティングの発展を目指すWOMマーケティング協議会(WOMJ)はステマ規制の内容を受けて新しいガイドラインを2023年10月1日に施行した。

 新ガイドラインではこれまでの「関係性の明示」の原則と、虚偽の情報を信じ込ませようとする行為を禁じた「偽装行為の禁止」の原則の細部をより明確に定めている。

 関係性の明示については「主体」と「関係内容」の両方が明示される必要があるとしており、例えば「A社から謝礼をもらってソーシャルメディアに投稿している」場合、A社の名前と謝礼をもらっている事実の両方を明示することが必要になる。関係内容の明示については「(A社から)1万円の謝礼をいただいて投稿しています」のような形が理想的ではあるものの、より簡便かつ現実的に利用しやすいと考えられる「関係タグ」を明示することで、関係内容の明示と認めることとしている。関係タグは「#プロモーション」「#PR」「#宣伝」「#広告」の4つ。

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