ドコモの強固な顧客基盤を土台に提供するマーケティングソリューションの概要について、マーケターが知っておきたいポイントをまとめる。
NTTドコモ(以下、ドコモ)は2023年10月25日、NTTグループとスタートアップ企業のコラボレーションをテーマとしたイベント「NTT DOCOMO VENTURES DAY 2023」(NTTドコモ・ベンチャーズ主催)に先駆けて記者向けの説明会を開催した。本稿では、NTTドコモの石橋英城氏(スマートライフカンパニー マーケティングイノベーション部 部長)の解説を基に、ドコモの強固な顧客基盤を土台に提供するマーケティングソリューションの概要について、マーケターが知っておきたいポイントをまとめる。
ドコモのマーケティングイノベーション部では、ドコモのアセットを活用しながら、企業がエンゲージメントやLTV(顧客生涯価値)を高めるための取り組みを支援をしている。ユースケースは流通小売業をはじめ、消費財・耐久財メーカー、サービス業、自治体など、幅広い。
活動のベースとなるのが、ドコモの保有する9600万のdアカウントおよび7200万の携帯電話契約という強固な顧客基盤だ。パートナーも70万社以上に拡大しており、dポイントの加盟店は約870ブランド10万店存在する(数字はいずれも2023年6月現在)。また、データセキュリティのための認証基盤、位置情報から国内居住者や訪日外国人の分布・動態を分析可能な「モバイル空間統計」、さまざまなデータを横断的に分析するプロファイリングAIエンジン「docomo Sense」など、データを安全かつ有効に活用するための仕組みも用意している。
ドコモのデータはGoogleやMetaなどメディアプラットフォーマーのそれと異なり、携帯電話の契約者情報のように本人確認が取れている属性情報を保有している。これは大きなアドバンテージだ。加えてオフラインの移動・行動データや決済データも持っている。「いわば一人一人の皆さまの日常生活の営みそのものがデータとして蓄積され、格納されている」と石橋氏は説明する。シングルIDにひも付くこれらのデータを基にdocomo Senseが近未来のニーズの予兆を読み取り、適切な施策を打つことで、認知、検討、購買といったフルファネルにおけるさまざまなマーケティング課題を解決できる。
ドコモは今後、マーケティングソリューションとヘルスケアの領域において複数の新規事業を立ち上げる方針だ。その第一弾として今回発表したのが、流通小売企業向けの「ドコモリテールDXプログラム」だ。
コロナ禍におけるデジタル消費の加速、ライフスタイルニーズの多様化、加えてインフレといった環境変化の中で、日本の流通小売業は顧客体験価値向上と同時にオペレーションの生産性向上を両立させなければいけない。こうした課題に対処するために必要とされるのがリテールDXだ。
しかし、Walmartをはじめとする大手流通小売業による寡占化が進む米国と地域密着型企業が根強い日本では市場環境が異なる。顧客とデータが集中しやすい寡占市場と異なり小規模事業者が多い市場では消費も分散する。米国ではHM(ハイパーマーケット)と呼ばれる大規模小売業者4社の市場占有率が98%を占めるのに対し、日本ではGMS(総合スーパー)大手4 社のシェアは63%にすぎない。個々の持つデータが少ない、あるいは顧客基盤が小さい中でDXに投資するのは効率が良くない。そこで、ドコモのアセットを活用することで多くの流通小売業の課題を一気に解決しようというのが狙いだ。
ドコモリテールDXプログラムは、ドコモデータとd払い/dポイント加盟店である流通小売企業が保有するID-POSデータ(購買情報)を消費者の同意を得た上で組み合わせ、docomo Senseを活用して統計化し、流通小売業のバリューチェーン全体の課題解決をサポートする取り組みだ。具体的には以下の3つのサービスを用意している。
1と2については後述する。
リテールDXを推進する上では新たな知見が必要となる。そこでNTTドコモは2023年9月に国内最大級の調査会社であるインテージと資本業務提携契約を締結。10月にはインテージの株式の51%を取得し、子会社化している。また、今回の記者発表と同時にリテール業界に特化したDX事業を展開するフェズとの業務提携契約締結およびドコモ子会社のNTTドコモ・ベンチャーズを通じた出資も発表した。
ドコモの顧客基盤とそこにひも付くデータはこれまで主にバリューチェーンの川下、つまり広告・プロモーションやCRM(顧客関係管理)の領域で活用されてきた。今後は業界最大級の商品情報データベースおよび小売店パネル(全国の主要小売店約6000店舗を対象とする販売実績データ)を保有するインテージの分析ケーパビリティーとインサイト導出力をドコモのデータと掛け合わせることによって、メーカー商品開発やプロダクトマーケティングといったバリューチェーン上流を支援するようなサービス開発を目指す。
一方、フェズは複数の大手小売業者とのパートナーシップにより約1億ID分のID-POSデータと連携し、購買データや店頭データなどを管理・分析する国内最大規模のリテールデータプラットフォーム「Urumo」を開発・提供している。今後はフェズの持つリテールDX推進の知見を共有し、ドコモデータとフェズのリテールデータとのより効果的な連携手法の開発を通じて、流通小売業様の課題解決に取り組む。
リテールDXダッシュボードは、ドコモデータとdocomo Senseを活用し、統計情報の形で商圏および顧客の可視化や、顧客のプロファイル、ライフスタイル、ライフステージごとでのさまざまな分析が可能だ。効果的な集客や販促施策、新規出店候補地のポテンシャル分析などに活用できる。流通小売企業が保有するID-POSデータ(購買情報)とドコモデータを消費者の同意の範囲内で連携させ、商品・カテゴリ別の売り上げ分析や商品軸での顧客分析、販促施策の効果検証など、店舗運営に必要なデータ分析をワンストップで提供する。この他にも顧客エリア分析(商圏分析)や来店予兆分析、今後出店する際の来店者数を予測するエリアごとのポテンシャル分析などのメニューもあり、ID-POSデータを常時連携しているd払い/dポイント加盟店はこのダッシュボードを無料で利用できる。すでにベータ版という形で一部提供を開始しており、十数社が導入を決めている。
今後はインテージとの協業で、ダッシュボードをさらに高度化する予定だ。インテージには全国5万3600人の消費者から継続的に収集している日々の買い物データである「SCI(全国消費者パネル調査)」があり、インテージ子会社のリサーチ・アンド・イノベーションが提供するレシート収集アプリ「CODE」のデータも使える。これらを掛け合わせて分析することで、実際に店舗で購買されている商品と金額に加えて、ニーズの未充足によって他店で購買されている金額(機会損失)も算出できる。ポテンシャル金額まで可視化することでストアマネジメントの改善につなげたい考えだ。
アプリ開発と収益化支援については、NTTドコモの子会社DearOneが提供する公式アプリ開発サービス「ModuleApps2.0」で構築した流通小売業のアプリに広告を配信する新たなアドネットワーク「ARUTANA」を提供する。
小売業が提供する広告掲載メディアを意味する「リテールメディア」がバズワード化している。しかし、米国型のリテールメディアの成功例をそのまま日本でやっても成功しないとドコモは考えている。端的に言えば個々のターゲットリーチが少なく、規模感を求めようとすれば複数のメディアを運用する必要が生じ、手間がかかる。小売業者の側からしても、事業性に乏しい小規模リテールメディアを持つメリットは薄い。そこで、流通小売企業各社が提供する会員向けアプリに対して横断的に広告を配信できるようにすることで、メディアとしての価値を高めようというわけだ。
ARUTANAは現時点でイオンリテール各社やドラッグストアチェーンのウエルシアなど13社9276の店舗、1427万円MAUという日本最大級のリテールメディアとなる。複数のメーカーと実施したPOCでは、一般的なディスプレイ広告の平均のCTRより3倍から5倍のパフォーマンスが出ており、メーカーと流通小売業双方から引き合いがある。年内には2000MAU到達を目標としている。
アプリユーザーというエンゲージメントの高い人々に対して、買い物の直前のタイミングでアプローチができるのはメーカーには大きな魅力だ。流通小売業(メディア)には新たな収益源が生まれる。そして消費者は、お気に入りの店舗からお得な情報が届く。石橋氏は「三方良しのサービスを目指したい」と述べ、プレゼンテーションを締めくくった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.