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» 2020年10月07日 19時00分 公開

経済産業省に聞く ブランデッドコンテンツ制作になぜ政府の補助金が出るのか?企業と映像制作者のWin-Winへ(2/2 ページ)

[指田昌夫,ITmedia]
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広告主と制作会社の両方を支援したい

 同制度は、国内企業や団体がデジタル配信を前提にした映像制作を行う際、制作費と発信費、効果検証費の半額を最大1000万円まで補助するもの。応募の最終締め切りは2020年10月30日に迫っているが、この制度を知らずにブランデッドコンテンツを制作している企業や団体があれば、本稿公開日時点ではまだ経費の補助を受けられる可能性がある。

 制作する動画コンテンツは、自社の企業理念やブランドイメージを表現した内容であれば、どんなものでもいい。実写はもちろんアニメーション、CGなど手法は問わない。映像作品の長さは1〜3分を推奨。最長で15分となっている。

 事業を管轄する、経済産業省商務情報政策局 コンテンツ産業課長の高木美香氏(「高」は、はしごだか)は、補助金事業の目的を次のように説明する。

 「私たちの部署は制作会社や広告代理店など、コンテンツ産業全般を支援しています。その立場で全体を眺めると、今、広告業界はマスメディアからインターネットに移っていて、広告主もネットに対応したコンテンツをどうやって作っていくかが大きな課題となっています。その中で、良質なブランデッドコンテンツは非常に重要で、ブランドをアピールする武器になると思っています」

 ブランデッドコンテンツは企業の商品やサービスの紹介ではなく、ブランド理念を短いストーリーとして表現することで、結果的にその企業への共感を集めることを狙う。その意味で、良質で共感を呼ぶ内容であることが何より求められる。

 一方で、商品の宣伝という直接的な目的がないため、社内の理解を得にくい面もある。費用対効果(ROI)を数値化することも難しい。また、ブランデッドコンテンツは必ずしも企業の宣伝部や広報部が起点となって制作するものではないため、予算を確保するのが難しい。これらのことが、ブランデッドコンテンツ施策の実施に当たって、高いハードルとなっている。

 高木氏は「だからこそ、補助金があることがきっかけとなり、コンテンツの制作が増えることを期待しています」と言う。実際に、この制度があることでコンテンツ制作の社内承認が下りた企業もあるそうだ。また、売り上げという形で簡単に成果は測れなくても、ブランデッドコンテンツが企業の採用活動などに効果を発揮する可能性は大いにある。

 広告を制作する側の支援という視点も当然ある。環境変化はコンテンツ制作サイドにも新しいスキルの習得を求める。既存の映像制作のノウハウを応用しつつ新たなコミュニケーションを実現できるブランデッドコンテンツは、作り手にとっても有望な新市場となり得る。需要側も供給側も、それぞれ挑戦への意欲が高まっていると国も認識しており、その制作を支援する施策として今回の補助金制度が生まれたともいえる。

自社の思いを映像化して発信できるチャンス

 大企業が制作するコンテンツの中には、有名な俳優や映画監督を起用した大掛かりなものもある。「ブランデッドエンターティンメント」とも呼ばれるそれらのプロジェクトは、最大1000万円までの補助金では到底まかなえるものではないだろう。だが、高木氏は予算が全てではないと考えている。

 「大企業が多額の制作費をかけたコンテンツをネット向けに展開している先行事例がある一方で、中堅・中小企業が低予算ながら質の高いコンテンツを配信しているケースも多くあります。テレビCMと違い、広告枠を買わずにメッセージを発信できるのがネットの最大のメリットです。そのメリットを生かして、これまで映像化できなかった自社の思いを発信できるチャンスだと思います」

 補助金の対象は、デジタル配信を前提に、企業のブランディングを目的としたものであれば内容は問われない。ただ、ブランデッドコンテンツという性格上、単純な商品やサービスの宣伝は認められない。「どこまでが宣伝か」という線引きが難しいものもあるかもしれないが、申請時に一つ一つコンテンツの内容や絵コンテなどを確認した上で、事務局が委嘱する「外部審査委員会」が審査して決定する。

 「より重要なのは、社内外を含め多くの人が見たくなるコンテンツかどうか。これからは、企業のあらゆるコミュニケーションがコンテンツの要素を持っていくと思っています。企業ではこれまで、社外に発信する情報と社内の組織に向けたコミュニケーションは別々でしたが、今後はそれが融合して同じものになっていくでしょう。企業の透明性やCSRが重視される中で、企業の中も外も同じメッセージで一貫していることが大事になってくると思います」(高木氏)

 企業がブランデッドコンテンツを作る過程は、自らのブランドについて見つめ直すきっかけにもなる。制作会社にブランデッドコンテンツのストーリーを依頼する場合も、そのブランドの精神や背景を言語化して説明しなければならない。その行為自体が、ブランドの再評価あるいは再定義につながるとも言えそうだ。

世界に発信する手段としてのブランデッドコンテンツ

 J-LOD本体は、およそ8年前に始まった国の補助金政策で、もともと「クールジャパン戦略」の一環として、日本のコンテンツを海外に売り込み、海外に日本のファンを増やして日本を訪れる外国人を増やすことを目的にスタートした。経済産業省だけでなく、外務省、総務省、国交省など省庁連携で進めてきた政策だ。その戦略の根幹を担うのが、日本を伝えるためのコンテンツだ。

 日本のコンテンツはこれまで、韓国のエンターテインメントなどと比較して、海外に出て行かない傾向があったと高木氏は言う。不正コピーを恐れていたこともあった。だが、より大きな理由は、コンテンツ力の強さだ。アニメなど良質な作品を求めて海外から積極的に日本にアクセスしてくれるファンが多かったため、特に発信に力を入れなくても結果的にそれなりの認知が獲得できていたのだ。

 しかし、日本的なカルチャーが世界に広がり競争が激しくなりつつある昨今、状況は変わった。コンテンツに力を入れるようになった中国では、今や100億円以上の制作費をかけて映画を作るようになった。ただ海外からの引き合いを待っているだけでは日本が今後、優位性を失ってしまうかもしれない。そこで、日本のコンテンツを海外の展示会に出展したり現地語の翻訳コンテンツを作ったりする際の費用を援助する目的で予算化された補助金制度が、J-LODなのだ。

 J-LODにはそうした背景があるため、今回のブランデッドコンテンツ制作の費用補助制度においても、コンテンツの国際性を重視している。審査基準としても、海外でも理解できるコンテンツについては加点されることがうたわれている。

事業を通じて「ブランデッドコンテンツ」自体の認知を高めたい

 J-LODは国内のコンテンツ業界では知れ渡っており、海外進出の支援には一定の成果を挙げている。しかし、今回のブランデッドコンテンツ制作の費用補助制度は、出来上がったコンテンツだけでなく、制作過程も含めた支援を行う事業として組まれているのが特徴だ。国としてPRにかけるリソースが十分ではないこともあって、この点が必ずしも十分に理解されていないのは歯がゆいところだ。

 それでも現時点ですでに数十件が採択され、コンテンツ制作が行われている。地方も含めた幅広い業種の企業、公共団体からの応募が集まっている。この制度を利用した企業がブランデッドコンテンツを制作し、それが話題になることで、世の中にブランデッドコンテンツという手法があることを広く伝えられれば、現時点ではひとまず成功ということにはなるようだ。もちろん、国としては応募が締め切られるまで、1件でも多く申し込みがあることを期待している。

 こうした補助金制度の利用についてよく言われることが、申請手続きの煩雑さだ。特に社員の少ない中小企業では手続きに手間がかかり過ぎて敬遠されるケースもある。これはなかなか悩ましい問題だ。税金を投入する補助金である以上、どうしても審査を厳正にする必要はあるからだ。「事務的な負担を減らすために、インターネットで申請できるようにするなど、改善を進めています。問題点があればどんどん指摘してほしい」と、高木氏は語る。

次年度に改善の成果が反映されるためにもまず、初めてとなる今回の試みで優れた作品が出てくることを期待したいところだ。

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