電通のクリエイティブディレクターがAIを活用した「マグロの目利き」アプリの開発に本気で取り組んだ理由“Seed Creativity”というアプローチ(1/2 ページ)

広告表現からビジネス創造へ、クリエイティブディレクターが本領を発揮する領域が大きく広がろうとしている。象徴的な事例の一つが、電通が手掛ける「TUNA SCOPE」の開発だ。

» 2020年10月02日 08時00分 公開
[冨永裕子ITmedia マーケティング]

 大手広告会社の電通は2017年に社内横断で「AI MIRAI」チームを結成するなど、近年AIの活用に注力している。広告コピー自動生成システム「AICO」やテレビ視聴率の予測システム「SHAREST」など、既に実用化された取り組みも多い。

 AIの活用は広告・マーケティング領域だけにとどまらない。中でも目を引くのが、最新のAI画像解析テクノロジーを駆使してスマートフォン一つでマグロの品質を評価するシステム「TUNA SCOPE」だ。

勘と経験がモノを言う、マグロ職人の目利きをAIで

 第一次産業へのAI活用は農水産物の生産から出荷、加工、消費に至るまで広がりを見せている。特に実用化が進んでいるのは出荷時の品質検査工程の自動化であろう。

 農水産物は外観だけでも大きさ、形状、色などの特性にばらつきがある。そのため、かつては農水産物を工業製品のように機械で自動的に選別するのは困難だった。とりわけ難しいとされてきたものの一つが、マグロの目利きだ。熟練した仲買人が長年の経験を基に「尾の断面」から身の締まり具合、スジの模様、脂の乗り方、色などから品質を見極める過程は、プロの仕事の象徴としてテレビの有名ドキュメンタリー番組などで紹介されることもある。

 良質なマグロを見極める確かな「目」を養うためには10年以上の年月を要することも少なくない。また、仲買人の希少なスキルをどう維持・継承するかという構造的な問題もある。少子高齢化が進行する日本では、後継者を確保することすら難しい。

 そこで、AIだ。プロの勘と経験に大きく依存するマグロの目利きのプロセスをAIで再現できれば、誰でも簡単にマグロの目利きができるようになる。先述のTUNA SCOPEにかかる期待は大きい。

 しかし、TUNA SCOPEがそれらの課題解決のために生まれたのかといえば、そうではないようだ。TUNA SCOPEの企画・開発は電通、電通国際情報サービス。アイデアが生まれたきっかけはプロジェクトリーダーである電通の志村和広氏(Future Creative Center クリエーティブ・ディレクター)がある日、スーパーで買ってくるマグロには味に当たり外れがあると気付いたことだった。志村氏は子供の頃からの大のマグロ好きで、自宅で毎日のようにマグロを食べている。ある日、マグロを食べながら、目線を上げるとテレビにマグロの尾の断面から品質を目利きする仲買人の姿が映った。

電通 Future Creative Center クリエーティブ・ディレクター 志村和広氏
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