米国では2020年月の大統領選挙を前に選挙戦がますます活発化しています。関連するアプリの動向を探りました。
2020年11月の米大統領選挙に向けて民主党候補者ジョー・バイデン氏が「Animal Crossing : New Horizon(あつまれどうぶつの森)」とコラボし、公式マイデザインをリリースしたことなどが最近話題になりました。米国では選挙戦におけるデジタル活用がますます盛んになっています。もちろん、アプリも重要な「武器」の一つ。今回は、米統領選挙に関係する代表的なアプリにまつわる最新データを紹介します。
アプリマネジメントソリューションを提供する英国Airnow社のAirnow Data(旧Prioridata)のスマートフォンアプリ市場分析データを使い、世界のアプリの動向をさまざまな切り口から探ります(執筆者の所属するインターアローズはAirnowの国内マネジメント企業です)。
通常、MAUやDAUはアプリに実装された測定用SDKを使い、モバイルアプリユーザーをパネルとして推定値を出しますが、 Airnow DataはAirnow社およびデータパートナーとの提携により150万社のデベロッパーとパブリシャーデータ、さらに35億台のトラッキング対象デバイスとビッグデータから算出しています。
ドナルド・トランプ大統領やバラク・オバマ元大統領を例に出すまでもなく、米国ではSNSが、政治家の重要な発信ソースとしての役割を担っています。前回の2016年大統領選においても「Facebook」や「Twitter」が支持者獲得のキーとなりました。加えて、2020年11月3日に予定される大統領選については、トランプ氏およびバイデン氏両陣営が公開する選挙キャンペーンアプリの影響力に注目が集まっています。
そもそも、アプリは政治活動にふさわしいメディアといえます。支持者にとっては、政治集会のチケット予約からプッシュ通知、カレンダー、マップ案内、ニュース、コミュニティーなどを便利に利用できます。運営側にとっては、寄付金管理や登録者プロフィールの獲得によるターゲティングとジオロケーション、パーソナルメッセージ発信など、多くの施策が容易になります。さらに、コロナ禍により大規模集会が難しい現在、ライブ動画によるバーチャル選挙集会もメッセージ訴求上重要な役目を担っています。
「Trump 2020」は2016年に公開されたトランプ氏の公式選挙キャンペーンアプリをアップデートしたものです。バーチャル政治集会での寄付金、支持サポート活動など多くの機能が搭載されています。しかし、トランプ政権が短尺動画共有アプリ「TikTok」の国内規制を明示したことから、禁止を怒った「TikTok」ユーザー達が、Apple「App Store」における「Trump 2020」の評価を1つ星にする抗議運動(レビュー爆弾運動)を開始しました。運動は一気に拡大し、1つ星は10倍以上になりました。その結果、Appleは2020年8月14日、ストア内「Trump 2020」の全評価をリセットしています。
一方、対立候補であるバイデン氏の新しい選挙キャンペーンアプリ「Vote Joe」は、2020年7月21日に公開されました。バイデン氏支持をユーザーの家族や知人へ呼びかけることを主目的として用意され、トランプ氏の機能満載なアプリと比べると、やや控えめな印象です。
民主党大会でのバイデン氏指名受諾演説時を除くと、「Vote Joe」は公開以来、ダウンロード数において常に「Trump 2020」を下回ってきました。しかし、その差は縮まりつつあるようにも見え、選挙戦終盤の動向が注目されます。
ところで、先述したようにトランプ氏は国家安全上の理由から「TikTok」の運営企業であるByteDanceに対して2つの大統領令を発令し、締め付けを強めています。具体的には米国ビジネスを売却するよう命じた他、米国人および米国法人のByteDanceとの取引を全面禁止したのです。一方で、トランプ陣営は米国企業Trillerが2015年から公開している短尺動画共有アプリ「Triller」にアカウントを開設。2020年8月2日に15秒の選挙キャンペーン動画を2本投稿し、そのダウンロード数を「TikTok」に負けないレベルまで一気に増加させました。その後は、すぐに元のダウンロード数レベルへと戻りましたが、米国の人気TikTokerは続々と「TikTok」から「Triller」への移行を表明しているようです。
逆風にも負けず、今も「TikTok」は世界中で爆発的なダウンロード数を記録しています。特に、米国のダウンロード数は全世界の4分の1ともいわれ、「TikTok」にとって米国は圧倒的に大きな市場です。また、ロシアやブラジルなど経済新興国やインドネシア、ベトナム、タイ、マレーシアなど東南アジア諸国での人気も際立っています。人口増加が活発で、若年層が増え続ける市場を強みとするのも「TikTok」の特徴であり、そのビジネス成長力や文化的影響力は計り知れないものがあります。
日本は全世界では12位ですが、その成長力はめざましく、最近では若者に限らずユーザー層を幅広く拡大しています(関連記事「全力で始めたいマーケターのための『TikTok』入門」)。
「TikTok」を巡る駆け引きを中国政府が黙って見ているわけではありません。2020年8月28日には中国商務省が「中国輸出禁止・輸出制限技術リスト」の改定を発表し、輸出制限の対象に人工知能(AI)や個人向けのデータ解析などを追加しました。当然、「TikTok」アルゴリズムもここに含まれます。これにより、ByteDanceは中国政府の許可を得ないまま外国企業へ「TikTok」を売却できなくなったのです。
「TikTok」米国事業売却事案はトランプ大統領の再選対策の切り札の一つでもあり、この騒動はますます複雑な様相を呈することでしょう。
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