本物の「サブスクリプション」の話をしよう――Zuora創業者ティエン・ツォ氏インタビュー定額課金が本質ではない(2/2 ページ)

» 2019年10月30日 07時00分 公開
[水落絵理香ITmedia マーケティング]
前のページへ 1|2       

サブスクリプションは企業努力が求められるビジネスモデル

――サブスクリプションにより、サービスの在り方を柔軟に変更してお客さまに最良の体験を提供できるわけですね。とはいえサービスには解約されるリスクが常に付きまといます。そこで鍵になるのがカスタマーサクセスなのだと思います。Salesforce11番目の社員でもあったツォさんのカスタマーサクセスに対する考えを聞かせてください。

ツォ Salesforceで考えていたのは、サービスを提供して長期的にお金をもらい続けることで、自分たちが半ば強制的にお客さまをケアしなくてはいけないようにすることでした。より優れたサービスを提供するために努力が生まれる。それによってお客さまにロイヤルティーが芽生え、売り上げが発生する。その方がより良いビジネスモデルであると提唱しました。

――日本のビジネスパーソンの俗語で「チャリンチャリン」という表現があるように、サブスクリプションを定額課金モデルと捉える人は、継続的にお金が入ってくるところだけを見て、「ぬれ手で粟」の楽なビジネスだと誤解している節があります。

ツォ むしろ、従来のビジネスモデルよりも、さらに企業努力が求められると思います。一方で、企業が努力して得た顧客ロイヤルティーは大きな競合優位性になります。

 例えば、NetflixはもともとDVDを自宅に配送するようなサービスでした。以前は値上がりした際に多くの顧客が解約してしまった。契約はしていたけれど使っていなかった人々にサービスをやめるきっかけを与えてしまったわけです。しかし、昨年値上げをした際には、ほとんど解約が発生しませんでした。顧客が求めるコンテンツを大量に有するデジタル動画配信サービスとなった今、顧客はNetflixを使い続けないではいられません。

――継続的な利用を促すことでLTV(顧客生涯価値)を向上させるという既存顧客重視の戦略は一つのトレンドでもあります。しかし、企業の成長にはやはり新規顧客の獲得も重要です。

ツォ もちろん、サブスクリプションは新規顧客獲得にも影響を与えます。これもNetflixが良い例でしょう。Netflixはチャンネルごとのデータをたくさん持っており、それを見てお客さまのLTVを最大化するために投資の優先順位を決めます。コンテンツが充実すれば同時に既存顧客が周囲の人々に推奨するので、結果的に新規顧客が増えることにもつながります。こうしたことがあるので、実はサブスクリプション型のビジネスでは従来のビジネスより新規獲得のためのマーケティングコストがかからない傾向があります。

サブスクリプションを全ての企業に

――Zuoraについてお聞きします。企業がサブスクリプションビジネスを実施する上でZuoraのサービスを必要とする理由は何でしょう。

ツォ 多くの企業ではこれまで製品を売ることにしか着目してこなかったので、製品を購入して実際に使っている人のことまで理解できていません。利用状況に応じた価格設定やさまざまなパターンでサービスを提供したくても、実際にはそれを運用できる仕組みを持っていないのです。Zuoraのプラットフォームを使うことでサブスクリプションの受注から入金までのプロセス全体を自動化できるようになります。

――Zuora自身はカスタマーサクセスにどう取り組んでいますか。

ツォ われわれ自身もさまざまな指標を測定しています。われわれはテクノロジーを作るときの前提として、それによってどういうメリットを提供できるかを考えます。サービスのいいところは、全てのパフォーマンスが測定可能であることです。Zuoraを使うお客さまが請求書を幾つ出しているか、どれだけ早く出せているか、請求金額をきちんと回収できているのか、どれだけ素早く価格を変更できているかといったことをお客さまごとに見て、きちんと約束を果たせているかチェックして、お客さまと会話しています。

――Zuoraの導入企業には名だたる大手が名を連ねていますが、スタートアップかいわいにもSaaSをはじめサブスクリプション型のビジネスを起こそうとする企業は多いと思います。予算の少ない彼らがZuoraへ投資するのはなかなかハードルが高いところもあるのではないかと思いますが。

ツォ Zuoraは高いと誤解されがちですが、スタートアップにも多く導入されています。上場前の企業でも(ベンチャーキャピタルなどからの)資金調達で予算を確保できるケースが増えていますし、投資対効果を考えれば、決して高いということはありません。BoxやZoomなどもサービス初期からZuoraを入れていました。日本でも弁護士ドットコムが提供する電子契約サービス「クラウドサイン」やSmartHRのクラウド人事労務サービスでZuoraを採用しています。ZuoraもSaaSですから導入時に特別な何かを購入しなくてはいけないということはないし、小さな会社にも使いやすい仕組みになっていると思います。

――逆に大手企業だと、サブスクリプションを導入しようとしても意思決定に時間がかかることが多そうです。問題意識を持った現場の若手社員が上長を説得できず頭を抱えているケースもあると思うのですが。

ツォ 大手であれば、予算が確保できないわけがありません。スタートアップでも導入している企業があるのですから、企業を成長させたいならZuoraを入れるべきでしょう。

 日本ではトヨタがサブスクリプション型のモビリティーサービスを始めましたが、他の大企業には1つの大きなきっかけになるはずです。まだまだ堅調な企業が危機感を持って変わり始めたのだから、ここで変わらない企業はどんどんシェアを小さくするばかりです。

 予算を取りたいのに決裁が下りないというなら、CEOに私の著書を渡すことをお勧めします(笑)。

『サブスクリプション』(ダイヤモンド社)

(聞き手はITmedia マーケティング編集部 織茂洋介)

寄稿者紹介

水落さん

水落 絵理香

みずおち・えりか フリーライター。CMSの新規営業、マーケティング系メディアのライター・編集をへて独立。関心領域はWebマーケティング、サイバーセキュリティ、AI、VR/ARなどの最新テクノロジー。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

関連メディア