「サブスクリプション=定額課金」と捉えている人は少なくないが、それはあまりに表層的な理解だ。話題書『サブスクリプション』の著者にサブスクリプションモデルの本来の定義とそれを成功させるための考え方を聞いた。
SaaS(Software as a Service )の台頭をきっかけにサブスクリプション型のビジネスモデルが注目されるようになった。この潮流を解説する書籍の決定版といえるのが2018年に刊行された『Subscribed: Why the Subscription Model Will Be Your Company's Future - and What to Do About It』(邦訳『サブスクリプション』ダイヤモンド社)だ。
日本ではサブスクリプションというと「定額課金サービス」と同義に捉えられがちだ。しかし著者のティエン・ツォ氏は同書で「サブスクリプションは単なる課金ビジネスを指すものではない。ビジネスに変革をもたらす存在」と語っている。
サブスクリプションとは一体何なのか。これから導入を考える企業は何に留意すべきなのか。来日したツォ氏に聞いた。
――あらためて、サブスクリプションとは何か、定義を教えてください。
ツォ サブスクリプションとは、顧客がサービスにSubscribeする(申し込む)ビジネスモデルのことです。企業の視点からいえば顧客を理解し、顧客が何に価値を感じるのかを把握した上で継続的にサービスを提供することを意味します。
当然、サービスによって価値の提供方法は異なるので、マネタイズの方法も多岐にわたります。月額課金もあれば従量課金もある。課金形態は顧客に提供する価値を最大化させるために柔軟に変化させていくべきであり、大事なのは顧客に価値を提供し続けることです。
――「サブスクリプション」という言葉がバズワード化し、ややブームが過熱気味な印象もあります。サブスクリプションに向いていないビジネスもあるのではないですか。
ツォ 誰もがサブスクリプション型のビジネスをやりたがっているように見えますが、実際にはまだステージとしては早い。顧客に継続的に価値を提供して対価をもらうという意味ではさらに多くのビジネスがサブスクリプションの対象になると考えています。一見、サブスクリプションと親和性のなさそうな企業が導入する事例も増えています。
――業種でいうと例えばどのような例がありますか。
ツォ 特に製造業において顕著です。機械部品であるベアリングを生産している企業がサブスクリプションを導入した例もあります。といってももちろん、何百万個単位のベアリングを箱詰めにして毎月定額で届けるということではありません。
その会社ではベアリングをIoT化した「スマートベアリング」を開発しました。これにより振動の微細な変化を感知できるので、例えば鉄道の車両に組み込むことで、車両が現在どのような状態にあるのか、修理が必要なのかといったことをデータで判断できるようになりました。モノ自体でなくサービスを売る手段として、既に何千万ものスマートベアリングが出荷され、現場で稼働しています。
――サブスクリプションに新規参入する企業が陥りがちな失敗というものがあれば教えてください。
ツォ 最も多い失敗は、従来の製品をそのまま売ろうとすることです。今ある製品を変えることなく単に代金を分割して長期で回収しようといった思考ではうまくいきません。サブスクリプションを成功させたいなら、「自社が顧客に提供できる価値とは何か」という顧客主体の思考に切り替える必要があります。
私の著書でも書いた、ギターメーカーであるFenderの非常に優れたサブスクリプションサービスの構築事例を紹介しましょう。売り上げが減少傾向にあった同社は、1年かけて顧客分析を実施しました。その結果、ギター購入者の約半数が初心者であり、そのうち90%が1年以内にギターをひくことを諦めてしまっていることが分かりました。
ギターの技術を習得するのは簡単ではありません。ある程度演奏できるようになる前の段階で、ほとんどの人が挫折してしまいます。そこでFenderは、初心者でも30分程度で曲をマスターできるよう指導するオンライン教育動画サービス「Fender Play」をリリースしました。ここでは月に約20ドルを払えばレッスンを受けられるだけでなく、有名ミュージシャンが初心者だった頃のエピソードを語る動画も視聴できるなど、初心者のモチベーションを維持するための仕掛けが盛り込まれています。
ギターを購入する人の多くは、ギターの所有者になりたいわけではありません。ギターの演奏者になりたいのです。Fenderは顧客のインサイトを見事に捉え、サービス化できたのです。
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