「PHOEBE BEAUTY UP」「BULK HOMME」「MEDULLA」。3つの急成長D2Cコスメブランドそれぞれの戦略とは。
製造から販売まで自社のリソースをフル活用して一気通貫で提供するD2C(Direct to Consumer)のビジネスモデルが注目されている。中でも特にプレイヤーが増加しているのがコスメ(化粧品)業界だ。日本でも化粧品系のD2Cスタートアップが続々と誕生している。
アライドアーキテクツは2019年7月3日、東京・渋谷のTRUNK HOTELでコスメ業界向けのマーケティングイベント「コスメサミット 2019」を開催した。今回のイベントでは「D2Cスタートアップのマーケティング」をテーマにしたセッションに「PHOEBE BEAUTY UP」「BULK HOMME」「MEDULLA」という急成長中の3つのD2Cコスメブランドから責任者が登壇。D2Cと従来の販売手法は何が違うのか、どのような特性があるのかを踏まえた上で、各社が実践するマーケティング手法を紹介した。モデレーターはムーンショット代表取締役CEOの菅原健一氏が務めた。
D2Cは小売店を挟まずメーカーが顧客に対し直接売買できるため、顧客の声を取り込みやすいという利点がある。
D2Cの成功事例として引き合いに出される企業の1つに、米国ニューヨーク発の「Glossier」がある。人気美容ブロガーのエミリー・ウェイス氏が2014年に立ち上げたコスメブランドで、わずか4年で売上高が1億ドルを突破。2019年3月には1億ドルの資金調達を実施し、時価総額12億ドルのユニコーン企業となった。同社の成長の鍵は、ユーザーの囲い込みにある。ウェイス氏が2010年から運営する美容ブログ「INTO THE GLOSS」は開設直後から1000万PVを超え、瞬く間にファンを獲得。そこで培ったファンコミュニティーに向けて「Glossier」販売前からSNSを中心にプロモーションを展開し、販売開始後は顧客からのフィードバックを受け取るシステムを構築して、レビューを基にした商品開発も行っている。
PHOEBE BEAUTY UPを展開するDINETTE代表取締役CEOの尾崎美紀氏も同様に、D2Cの特性を生かしたプロモーションと開発サイクルを採用しているという。
「生まれたばかりのベンチャーがいきなり商品を出しても埋もれてしまうだけです。だから当社の場合は、先にファンを囲い込んで、そこから売り上げにつなげていきました」(尾崎氏)
まずはコミュニティーを形成し、アンケートを重ねてユーザーの要望を収集。そこで得たインサイトを基にコスメブランド「PHOEBE BEAUTY UP」を立ち上げ、第一弾としてまつげ美容液を開発した。
コミュニティー形成を先行させ、集まったユーザーの要望をベースに商品開発を行う流れは、これまでの手法とは真逆の発想だ。とはいえ、商品も何もない状態でコミュニティーを作るのは難しい。DINETTEの場合は、美容分野に特化した分散型動画メディア「DINETTE」を持っていたことが大きい。DINETTEのInstagramアカウントではフォロワーが15万人を超え、動画1投稿当たりの平均再生回数は10万を超える。ここで高いエンゲージメントを獲得するのと同時に、DINETTEと親和性の高いインフルエンサー一人一人に対して地道にアプローチをかけ、1000人規模のインフルエンサー集団「DINETTE GIRLS」を立ち上げた。同社ではそうやって築いたコミュニティーを起点に商品開発とプロモーションを推進しているのだ。
D2Cだからといって、必ずしもコミュニティーを形成する必要はない。メンズスキンケアブランド「BULK HOMME」を開発・販売するバルクオム代表取締役CEOの野口卓也氏は「ターゲットは決めず、自分たちが良いと信じる商品を作ること」を信条にしている。
「立ち上げ当初から今に至るまで、明確なターゲット像は定めていません。私たちの商品に反応してくれる方を相手にしています。ただ、消費者は常に変化しています。接触するチャネルや購買形式などは移り変わっていくので、その波には確実に乗るようにしています」(野口氏)
圧倒的なクオリティーを実現している自負があるため、顧客からのフィードバックもほとんど受けていない。それでいて実際、一度使うとそのまま継続して使い続けるユーザーが多く、事業は順調に成長している。
女性向けと異なり男性向け化粧品市場はまだまだ新しい。比較検討で競争にさらされることが少ないなど、環境的に恵まれている部分はあるが、マーケティングをおろそかにするということはない。特に新規顧客獲得については「できることは全てやった」と野口氏は話す。
「あらゆる媒体であらゆるクリエイティブを試しました。洗練されたデザインだけでなく、いわゆるLPやチラシ的な“ダサい”と思われるものも交えて検証しました。そこまで試さないと、何が本当に効果があるのか分かりませんから」(野口氏)
クリエイティブが「かっこいい」か「ダサい」かは非常に主観的な感覚であり、そこにとらわれていては成果を得られない。自分の感覚を封印し、数字だけをシビアに見る姿勢も重要だと野口氏は力説する。これはD2Cに限らない話だろう。
一方、顧客からのフィードバックを基に、ユーザーごとに製品そのものを変えていくパーソナライズを軸にしたD2Cブランドも健闘している。顧客の要望に合わせて都度処方を変えられるパーソナライズシャンプー「MEDULLA」もその1例として上げられる。MEDULLAを展開するSpartyでCMOを務める横塚まよ氏は、継続利用する優良顧客を重視し、イベントを定期開催して密にコミュニケーションを取っている。
「当社の場合、初期段階のファン獲得施策は実施しませんでしたが、継続利用していただいているお客さま限定のイベントを定期開催しています。パーソナライズできる製品だからこそ、お客さまの要望をどれだけ製品に反映できるかが継続率に直結します。あらゆる方面からお客さまとコミュニケーションを取り、フィードバックを受けられるような環境を構築しています」(横塚氏)
圧倒的な品質を保証する1プロダクトか、要望に合わせて柔軟に処方を変えられるパーソナライズか。いずれにせよ、顧客満足度の向上に標準を合わせた戦略といえる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.