カスタマーサクセスチーム立ち上げ時の残念エピソード、成長SaaS企業5社が振り返るSansan×HiCustomer×ビズリーチ×ベルフェイス×弁護士ドットコム(1/2 ページ)

カスタマーサクセス元年ともいわれる2018年末に、日本国内でこの領域をけん引するSaaS事業者5社の論客が「俺たちの失敗」を赤裸々に語った。

» 2019年01月28日 08時00分 公開
[水落絵理香ITmedia マーケティング]

 2018年は日本国内における「カスタマーサクセス元年」だった。SaaSなどサブスクリプション型ビジネスモデルのサービスと切っても切り離せない概念として注目され始めた「カスタマーサクセス」は、バズワードといえるほど一般化した。しかしその一方、この言葉は明確に定義されないまま使われていることも少なくない。実際、カスタマーサクセスを叫ぶ人や組織の多くは、試行錯誤しながら最適解を模索している状態ではないだろうか。

 カスタマーサクセスを実践する企業同士の情報共有やディスカッションを通して日本におけるカスタマーサクセスの認知向上と活性化を目指す団体であるJCSC(Japan Customer Success Community)は2018年12月21日、カスタマーサクセスに取り組む現場の「失敗」にフォーカスしたイベントを開催した。成功(サクセス)できない原因は何で、それをどう乗り越えたのか。コミュニティーをけん引する5社の論客がリアル体験を語った。

 登壇者はSansanの田中二郎氏、HiCustomerの高橋 歩氏、ビズリーチの鈴木雄太氏、ベルフェイスの小林昭宏氏、弁護士ドットコムの岩熊勇斗氏の5人。ベルフェイス カスタマーサクセス企画室室長の小林泰己氏がモデレーターを務めた。

顧客と自社の成功に向けた各社の試行錯誤

小林泰己氏

 冒頭、ディスカッションの前提としてモデレーターの小林泰己氏は、JCSCが掲げるカスタマーサクセスの定義について説明した。これによるとカスタマーサクセスとは「顧客だけでなく自分たちの成功も追求する、つまりWe're HAPPY!と言える状態を目指す」ことだ。これは「WIN-WIN」や「三方良し」とも通じる。

 古くから伝わるこれらの商売の基本精神は、もうけを出す上ではきれいごとだと捉えられがちな考え方でもある。しかし、テクノロジーが進化し、メソッドが洗練されてきたことで、ようやく自然に受け入れられるようになってきたといえる。

 とはいえメソッドが洗練されるまでには、先行企業が積み重ねてきた幾重もの失敗がある。各登壇者の声を順に拾ってみよう。

弁護士ドットコムは「顧客情報管理」で失敗

岩熊勇斗氏

 弁護士ドットコムで電子契約サービス「クラウドサイン」のカスタマーサクセスチームリーダーを務める岩熊氏は、サービス立ち上げ当初の顧客情報管理方法において失敗したという。

 「立ち上げ当初、顧客情報や利用料金など、さまざまなデータが分散した状態にあった。最初は顧客数が少なくどうにでもなっていたが、スケールする段階から徐々に回らなくなった。今月の売り上げを出すのに3日かかるような状態になっていた。顧客情報管理は初期から整備しておくべきだった」(岩熊氏)

 顧客管理はビジネスにおいては守りの部分であるため、どうしても優先順位は低くなりがちだ。まして顧客数が少ないサービス立ち上げ期には、管理方法が適当になりがちだが、SaaSなどのサブスクリプションモデルは継続と拡大が成長の命となる、つまり、管理する顧客数が積み上がっていくことは避けて通れない。

 さらにクラウドサインの場合、料金の設定のA/Bテストも実施していたため、料金プランは実質20パターン以上存在していた。管理方法がきちんと整っていなければ、どの顧客がどのような料金プランを選択しているのか、全てを把握するのは難しい。

 弁護士ドットコムでは解決策として、Zuoraが提供するサブスクリプション向けの請求・プライシング管理ツール「Zuora」を導入。顧客データを取り込み、顧客ごとの料金プランを把握して、ようやくMRR(月間経常収益)がすぐ算出できる状態に回復したという。

 ただ、Zuoraは非常に高機能ではあるものの、高額なためどのビジネスでも導入できるかというとなかなか難しい。他の登壇企業からは、「SalesforceなどのCRMツールでも管理は可能」という意見も挙がった。

ベルフェイスは「再現性」で失敗

小林昭宏氏

 商談に特化したオンライン会議システムを提供するベルフェイス。同社にカスタマーサクセス立ち上げのタイミングで参画した小林昭宏氏は、「再現性」にまつわる失敗談を披露した。

 「私はもともと営業コンサルをやっていた人間なので、お客さまを変えなければいけないと本気で考えていた。メンバーにも自分がやっていることと同じことを求めた。採用においても、営業経験者で営業を変えられる人材を求めたり、無料のカスタマーサクセスだけでなくコンサル案件を取ってくることをKPIにしたりしていた。とにかくお客さまに深く入りこんでいくことこそがカスタマーサクセスだと考えていた」(小林昭宏氏)

 しかし、求めるレベルの人材は母数が少なくベンチャーでは採用が難しい。そもそも個人の力量に依存する部分が多い仕事は、成果に再現性がないと気付いた。ビジネスとしてスケールするには、サービスレベルを下げてでも再現性を高め、誰でもできるようスキルを標準化することが重要だと考えを変えた。

 標準化は重要だ。とはいえ、最初はやはりいろいろ試さないと分からない。小林昭宏氏の失敗談を受けてHiCustomerの高橋氏は「始める前からレベルを下げてしまうのは悪手。最初はつらいかもしれないが、標準化する基準を見極めるためにもいろいろ試行錯誤すべきだ」と補足した。

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