通販業界一筋20年以上、ダイレクトマーケティングのエキスパートとして知られる著者が、デジタル時代のマーケターに向けてEC・通販の本質を伝授します。
今なお成長を続けるEC・通販業界。目まぐるしく変わる環境下、一面的なノウハウやトピックに振り回されず、ユーザーから支持を得ていくには何をすべきか、この連載では、EC・通販の「本質」に沿って、その方法を探ります。
第2回は「重要業績評価指標(KPI:key performance indicator)」について、述べていきます。
EC・通販事業者にとって、事業ステータスを表す重要業績評価指標(KPI:Key Performance Indicator)を日々チェックし、改善することは事業の生命線。おそらく読者の皆さまもさまざまなKPIを用いて事業の収益化に励んでいることと思います。
代表的なKPIとしては、広告費総額を獲得人数で割って広告効果を測り、顧客1件当たり獲得単価を表す「CPR(Cost per Response)」 「CPA(Cost per Acquisition)」「CPO(Cost per Order)」、顧客のリピート化効率である「リピート引き上げ率」「定期引き上げ率」、さらには「顧客残存率」「アクティブ回転率」などがあります。
このように、各社の実態に即してさまざまな指標が活用されているのですが、ことEC・通販事業に関して言えば、収益構造は大きく3つの効率に集約されます。それが「新規集客の効率」「リピート引き上げの効率」「リピート定着の効率」です。この3つの効率を押さえれば、リピート通販の収益構造を明確にシミュレートすることができます。順に詳しく見ていきましょう。
広告などを通して、新規購入客をいかに多く、かつコストをかけずに集めることができたか。これを計測するための指標は2つのタイプに分けられます。
1つは、広告の閲覧回数に対しての反応の多寡です。広告を通してメッセージがちゃんと響いているのかを見るタイプ。例えば新聞広告や折込広告といったペーパーメディアの配布枚数当たりのレスポンス件数を見る「レスポンス率」や、PC/スマホでの広告表示回数当たりのクリック件数を見る「CTR(Click Through Rate)」、LP(Landing Page)からの申し込み完了件数を見る「CVR(Conversion Rate)」などが挙げられます。
もう1つは、広告費に対して、直接的にどの程度の投資対効果があったかを見るタイプです。これには例えば、とある広告から発生した注文総額をその広告媒体費総額で割った「MR(Media Ration)」や「ROAS(Return On Advertising Spend)」があります。
業界全体で広く用いられているのは、顧客1件当たりの獲得広告コストを示す「CPR」や「CPA」「CPO」などです。折込広告やオンライン純広告系のように、媒体単価が変動せず一定に保たれているものであれば、レスポンスのよしあしと投資対効果を一緒に把握することができます。しかし、新聞本紙の掲載枠やオンラインのリスティング広告、アドネットワークなどは、媒体費用の変動が激しいため、CPRだけではレスポンスのよしあしが分かりにくいことがありますので要注意です。こういったケースでは、CPRやCPA、CPOは単に投資指標として割り切った方が良いでしょう
2つ目は、広告掲載が一度だけの購入にとどまらずリピート購入まで至る効率です。広告掲載品は多くの場合、お試しトライアルセットであったり、本品でもお得なトライアル価格とで販売しているものであったりします。事業者としてはもちろん、まず気に入ってほしいわけですが、それだけでなく、継続して購入してほしいと考えます。そうでないと事業収益が出ないからです。
ここで代表的な指標は、「定期引き上げ率」「定期転換率」「リピート引き上げ率」「リピート転換率」と呼ばれるものです。いずれも広告で集めたトライアル顧客リストを分母に、定期・リピートによる本品購入へと至った人数を分子にすることで算出します。一般的に、オフライン施策で40%前後、オンライン施策で20%前後というのが1つの目安ですが、やり方次第ではもっと大きく育てることも可能です。
3つ目の効率は、定期・リピートへと引き上がった顧客が、その後も引き続き満足しているのか、順調に購買が発生しているのかです。ここは特に注意が必要です。
ここでの指標の1つは、「F別推移率/離脱率」と呼ばれます。これは、リピートの購入回数(F値:Frequency)が増えるごとに、どの程度の人が購買を続けているか、あるいは離脱しているかを見るものです。F値が浅い間(F1〜F3当たり)はそれぞれの段階での推移率/離脱率が大きく違ってきますので、個別に推移率を算出します。F値が4以上と深くなりほど、同じ推移率へと収束してきます。その数値を用いて収益構造を試算することで、リピート状況の課題が、F値のどこに存在するか絞り込みやすくなり、さまざまなCRM施策の中で、改善着手するべき施策が特定しやすくなります。
もう1つは、リピート・定期購入化した顧客から、一定期間で発生する平均購買額を表す「LTV(Life Time Value)」や、同じく一定期間に購買発生した人の割合を表す「回転率」などです。LTVの対象期間は本質的な定義では一生涯ということになりますが、現実的な運用では大体1年間で見ることが多いようです。回転率については、多くは1カ月間で見ます。
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