日本企業として初めて「Markie Award」のファイナリストとなったNEC。アカウントベースドマーケティングを活用した営業スタイル変革への歩みを振り返る。
2017年4月、B2Bマーケティングの権威ある賞である「Markie Award」において、NECは日本企業として初めてアカウントベースドマーケティング(ABM)部門のファイナリストに選出された(関連記事)。ノミネートでは、アカウント(ターゲット企業)と購買に影響力のある個人に対してどのように適切でタイムリーなメッセージを配信できたかが問われた。本稿では、2017年7月26日に開催された「Oracle Modern Business Experience 2017」におけるNEC CRM本部(兼コーポレートマーケティング本部) シニアマネージャーの東海林 直子氏の基調講演から、NECのABM取り組み事例を紹介する。
2014年、NECは「Orchestrating a brighter world」をコーポレートメッセージとして打ち出し、社会価値総合型企業への変革を目指すと宣言した。顧客の目の前にある課題を取りあえず解決するのではなく、何をなすべきか、より本質的なところを把握し、顧客のビジネス活動を通じた社会価値創造につなげたいと考えるようになったのだ。社会価値創造テーマとして策定したのは、以下の7つ。
これらを成し遂げるため、NECは顧客にとって真のパートナーにならねばならない。とはいえ、「当社のWebサイトに来る方の中にはまだPCや携帯電話を探すことを目的にしている人も多い」(東海林氏)というのが実情であり、これらの壮大なテーマは、顧客がNECに抱いてきたイメージとのギャップが大きい。このギャップを埋める必要があった。
人々の情報収集行動がデジタルにシフトしている現象は、B2Bビジネスにも大きな影響を与えている。日々のニュースをきっかけに特定の分野、特定の製品についてとことん情報を収集するといった行動は至るところで起きている。自己学習する顧客、見込み客にNECが提供できる価値を正しく知ってもらう必要がある。
さらに、企業のニーズも多様化している。同じ企業の中でも新規事業の計画、新しい経営課題の解決、市場での競争など、それぞれ違う課題を抱えている人々がいる。ネットワークとコンピューティングを軸に企業向けの製品・サービスを提供するNECにとって、これまで顧客企業で直接の取引先としてきたのはIT部門だった。しかし、今後はそれだけではなく、別のステークホルダーにも目を向けなくてはならない。
このような変化が起きている中、営業提案に求められる水準は非常に高くなっている。顧客課題への深い洞察は不可欠といえる。
一方で、営業が対面で顧客とコミュニケーションできる機会は限られてきている。自己学習する顧客は、営業に合う前に意思決定を終えていることも多い。引き合いを待っていても最悪の場合、声が掛からないこともあり得る。コスト効率の面からいっても営業のリソースを無駄にはできないだろう。そうなると、昔ながらの営業スタイルでは通用しなくなる。NECでは「お客さまの行動を先読みし、前倒しでアプローチすることで、お客さまの期待に応える」(東海林氏)ことを考えるようになったという。
営業スタイル改革が必要と気付いたNECが着目したのがABMのアプローチだ。デジタルマーケティングチームが最前線、インサイドセールスチームが中盤に入り、営業につながる一連のプロセスを支える組織体制を整備して営業スタイル改革に取り組むことになった。特にインサイドセールスの機能をABMの要として強化したという。
具体的な役割分担はこうだ。まず、デジタルマーケティングチームが世界中の顧客や見込み客とコミュニケーションを取り、NECが課題を解決できることを知ってもらう。次に、営業にリード(見込み客)を渡す前にインサイドセールスが会うべき担当者や誰に解決策を提案すべきかを探る。B2Bのビジネスでは、情報収集をしている人と購買意思決定に関わるキーパーソンが同じでないケースも多いからだ。そして、会うべき相手を見極めることができたら、最後に営業が訪問する。
東海林氏によれば、NECは伝統的に営業が強い組織構造だという。担当者は、営業自身でやれることがたくさんあると思っている。ところが、「お客さま全員に会えているか、コミュニケーションが取れているか」と尋ねると、意外にできていないことが多かった。ある顧客企業でIT部門には行けているが事業部門には行けていないといった場合、結局のところ顧客の要望をきちんとつかめていないことになる。3つの組織が協力して見えていなかった顧客を明らかにし、そのホワイトスペースにアプローチできるようにすることが求められた。
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