VRのマーケティング活用例を知る企画の後編。「非日常体験(シミュレーション)型」「イベント連動アトラクション型」「エンタメ訴求型」について紹介する。
本稿ではデジタルマーケティングの最前線にいる立場から、マーケティングにおけるVRコンテンツの活用方法について、事例を紹介しながら考察します。前編「『360度コンテンツ』『VR体験』を広告コミュニケーションにどう活用するか」では、これまでに実施されたVRプロモーション事例を目的・内容別で、以下4つのカテゴリーに分類しました。
前編では1の空間訴求型まで紹介しましたが、後編では、2の非日常体験(シミュレーション)型以降を解説し、最後に今後の展望をまとめてみたいと思います。
こちらの事例は、交通事故死傷者ゼロという究極の願いに向けて、トヨタが開発した衝突回避支援パッケージ「Toyota Safety Sense」の機能理解促進ツールとして提供しました。“衝突回避支援”という機能を店頭で実際にお客さまに体験してもらうことは、安全面の確保やコストを考えると簡単ではありません。しかし、VRコンテンツにすることで臨場感のある疑似体感が可能になり、機能の特性をしっかりと理解することができるプロモーション施策となりました。
一般ユーザーの投稿によるサーフィンなどの360度動画コンテンツがよく見られるように、非日常体験型はスポーツのジャンルでの活用が目立ちます。レッドブルでは、主催しているエアレースイベントでの飛行の模様を、パイロットの目線で完全再現したCGコンテンツにして公開しています。普段は地上から見上げることしかできないレースを、あたかも自分自身が操縦しているかのように疑似体験できるコンテンツです。シンプルながらVRならではの強みを生かし、プロモーション対象物(イベント)の新しい楽しみ方をユーザーに提供しています。
さらに、テレビ業界でもVR活用の試みが進んでいます。世界一過酷なトレイルランニングのレースとして知られる「ULTRA FIORD(ウルトラ・フィヨルド)」。NHKスペシャルでは、日本におけるトレイルランニングの第一人者である日本人ランナーの視点から、この極限レースの模様をレポートしています。レースの模様を最大限リアルに伝えようと、全行程141kmを360度動画として撮影し、番組連動コンテンツとして特設サイトで公開しました。走者の荒い息遣いや道なき道を駆ける足音が生々しく響く中、レースが行われている荒涼とした大地を360度動画で見ると、その過酷さがより真に迫って感じられます。こうした試みは、これからのテレビにおける1つの新しい可能性を提示しているといえるでしょう。
このカテゴリーのコンテンツは、テーマパークなどで導入が進むVRアトラクションのような体験をプロモーションイベントとして活用するというものです。VRデバイスは当初、カジュアルなスマホVRゴーグルなどではなく「Oculus Rift」をはじめとするハイエンド機が先行して市場に出回りました。そのため、VRを活用したプロモーションも先行して実施されたものは、イベントとして舞台装置を用意した上で行う本格的なアトラクション型のものになったのです。ここ数年、国内において実施された代表的な事例としては、「ヤフー トレンドコースター」があります。これは、Yahoo! JAPANのブランディング施策として実施されたもので、「Yahoo! リアルタイム検索」の検索結果グラフをそのままコースにしてVR上でジェットコースターのように楽しむというものでした。
この他、サントリー食品インターナショナルの製品「ペプシストロングゼロ」のテレビCMの世界観をVR上に再現した360度体感型アトラクション「ONI-GOKKO」も有名です。「桃太郎」をモチーフにした同製品のテレビCMの世界をバーチャル空間で再現し、実際に鬼ごっこができるのが特徴。等身大の球体である「PEPSI STRONG BALL」の中でオキュラスリフトを装着し、画面の中で迫り来る「鬼」を「ラン」「ダッシュ」「ムーブ」「ジャンプ」の4つの動作でかわしながら、走り抜けるというものです。画面の動きはフットパネルと連動しており、無事に鬼から逃げ切った後はペプシストロング ゼロで乾きをいやすというストーリーに仕上がっていました。
P&Gグループのジレットが、アイドルにシェービングしてもらえるという疑似体験ができるVRイベントを開催しました。これはジレットのシェーバーを利用していない層への興味喚起を狙った施策で、VRゴーグルを装着したユーザーがイベントスタッフにシェービングされると、VR空間上ではスタッフが優しい笑顔のアイドルに入れ替わっているというものです。なお、VRコンテンツの中ではアイドルが頬のクリームを拭って唇の上に載せたりと、サービス満点のシェービングが行われますが、実際に同タイミングでシェービングしているのは男性スタッフ。ユーザーはそれを知りながら、アイドルが自分の顔に触れているかのような感覚に陥り、思わずニヤリ(笑)。視聴覚以外のリアルな接触がVR体験の価値をさらに高めていることが分かります。
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