「Pokemon GOのような企画を」のムチャぶりはチャンス、デジタルマーケティング全体の中で考えるARの意義マーケターのための「AR」短期集中講座 後編(1/2 ページ)

「Pokemon GO」に感化されて「これからはARだよキミ」と言いだした上司のムチャぶりを逆手に取って、ARで成功する販促企画を実現するための考え方を紹介する。

» 2016年11月09日 07時00分 公開
[北村健一スターティアラボ]

マーケターのための「AR」短期集中講座 前編はこちらから


 前編「『Pokemon GO』の波に乗りたい販促担当者がARについて最初に知っておくべきこと」では、「Pokemon GOのようにARを使って集客できる販促企画を何か考えられないか」とムチャぶりされた販促担当者に向け、ARの基礎知識をおさらいしつつPokemon GOが成功した理由について私見を述べた。後編では実際に販促企画としてARが活用されている事例および販促担当者が陥りやすい落とし穴について紹介したい。

江崎グリコのAR活用事例

 それでは、まず大手製菓メーカーの江崎グリコにおける事例をご紹介しよう。これまで江崎グリコでは「アーモンドピーク」という商品で、幾つかのAR連動コラボキャンペーンを実施している。

 例えばコロプラが配信するゲームアプリ「白猫のウィズ」や「クイズRPG魔法使いと黒猫のウィズ」のキャラクターが描かれたコレクションカードをおまけとして採用したキャンペーン。これはカードにARアプリをかざすとキャラクターが動き出すようなムービーが閲覧できるのだが、ネット上で話題となり売り切れ店が続出したことで、アーモンドピークを求めて店舗を渡り歩く「ピーク難民」という言葉が生まれた。

 また、初音ミクとコラボした「夏の音ARカード」は、ARアプリをかざすとカードが歌い出すという仕組みで、冷やすことで絵柄が変わり、ARコンテンツもそれに伴って変化するというギミックが話題になった。

 他にも最近では、お笑いトリオのロバート秋山竜次さんがさまざまな業界のトップクリエイターになりきってインタビューに答える人気動画シリーズ「ロバート秋山のクリエイターズ・ファイル」とコラボし、商品パッケージをスマートフォンで読み取ることで、秋山さん演じる?伝説のアーモンド農園園長”へのインタビュー映像を視聴できるようにするなど、AR技術を応用したコンテンツを用意することで、話題を喚起するだけでなくリアルな商材の売り上げにつなげることに成功している。

江崎グリコのAR連動販促企画

商店街の活性化にもAR活用

 AR活用は大企業だけが選択可能な手法というわけではない。東京都福生市にある商店街が町おこしにARを活用した事例を紹介しよう。同商店街では、普段足を運ばないお店にも気軽に来店してもらおうというイベント「福生ハッピー☆バル☆タウン」において、第1回開催時よりチケット購入者に渡すマップに、ある仕掛けを施している。各店舗が紹介されている欄に記されたマークにスマートフォンをかざすと、メニューや店内の様子などの映像が流れ、来店意欲が刺激されるというものだ。

 この取り組みが認められ、「第2回福生☆ハッピー☆バルタウン」は東京都産業労働局が主催する「東京商店街グランプリ」で準グランプリを獲得した。イベントは2016年2月に第4回を迎えたが、引き続きARを活用しており、1人当たりの客単価向上といった効果が見られ、チケット販売数や参加店舗数も毎年右肩上がりだという。

「第2回福生☆ハッピー☆バルタウン」の事例。マップに記されたマークにスマートフォンをかざすと、メニューや店内の様子などの映像が再生される《クリックで拡大》

ARプラットフォームの活用で参入障壁が下がった

 商店街の活性化といった、プロモーション予算が限られた場合にもARが利用されるケースが増えてきている理由の1つとして、アプリを開発しなくても利用できる「プラットフォーム型の相乗りサービス」の普及が挙げられる。

 一般的には企画ごとにARアプリをコンテンツ込みでして開発することになるため、当然ながらコストが非常に高くつく。開発期間も長期にわたり、さらにアプリストアへの申請にも時間がかかってしまうので、ある程度の規模で前もって十分に準備期間を確保してスケジュールを組める企画でなければ、採用しにくかった。

 しかし、プラットフォーム型であれば、サービスにもよるが、開発コストは10分の1以下に抑えることができ、コンテンツさえあればARを利用できる環境を短時間で作ることが可能だ。

 プラットフォーム型のサービスには、共通のARアプリが既に公開されている。このアプリを立ち上げ、カメラを使って媒体に印刷されたマーカーを読み込むと、そのマーカーがあらかじめクラウド上に登録されているかどうかを検索する。登録されていた場合はそれにひもづいたデジタルコンテンツをダウンロードして閲覧できるようになるという仕組みである。これもモバイルインターネットの速度やスマートフォンカメラの画像認識精度、クラウド技術などが総合的に向上し、リアルタイムな処理が可能になったという背景がある。

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