今後ますます成長が見込まれるWeb動画広告市場ですが、もちろん、課題がないわけではありません。最終回となる今回は、すでに表面化している諸課題と近未来に予測される問題について解説します。
Web動画広告を取り巻く市場概況から実践するためのKPI設計、予算アロケーションの考え方に至るまで、これまでの連載で一通りのことはお分かりいただけたと思います。Web動画広告の可能性は底知れぬものがあります。とはいえもちろん、ただ始めさえすれば必ずうまくいくというものでもありません。第4回は、表面化している諸課題と近未来に予測される問題について、解説したいと思います。
第1回でも触れましたが、Web動画はテレビCMより割高です。テレビCMは出稿予算が億単位になりがちなのでイメージしにくいかもしれませんが、1リーチ当たりのコスト効率は良いのです。「テレビでリーチできるのは子どもと高齢者ばかり」という見方も根強くあり、それが必ずしも無根拠とは言い切れないことも、われわれの研究で分かってきていますが、それでもやはり、テレビCMの方が安いのが現実です。その現実をどう受け止め、広告費全体の中でWeb動画をどう位置付けていくべきか、考えていきます。
テレビCMが安いとはいえ、テレビCMだけではリーチできないユーザー層が多いことも確かです。だから、テレビでリーチ可能な層にはできるかぎりテレビCMでリーチすることにして、残りを「やむなく」Web動画で補完するという考え方は合理的だと思います。
高コストの出稿をするわけですから、効率が少しでも良くなるように「運用」していくことがとても大事です。入札コストの低減化、フリークエンシーの制限、テレビでは届かない層へのターゲティング配信など、やるべきことはたくさんあります。私はテレビ予算の2、3割はWeb動画に投資すべきと考えています。それを無駄金にしないためにも、テレビCMの買い付けよりも手間を掛けて運用していく必要があるのです。
商材にもよりますが、ターゲットの年齢層が狭ければ狭いほど、若ければ若いほど、デモグラフィック(性年齢)別配信ができるWeb動画の方が、出稿全体に対するリーチ率は高くなっていきます。「無駄撃ち」が少なくなっていくわけです。そうなると場合によっては、Web動画の方がテレビCMのリーチコストよりも割安になることがあります。女性専用商材とか学生向け商材とか、ターゲットが絞られている商材を持つ広告主にとって、Web動画は極めて有効な手段となり得るのです。
とはいえ、セグメンテーションの正確さについては、少し疑問があることも確かです。われわれも、調査会社をアサインしてSSP(シングルソースパネル)を活用したターゲットリーチ率検証を行いながら、日々改良を進めています。
広く一般にリーチすべき内容はテレビCMに任せ、理解を深めてほしい内容をWeb動画で訴求する。それぞれの役割を変えて、うまくすみ分けるような考え方です。
ただし、全員がテレビを見ているわけではありませんから、ターゲットは「テレビCMを見て商品認知ができている層」と「テレビCMを見ていなくて商品認知ができていない層」の2グループに分かれます。そもそも認知ができていなければ理解を深めることもできませんから、そこは課題となります。2つのグループに配信内容の出し分けができるといいのですが、現状では難しいといわざるを得ません。そこでわれわれはテレビCMに接触しない層のWeb行動データ分析を行い類似ユーザーリストを作成し、それに基づいたターゲティング配信を行う研究を進めてきました。まだ完璧とはいえませんが、テレビCMを見ていなくて商品認知ができていない層に効果的にリーチすることで、認知を補完することもできるようになってくるでしょう。
日本市場ならではの話として、オークション形式の広告取引は全般的に3月に高騰する傾向があります。予算消化のタイミングで、各社が入札を強めるからです。
Web動画の世界でも、YouTubeを中心にしてここ数年、3月の入札単価は高騰傾向にあります。リーチコストの金額が他の時期よりも明らかに高くなり「より割高感の増す」時期となります。解決策を考えてみましょう。
予約型であればCPM買い(定額購入)ができますので、出稿金額が確定しているなら、予約してしまうことも一手です。また、需要期にはメディアによっては「在庫切れ」のリスクもあります。CPM買いはそのための対策にもなるでしょう。
商品発売のタイミングであるとか期間限定キャンペーンでなければ、配信期間を長めに取って、予算を分散させることも有効な一手です。早めに判断して、コスト効率の良い配信につなげられるようにしましょう。
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