今、海外進出する多くの企業がマーケティング戦略で課題を抱える。既存の手法が行き詰まりをみせる中で注目されるのがソーシャルメディアだ。アジア新興国の現場で活躍するコンサルタントの知見を紹介しよう。
成長著しいアジア新興国、そして、新たな情報インフラとして拡大を続けるソーシャルメディア。この2つの大きな潮流の中から、「アジア新興国におけるソーシャルメディア活用」というテーマが浮かび上がり、企業の注目を集めるようになった。本連載では、4回にわたってこのテーマを掘り下げるとともに、ソーシャルメディアが潜在的に持つ可能性から今後の展望について考察する。
世界最大のSNSであるFacebookの創設者マーク・ザッカーバーグ氏の取り組みをデビッド・フィンチャー監督が映画化した「The Social Network」が注目を集めている。Facebookに代表されるソーシャルネットワークやソーシャルメディアは、10年にも満たない期間で瞬く間に広がり、私たちの生活の中で重要な情報インフラとなりつつある。これをどのように利用してビジネスに生かしていくのかという大きな命題が生まれている。
また、グローバルなビジネスや経済の状況を見てみると、アジア新興国の成長が著しい。今後の将来性も含め、企業にとっては重要な地域となっている。かつてのような労働市場や生産拠点としてではなく、消費市場・購買市場としても見る向きが強まっている。特に日本企業にとっては、アジア新興国の市場で大きな優位性をどのように確保するかということも大きな命題である。
この2つの命題は、それぞれ個別に論じられている。しかし、この2つを一体として捉えながら論じることで、それぞれの命題に対する何らかの方向性や示唆を得られるのではないだろうか。本連載では、「アジア新興国におけるソーシャルメディア活用」を考察し、2つの命題を異なる側面から見つめながら、今後の可能性や展望を描くことを試みる。今回は、アジア新興国におけるソーシャルメディアの現状を見ていこう。
インターネットの普及によって情報技術革命がうたわれて久しい。アジア新興国にも、この波が押し寄せ、この数年でインターネットが大きく普及した。その一例として、インドネシアのデータを紹介しよう(グラフ1参照)。インドネシアは世界4位の人口を抱える。若年層が全体の60%を占めるなど、消費市場・購買市場として注目を集め、実際に企業からの問い合わせを受け、幾つものプロジェクトを実施しているほどだ。インドネシアのインターネット普及率の推移を見てみると、2007年まで数%台に留まっていたが、2008年以降に急激な伸びを示し、2010年調査では約4000万人に当たる17.8%となった。また、携帯電話普及率も堅調な伸びを見せており、2010年調査では約1億8000万人に当たる76.8%となっている。
この普及ペースは、欧米諸国や日本に比べれば遅いものの、あと数年もすればほぼ同水準になることは間違いない。さらに興味深いのは、ソーシャル・ネットワーキングの普及を示す次のデータである(グラフ2参照)。
このデータによると、インドネシアではインターネット総人口の89%がソーシャル・ネットワーキングを利用している。その他のアジア新興国を見ても、いずれも高い数値を示しており、日本の42%と比べても、アジア新興国はソーシャル・ネットワーキングが大きな広がりを見せていることが分かる。
これは欧米諸国や日本に比べ、アジア新興国ではマスメディアの活用と成熟化が進んでいないことが大きい。アジア新興国は消費市場・購買市場がまだ成長過程にあり、それに伴うマーケティング手段としてのマスメディアの活用も、先進国と同等レベルまでには成熟していない。このような状況下で、インターネットやモバイルのインフラ導入が急速に進み、ソーシャルメディアが出現したのである。若年人口の増加といった人口構成上の変化も、ソーシャルメディアの広がりをさらに加速させることになった。
アジア新興国では、ブロードバンドより携帯電話の普及が著しく、この点もソーシャルメディアの普及を後押ししている。つまり、携帯電話キャリアの低価格戦略と、データ量が少ないコミュニケーションインフラとしてのソーシャルメディアが適合しており、利用の促進につながっているのだ。
余談になるが、インドネシアでは若年層がファッションの一部として、携帯電話を1人で2〜3台所有しており、Facebook、Twitter、Gmailなどを標準的なコミュニケーション機能として使用している。彼らは、HTMLベースから始まったインターネット文化の成長の過程――ホームページ〜ポータルサイト〜Web2.0〜ソーシャルメディア――を飛ばして、始めからソーシャルメディアを活用している。彼らは“ソーシャルメディアだ”と認識して、この機能を使用しているわけではない。ごく自然に使い、ごく自然と広げていったのである。
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