たった1つの検索エンジンが強大な力を振るい、インターネット上の情報にバイアスをかけ始めたらどうなるだろうか。「未来世紀ブラジル」のような世界になる、というのは冗談としても、検索エンジン市場の独占によってWeb検索のイノベーションは停滞していくとエデルマン氏は予測している。
同氏は、検索エンジンをGoogleに切り替えたAOLを引き合いに出し、同じ単語で検索した際の情報の差を指摘する。「ここでサンフランシスコのホテルを検索してみましょう。Googleで検索すると、地図もあれば、ホテルの住所や電話番号もあり、地図にはそれぞれの場所を示すピン、そして利用者の詳細なレビューも出ます。一方、AOLで検索した結果にはこれらの最新機能が反映されていません。するとユーザーは今後Googleを使うようになり、AOLは弱体化していくでしょう。おそらくGoogleのエンジンに切り替えてから1、2年はAOLにもすばらしいデータが渡されていたはずなのですが」。そしてこれはYahoo! JAPANでも起こりうることだと警告する(ただしヤフーの井上社長は、検索結果に「付加価値を付ける自由度は極めて高い」と語っており、ここで指摘された地図や天気などの要素はGoogleの検索エンジン以外から表示する部分に相当する)。
続けてエデルマン氏は「Googleは嘘をついている」とも非難している。“人為的バイアスのない形で情報にアクセスできる”というのがこれまでGoogleが繰り返してきた基本理念だが、一方で非常にマイナーなGoogleの自社サービスが、ある特定の単語で検索すると一番上に表示されたことがあるという。「試しに単語の後ろにカンマをつけると、不思議なことにこれらの結果は一変します。そういった結果を示す単語は私が調べただけでも2600以上ありました。彼らはマニュアルでの介入をしない、つまりハードコーディングをしない、という約束を破っていた可能性があります」。
また、Googleが個人のプライバシーを軽視しがちな企業であることもエデルマン氏の懸念を強いものにしているようだ。例えばGoogle Toolbarの問題。Google Toolbarの導入後にユーザーがその利用を停止しても、プログラムはバックグラウンドで動き続け、ユーザーが閲覧したページなどの情報をGoogleのサーバに送っていたという(エデルマン氏のブログでは動画付きで説明されている)。「この問題を私が公開した日にGoogleはこの機能を停止しました。このようにGoogle Toolbarは一方的にアップデートできる仕組みですが、再び同じことが繰り返されない保証はありません」。
ちなみにGoogleは、2010年だけで見てもStreet View(街中を走り回る写真撮影用の車両でメールやパスワードを含むWi-Fiのデータも収集していた)やGoogle Buzz(個人情報が意図せず公開されてしまう)で、プライバシーに関する“不祥事”を起こしている。
エデルマン氏は「検索エンジンがたった1つになれば、ユーザーの選択肢はなくなり、プライバシーは保たれず、Webで何を見つけられるかは検索エンジンを持つ企業が決定することになります」と述べ、検索エンジン市場の競争の重要性を繰り返し強調した。「ヤフーとの技術提携で彼らはサーバの共用を明言しており、データの分離を約束しているとはいえ、Googleが“信じてほしい”と言っても本当に信じることができるのでしょうか(ヤフーの検索連動広告に関する情報にアクセスできるのは、保守管理などの技術的な業務に限定された米Googleの技術部門の一部と説明されている)。独占禁止法は市場や消費者を守るために一世紀かけて作られてきた法律だということを思い出すべきです」。
エデルマン氏の懸念が現実の問題として表出するかどうかは今後の動向次第だが、彼が主張する“可能性”については意識しておく必要があるかもしれない。
12月2日、公正取引委員会はヤフーとGoogleの技術提携に関して、「現時点において独占禁止法上の措置をとるべく引き続き調査を行う必要はない」との判断を改めて公表(PDF)したうえで、情報提供を受け付ける専用メールアドレス(kensakukoukoku@jftc.go.jp)を設置し、「引き続き注視する」と述べている。
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