デジタル広告の信頼性、先進企業が気にしていることとは?――IASのCEOに聞くアドベリフィケーションへの投資について考える(1/2 ページ)

日本の広告主は「アドフラウド」「ビューアビリティー」「ブランドセーフティー」の問題にどう向き合うべきか。

» 2018年11月06日 08時00分 公開
[冨永裕子ITmedia マーケティング]

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 2017年1月、デジタルマーケティングの世界的な業界団体であるInteractive Advertising Bureau(IAB)の総会において、P&G最高ブランド責任者のマーク・プリチャード氏が示した「透明性の担保された媒体としか取引をしない」という強い意志は世界中に波紋を広げた。

 デジタル広告の魅力とは、広告枠でなく人を軸にした訴求が可能になることで、効率的かつ高い効果が期待できることにある――はずだった。

 しかし、実際には広告費の対価として提供されるインプレッション(Webブラウザにおいて広告が表示された回数)が人間ではなくbotによるものであったり、インプレッションは数えられつつも実際には人間が物理的に目視できないところに広告が表示されていたりすることが少なくないと分かってきた。これらは要するに広告の「ムダ打ち」にほかならない。さらに、フェイクニュースや暴力、ポルノ、どうかするとテロリストのWebサイトなどの公序良俗に反する媒体に勝手に広告が表示されてしまい、自社のブランドイメージをかえって損なうといった問題も生じている。

 「アドフラウド(不正インプレッション)」「ビューアビリティー」「ブランドセーフティー(ブランドリスク)」は、今や多くのブランド広告主にとって無視できない重要課題となった。そこで、デジタル広告が広告主の想定通り正しく掲載されているかを測定するアドベリフィケーション(広告効果検証)へのニーズが高まっている。2018年10月現在、13カ国でアドベリフィケーションサービスを提供するIntegral Ad Science(以下、IAS)でCEOを務めるスコット・クノール氏に聞いた。

スコット・クノール氏

米国の広告主はもはやCTRには関心がない

――IASがアドベリフィケーションに関するビジネスを始めた背景について聞かせてください。

クノール氏 IASは2009年の設立時はAdSafe Mediaという名前でした。社名を変更したのは2012年ですが、創業当時から広告計測を行うだけでなく、どのようにブランドセーフティーを担保できるかに注力してきました。広告主や媒体社と力を合わせてソリューションを開発する過程で、アドベリフィケーションにおいてはビューアビリティーが重要という結論に至りました。グローバルでは広告のビューアリビリティーを重視する傾向が顕著に見られます。

――日本ではまだ広告主が媒体社に対してビューアビリティーの向上を声高に要求することは、それほどないような気もしますが。

クノール氏 確かに、日本では今でもCTR(クリック率)などの直接的な指標が好まれる傾向があるかもしれません。それは、かつて米国でも同じでした。しかし、それ故にCTRの高い広告枠が高値で取引されることを悪用して、botが不正にクリック数を稼ぐような手口が登場しています。ですから、米国の広告主はすでにCTRは見なくなってきているのです。状況が変わってきたのは、ビューアビリティーを高めることが広告の最適化につながることに広告主自身が気づいたからです。クリックの手前には閲覧があるはずですが、CPM(Cost Per Mille)ベースで出稿していると、見られにくい場所に広告が配置されていても、1インプレッションとして課金されてしまいます。

――日本におけるIASの事業はどのように展開しているのでしょう。

クノール氏 当社はグローバルトップ100広告主のうち80社、2500社を超えるパブリッシャー、150社を超えるテクノロジーパートナーに採用されています。日本でのお客さまの構成比は約半分が広告主になります。資生堂、花王、ソニー、日本たばこ産業、LIFULLなどが主だった広告主のお客さまで、IBMやMicrosoftなど外資系企業ももちろん私たちのソリーションを利用しています。媒体社では朝日新聞社、東洋経済新報社、講談社、Yahoo! JAPAN、広告プラットフォーム事業者ではThe Trade DeskやマイクロアドもIASを活用しています。

――海外と日本で広告主の問題意識に違いはありますか。

クノール氏 既にアドベリフィケーションに取り組んでいる企業に関しては、問題意識は同じです。ただし、問題意識を持った時期は決定的に違います。米国では既に7年ぐらい前からアドフラウドやビューアビリティー、ブランドセーフティーに関する議論が進んでいたのですが、日本でははここ2年ぐらいでやっと認知されました。時間差がある分、日本では知識の習得が若干遅れているという印象があります。とはいえ、私たちが日本のオフィスを立ち上げた2015年と比べれば、外資系日本法人だけでなく、国内の大企業の意識がかなり変わり始めているのは確かです。

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