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» 2012年12月17日 11時49分 UPDATE

【連載】ビッグデータアナリティクス時代のデジタルマーケティング:第5回 増え続ける情報とどう向き合うか――「代官山 蔦屋書店」が目指す未来の本屋 (1/2)

爆発的に増加し続ける情報は顧客の何を解決できるのか? 「代官山 蔦屋書店」をモデルに情報とビジネスの関係を考える。鍵は「人間理解」である。

[大元隆志,伊藤忠テクノソリューションズ]

 増え続けるデータをコストとはとらえず活用することで、収益につなげる――。ビッグデータでよく語られるストーリーだが、1つ重要な視点が抜けている。「顧客」にとっての価値は何なのかという点である。「ビッグデータ時代は、プライバシーを対価として商品やサービスを安く手に入れられる」。確かにそういった視点もあるとは思うが、それだけでは「顧客」にとっては「不安」の方が大きいように思う。

 今回は、情報爆発時代に「顧客は何を解決してもらいたいのか」を突き詰めた「代官山 蔦屋書店」を取材した。そこには「人間」を中心として「増え続ける情報とどう向き合うか」がデザインされた、未来の本屋の姿があった。

ターゲットは「大人を変える大人たち」:「代官山 蔦屋書店」とは

 TSUTAYAと言えば駅前の利便性の良い位置にあり、ビジネス書や情報誌、映画や音楽が1つになった20代〜30代を顧客層とする店舗を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。

 しかし、2011年12月5日に代官山駅から徒歩5分の場所にオープンした「代官山 蔦屋書店」のターゲットは「大人」、しかも単なる大人ではなく「本物を知っている情報感度の高い大人」をターゲットとする。「代官山 蔦屋書店」ではこの“情報感度の高い大人”を 「プレミアエイジ」と呼んでいる。そして、この「代官山 蔦屋書店」では、アナログとハイテク両方の力で「店舗のあるべき姿」を追求している。

情報爆発時代の問題解決の鍵は「人間」

 書店において情報爆発時代の対応と言えば、どんなことが考えられるだろうか。

 「ECサイトを立ち上げ、検索性を向上させる」「タブレットを配置して誰でも店内の在庫検索ができるようにする」「会員カードを作ってレコメンドを行う」……。過激なことを言う人なら、電子書籍リーダーのためのショールーミングに徹するという発想もあるかもしれない。どれも正しいが、果たして、このようなことだけが「顧客」の求めるものへの解答なのだろうか。

「キュレーション」で情報を集約

 オンラインに店を構えるアマゾンの特徴はその豊富な品揃えにある。店舗の在庫スペースという物理的な制約を受けないオンラインでは、扱える品数の桁が違う。さらに電子書籍では保存スペースは実質無制限である。アマゾンキンドルストアには洋書を含めれば150万点以上の品揃えがある。この数字はリアル店舗の商品展示数を大きく上回る。

 アマゾンの品揃えに対抗するかのような都内の大型書店に足を踏み入れると、壁いっぱいに書籍が並べられている。店員に「○○の本はありますか?」と尋ねると、在庫検索用の端末の場所を教えられる。そんな時にふと思う。「だったらアマゾンで検索して買おうかな」と。オンラインショップの利点にリアル店舗が同じ特徴で挑めば、むしろ「ショールーミング化」を加速させるしかなくなる。

 「代官山 蔦屋書店」はここで1つの「情報爆発時代」における店舗のあり方を提案している。

 「代官山 蔦屋書店」では、中央に配するマガジンストリートの両脇に「人文/文学」「アート」「建築」 「クルマ」「料理」「旅行」というライフスタイルに特化した小部屋を配置した。この小部屋の中は「見渡せる情報空間」であり、それによって、情報に圧迫される空気感を払拭する。

oomoto05_02.jpg 「代官山 蔦屋書店」の6つの小部屋

 都内の書店に並ぶ書籍は、売れ筋と新刊本を並べて「今」を表現した空間である。一方、「代官山 蔦屋書店」の小部屋は、まるでハリーポッターのダンブルドア校長の部屋、「知恵と歴史」が凝縮された空間だ。

 数多くの書籍を限られた空間に敷き詰めるのではなく、「視線の範囲内」に見るべき書籍を「キュレーション」することで、情報爆発時代に困惑する「顧客」を心地よい情報で包み込む。

コンシェルジュによる本物の経験

 「代官山 蔦屋書店」には「コンシェルジュ」が存在する。世界百カ国を巡った旅行のプロ森本剛史氏、女性誌の編集長を務めていた勝屋なつみ氏、年間700冊の本を読破し、書評家でもある間室道子氏らといった、その道の玄人から信頼を集める「コンシェルジュ」が何気ない対話の相手となり、時には雑談で終わるときもあれば、新たな知的好奇心を提案する案内人ともなる。

 なぜ、このような専門家が必要なのかと言えば、「代官山 蔦屋書店」のターゲットは「本物」を知ったプレミアエイジだからだ。情報感度の高い彼らは写真や書籍の中だけで得た知識ではなく、自ら足を運び、肌で感じ、本物に触れる喜びを知っている世代だ。

 そのような世代を相手にするには、本物の知見と経験を持っている人間でなければならない。ネット上の情報では満足しないプレミアムエイジをもてなす「案内人」を37人雇用し、対話の中から顧客の知的満足度を刺激する。コンシェルジュの役割はあくまでも「案内」であり、「書籍のセールス」ではない。

3つの方法で「情報爆発時代」を解決する

 もちろん店内に自分の読みたい本を探しに来る人もいる。そういったすでに「目的」が決まっている人のためには、店内に225台のiPadを配備し、タッチスクリーンによる在庫検索を行えるようにしている。

tablet.jpg 店内に225台あるiPadで在庫検索が行える

 「代官山 蔦屋書店」は「キュレーション」と「コンシェルジュ」と「タブレット」によって、検索、発見、提案といった「新たな知識に触れる場所」をデザインしているのである。

oomoto05_01b.gif 「代官山 蔦屋書店」がデザインする情報との出会い

「代官山 蔦屋書店」の考えるレコメンド

 コンシェルジュによる提案と、アマゾンの関連商品を紹介してくれるデジタルなレコメンドの違いとは何だろうか。両者共にまだ見ぬ自分の知らない商品を紹介してくれるという点では同じだ。

 しかし、デジタルに行われるレコメンドと、人と人との会話から生まれるレコメンドには似ているようで大きな違いがある。例えば、パリの街を訪れるためにパリに関する書籍を読んでいたとしよう。アマゾンのレコメンドでは、パリに関連する書籍や関連書籍を購入した人の商品がレコメンドされる。つまり、あくまでもパリを中心とした「関連商品」が紹介されるのだ。

 これがもしコンシェルジュなら「なぜパリを訪れるのですか?」と問いかけてきてくれるだろう。そして、もしパリに訪れる理由が「小説家になる夢を諦めてビジネスマンになったわたしだが、たまには日常を忘れられる場所を訪れたい」だとしたら、気分転換のための映画や音楽を教えてくれるかもしれないし、アメリカの小説家ヘミングウェイが初めて小説を書く時にパリで住んだ地域の旅行を提案してくれるかもしれない。

 パリに関連する商品の情報が必要なわけではなく、気分を変えるための方法が本当の欲求なのだから、キーワードや類似商品に基づくレコメンドでは「人の深層」までを推測することは難しい。

 また、デジタルで表示されるレコメンドは無意識に自分の知識と外れた知識は除外してしまう。しかし、人との対話は一見自分が求めていたものではないことも、「そう言われてみれば」と気づきを与えてくれる。

 深層心理や今の感情に基づいて、人の選択は常に変化する。デジタルのレコメンドは一定のパターンを紹介してくれるが、人の繊細な部分には対応しきれない。コンシェルジュによる提案は「人」ならではの、まだ見ぬ知識との出会いをもたらしてくれるだろう。

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