主戦場は「テレビ画面」へ YouTube20周年でCEOが公開書簡クリエイターとユーザーのためのプラットフォームとして

20周年を迎えるYouTubeが、クリエイターとユーザーの双方にとってより魅力的で革新的なプラットフォームとなるために重視していることとは何か。YouTube CEOのニール・モーハン氏が示した4つの重要な戦略について紹介する。

» 2025年02月14日 18時00分 公開
[ITmedia マーケティング]

 2025年2月11日(米国時間)YouTubeのCEOを務めるニール・モーハン氏は恒例の年次書簡を公開し、YouTubeの今後の方針と重点施策について説明した。

 2005年2月15日に設立されたYouTubeはまもなく20周年を迎える。この書簡は、節目のタイミングで発表されたこともあり、業界内外から大きな注目を集めている。

これからのYouTubeにまつわる4つの戦略

 冒頭、モーハン氏は次のように述べている。

 今年、YouTubeは創設20周年を迎えます。この20年間で、YouTubeは動画を通じて文化を変革し、活気に満ちたクリエイティブエコノミーを構築してきました。今日のクリエイターたちは、デスクトップコンピュータで自分自身の粗い動画を撮影する段階から、スタジオを設立して人気のトークショーや長編映画を制作するまでに進化しました。そして、人々ももはやコンピュータやスマートフォンだけでYouTubeを視聴しているわけではありません。テレビが携帯端末を上回り、現在では米国におけるYouTube視聴の主要デバイスとなっています(視聴時間ベース)。さらに、ニールセンによると、YouTubeは2年連続で米国のストリーミング視聴時間で1位を獲得しています。また、まだ初期段階ではありますが、AIがYouTubeでのコンテンツの制作と消費の方法に大きな変化をもたらしています。

 モーハン氏によれば、YouTubeは2025年に向けて、以下の4本柱に注力するという。

1. YouTubeをカルチャーの中心に

 YouTubeは自由な表現の場として音楽、ショート動画、ライブ配信などを通じてトレンドを生み出している。最近は特にポッドキャストの人気が急上昇しており、米国で最も利用されるプラットフォームになっている。2024年の大統領選では、ジョー・ローガン氏によるトランプ候補へのインタビューが5500万再生を記録し、「YouTube選挙」と呼ばれるほどの注目を集めた。また、オリンピックやスーパーボウルなど世界的イベントの舞台にもなり、フランスやオーストラリアのクリエイターも海外で大成功を収めている。今後はポッドキャスター向けツールの強化や収益化の拡充を進める。

2. YouTuberをエンターテインメント業界のスタートアップに

 エンタメ業界にもスタートアップ文化が必要だ。YouTuberはその精神をハリウッドに持ち込み、新しい制作モデルを導入している。2024年、YouTubeの有料メンバーシップは40%以上増加した。クリエイターのアラン・チキン・チョウはハリウッドに近い米カリフォルニア州バーバンクに1000平方メートルのスタジオを開設した。アラバマやカナダのバンクーバーでもYouTuberが次々とスタジオを設立している。

 YouTubeは、広告やYouTube Premiumといった収益源に加え、ブランドとのコラボなど新たなマネタイズ手法を提供する。2025年には1万ドル以上の収益を上げたチャンネルの50%以上が、広告以外の収益を得ていた。例えば、ファッション系YouTuberとして人気のBora Claireはカシミアカーディガンのレビュー動画1本で数十万ドルの売り上げを生み出している。 YouTubeは視聴者との交流を強化すべくコミュニティ機能を拡大し、新機能「Hype」で新進クリエイターを世界中で支援していく(いずれも日本では未導入)。

3. テレビ画面での視聴拡大

 YouTubeは、大画面でのコンテンツ視聴体験の向上に注力する。今日、1日平均10億時間以上のYouTubeコンテンツがテレビで視聴されており、米国ではテレビがYouTubeの主要な視聴デバイスとなっている。新しいテレビは従来のそれと異なり、双方向性がある、また、ショート動画やポッドキャスト、ライブ配信なども楽しめる。

 コネクテッドTVの成長は広告主にとって大きな魅力だ。QRコードや一時停止広告など、大画面向けのフォーマットの導入も進んでいる。

 定額制サービスも順調に成長している。米国のYouTube TV加入者数は800万人を超え、YouTube MusicとYouTube Premiumの加入者数(無料トライアルユーザーを含む)は1億人以上に達した。今後も「注目プレイ」や「マルチビュー」など、YouTube TVで人気の機能をさらに改善し、新世代のテレビ体験を創造する。

4. AIがクリエイターを後押し

 AIはおすすめ機能の最適化や字幕生成、有害コンテンツの削除など、YouTubeの進化を支える重要な役割を果たしてきたが、クリエイター向けの新しいAIツールへの投資も進んでいる。

 2024年はショート動画向けに画像や動画の背景を生成する「Dream Screen」、インストゥルメンタルサウンドトラックを生成する「Dream Track」が一部のクリエイター向けにリリースされ、今後は高性能な動画生成AIモデル「Veo 2」の導入も予定している。

 YouTubeはAIを活用してクリエイターの制作活動を支援し、新たな視聴者獲得を促進している。動画のアイデア創出やタイトル、サムネイル作成のツールを開発中だ。加えて、自動吹き替え機能を拡充して多言語対応を進め、グローバルな視聴者へのリーチを容易にしている。

 同時に、クリエイター保護のためのガイドライン構築やAIによる個人描写の管理ツール開発も進めている。さらに、若年層の安全確保や教育分野への投資も強化している。2025年には機械学習による年齢推測機能を導入し、ユーザーに適切な体験を提供する計画だ。

 これらの4本柱は、YouTubeのプラットフォームとしての価値を高め、ユーザーエンゲージメントを促進することを目的としている。マーケターは、これらの変化に適応し、新しい機能や機会を積極的に活用することで、より効果的なYouTubeマーケティング戦略を構築できるだろう。

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