AIが変えるソーシャルメディアの未来について5つの視点で考察。後編では「創作の民主化」「AIエージェント」「広告パフォーマンスの最適化」について紹介する。
AIの進化はソーシャルメディアにどのような変化をもたらすのか、「『ディープフェイク』が本当に危険な理由とは? AIが変えるソーシャルメディア5つのシナリオ【前編】」では「AI botアカウントが大量に出回る中で人間が受ける影響」「AIがもたらす誤情報の深刻度」について述べた。
後編では「創作の民主化」「AIエージェント」「広告パフォーマンスの最適化」について紹介する。
AIは新たな創作ツールを提供し、多くの人々にこれまで想像もできなかった形で芸術表現の可能性を広げている。
すでに多くの成功したアーティストが創作プロセスにAIを取り入れており、これによって彼らは自分の頭の中にあるアイデアをより的確に視覚化し、他者と共有できるようになっている。
AIによる音楽生成ツールは、音楽理論を何年も学習することなく、新たなアーティストの波を生み出すだろう。AIによる映像制作は、これまで莫大なコストがかかっていた映画表現を劇的に手軽なものにする。AIによる文章作成ツールは、作家のアイデアを具体化し、洗練させる手助けをする。
可能性は広がる一方で、「創作の中間プロセス」を省略できるようになることで、芸術の本質的な要素を見落とした質の低いコンテンツが大量に生まれる懸念もある。
AIによって生成された、大掛かりなプロダクションのようなアニメーションコンテンツの描写とともに「ハリウッドはもう終わりだ」と宣言する人々を見ると、いつもこのことが頭に浮かぶ。
これらの作品に欠けているもの、そしてこれからも欠けていくであろうもの、それは人間の心だ。人間の視点で語られるストーリーが統一された創造的ビジョンの下で融合し、真の芸術を生み出すために一体となった芸術的要素がAIには足りないのだ。
実際のところ、こうした芸術を本当に極めることができる人はごくわずかだ。感情を伝える脚本を書く、心を揺さぶる絵を描く、人々の胸に響く楽曲を作る――。これらは何年もの経験と試行錯誤を経て初めて可能になるものだ。そして、芸術は人間同士のつながりを生み出す媒体であり、生成AIはこの本質的な部分を再現するにはまだほど遠い。むしろ、今後もAIがこの領域に完全に到達することはないのではないかと考えている。
従って、AIの進化によってより多くの人が「作品を作る」ことができるようになるとしても、それが私たちの知る芸術の終焉を意味するわけではない。なぜなら、人の心に響く本物の芸術を生み出すには、途中の試行錯誤や学びが不可欠だからだ。
もちろん、AIを使えば「それっぽい」作品を作ることはできる。しかし、本当に芸術としての価値を持つ作品を生み出せるのは、ごく少数の「本物のアーティスト」だけだろう。
生成AIの次の大きな進化として注目されているのが、「AIエージェント」と呼ばれる技術だ。これは、単なるチャットbotではなく、ユーザーの代わりにさまざまな作業やタスクを実行できるシステムである。
OpenAIは、近日公開予定のAIエージェントシステム「Operator」を発表した。このシステムは、例えばユーザーの希望条件に基づいて旅行の予約を行うなど、Web上のタスクを自動で実行できる。
このようなシステムは、これまでの生成AIアシスタントの進化形と考えられており、単なる情報提供にとどまらず、日常的な単純作業を肩代わりすることでユーザーの生活を効率化することを目的としている。
LinkedInも同様の取り組みを進めており、これを「エージェント時代(Agentic Era)」への移行と位置づけている。
LinkedIn(外部リンク/英語)は以下のように説明する。
採用担当者が適切な人材を採用したり、マーケターがより成功したり、学習者が適切なスキルを習得したりするのを支援するなど、プロフェッショナルがエージェントに指示を与え、作業を監督できるようにします。エージェントはユーザーの好みを学習し、より個別化された体験を提供します。これにより、ユーザーは仕事の中で本当に情熱を注げることに集中しやすくなり、より多くの機会にアクセスできるようになります。私たちはこのエージェント時代において、メンバーや顧客により大きな選択の自由を提供できると考えています。
この技術はデジタルコミュニケーションのあり方を根本から変える可能性があり、マーケティングプロセス全体にも大きな影響を与えるだろう。というのも、商品やサービスを探す過程で人々がますますAIに頼るようになるとすれば、それはブランドの顧客獲得戦略そのものにパラダイムチェンジを迫ることになるからだ。
例えば、AIエージェントがユーザーの嗜好に合わせてカスタマイズされている場合、選ばれるためにはまず、その嗜好の一つになる必要がある。そして、もし彼らがすでにそのようなルールを確立し、それに満足しているのであれば、変えさせるのはさらに難しいだろう。
これは、今後のマーケティング戦略全体に影響を与える重要なポイントであり、チャンスを最大限に生かすために、全く新しい考え方が必要になる可能性がある。
こうした変化を踏まえると、企業はより「顧客体験(CX)」と「サービスの質」に注力し、既存のクライアントの満足度を高めることがより重要になると考えられる。AIエージェントがユーザーの選好を管理する時代においては、一度確保した顧客の信頼を維持し続けることが、競争優位性を保つ鍵となるだろう。
最後に、AIと機械学習による広告パフォーマンスの向上について触れたい。
各ソーシャルプラットフォームでは、AIが「何が効果的か」を体系的に分析し、広告のエンゲージメントやレスポンスを最大化している。この技術の進化により、マーケターは従来の知識を再考せざるを得なくなっている。というのも、AIシステムは、これまでの人間によるカスタマイズやターゲティングのどのレベルよりも優れた成果をすでに出し始めているからだ。
やがて、生成AIと機械学習によるパターン認識が広告制作の大部分を担うようになり、人間の介入はほとんど必要なくなるだろう。実際、マーケターがシステムに自社製品のURLを入力するだけで、AIがその商品説明や画像を取得し、ユーザー一人一人に最適な広告キャンペーンを自動生成できるようになりつつある。
このような環境では、従来のマーケターがAIと競争するのは難しくなる。しかし、一方で最も成功する広告キャンペーン、特にブランド構築に役立つキャンペーンは、ニーズを充足させるだけでなく、創造的で魅力的であり、深いレベルでブランドと人々をつなげるものだ。
そのため、広告の世界では今後も「創造性」が最も重要な要素であり続け、新しい方法でブランドの価値を示すことになると思う。消費者向けの広告は、AIによって簡単に作成・最適化されるようになる。マーケターの仕事は、オーディエンスやターゲティングの知識を競うことではなく、AIマッチングを最大化することへシフトしていくだろう。
繰り返すが、AIエージェントの普及によって、ブランドの重要性はさらに高まると考えられる。なぜなら、全ての成功したブランドの核には「ストーリーテリング」があるからだ。つまり、マーケティングの一部はAIによって大きく変化するものの、「適切なオーディエンスに響く強いブランド」を構築するには、人間同士のつながりが欠かせない。これは、AIシステムには再現できない領域だ。
実際にAIが多くの要素を変革しようとしている以上、賢明なマーケターはAIの「可能性」と「限界」の両方を理解し、それを最大限に活用する方法を学ぶべきだろう。しかし、人間同士のつながりは機械が再現できるものではないし、そう簡単に置き換えられるものでもない。
単純な広告やプロモーションはAIに取って代わられる。しかし、AIが私たちの日常的な業務を代行する時代において、最終的に重要なのは「ブランドの価値」と「顧客体験」だ。それらを通じて、他社との差別化を図ることが、これからのマーケティングの核心となるだろう。
原文:5 Ways AI Will Change Social Media Marketing(Social Media Today)
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