2024年の米大統領選挙は共和党のドナルド・トランプ氏の勝利に終わった。トランプ氏を支持してきたイーロン・マスク氏のXにとって、苦境から脱する機会となるのだろうか。
Xと改名した旧Twitterは、イーロン・マスク氏が買収する前とは見た目も使い勝手もかなり変わっている。
「それはイーロンが自由な発言を持ち込んだからだ」とか「左派がもう支配していないからだ」と言う人がいる。
彼らがマスク氏に吹き込まれた主張は理解している。そして、これが米国の言論の大きな進歩だと思う人がいることも分かる。しかし本当のところマスク氏とXは、人々が実際にこのアプリを使用する方法を変えるために(何百万人ものユーザーを追い払ったこと以外は)ほとんど何もしていない。そして、「全部乗せアプリ」に向けた彼の計画、つまり一つのプラットフォーム上であらゆる種類のトランザクション(取引)行動を取り込むという構想は、日々現実から遠ざかっている。
実際のところ、現在ほとんどすべての選択肢が排除されているように見える。というのも、Xは早急に収益を上げられなければ、近い将来に運営が継続できなくなる可能性があるからだ。
マスク氏は世界で一番の金持ちだからXを見捨てはしないだろうと思うかもしれないが、彼もビジネスパーソンだ。慈善事業としてこのプラットフォームを運営し続けるわけではないことは分かってほしい。
マスク氏の構想の基礎となる要素の一つが決済機能で、まずはP2P(個人間)取引から始めて銀行業務を可能にし、最終的にはアプリ内での購入にまで拡大することを目指している。
マスク氏は当初、2024年末までにアプリ内で決済が利用できないようなことになれば「腰を抜かす」と述べていたが、どうやらXは自らそれをほぼ不可能にしたようだ。同社は2024年初頭にニューヨーク州での支払い処理承認の申請を取り下げた。ここはマスク氏が彼の広範な計画の中で特に重要だと指摘していた州だ。ニューヨーク州での決済機能の承認がなくなった以上、マスク氏らが今後どう進めたいかを決めるまで、Xの決済計画全体が保留ということになるようだ。
つまり、2024年にXで決済機能が導入されることはない。私の予想では2025年末までには必要な全ての承認を得て、この計画の第一段階を実現できるだろう。しかし、ユーザーが実際にそれに興味を持つかどうかも、よく分からない。
これはマスク氏の「全部乗せアプリ」構想における最大の問題だ。もちろん、どんな種類の機能であれ、ただ追加するだけならできる。中国市場でほぼ普遍的なメッセージングプラットフォームであるWeChatの例にならって、その西洋版を目指すこともできるだろう。
しかし、どんなオプションを用意したところで、もし人々がそれを使わなければ、何の意味があるだろうか。
そして、人々が新機能を使用するであろうことを示唆する前例もない。MetaもMessengerを西洋版WeChatにしようと試みたが、あまり関心を集めることができなかった。また、さまざまな支払い方法を試みたが、ほとんど成功していない。
自身の評判とブランドへの信頼を著しく傷つけたマスク氏の経営するXが利用者を増やせるとは、マスク氏が天才だと信じて疑わない人を除けば、誰も思わないだろう。
もしかするとマスク氏のプロジェクトを可能にするだけの十分な数の信者がいるのかもしれないが、私はそうは思わない。いずれにせよ、Xは最終的に2025年後半に決済計画の第一段階を実施することになるだろう。
個人的には、これ以上進展することはないだろうと思っているが、少なくともP2P決済は試してみるつもりのようだ。
年初にXのCEOであるリンダ・ヤッカリーノ氏が突如として、Xが「ビデオファースト」のプラットフォームであると宣言したことを覚えているだろうか。
Xにはよくあることとはいえ、それはかなり奇妙なことだった。そもそもビデオフィードを開くことさえできないアプリがどうして「ビデオファースト」のプラットフォームだと言えるのだろうか。
しかし、Xは特にオリジナルコンテンツを重視して、動画コンテンツを優先事項にしようとしているようだ。新たなタレント契約の発表は少ないものの、米国のプロレス団体WWEや3人制バスケットボールリーグのBIG3、そして何人かの右派の政治コメンテーターとのコンテンツ契約を結んでいる。ただし、タッカー・カールソンの番組を除けば、いずれも多くの視聴者を引きつけているようには見えない。
それでも、XはCTVアプリの更新、ピクチャーインピクチャーの再生改善、支払いユーザー向けの高解像度アップロードなど、新しい再生オプションを追加している。つまり、オリジナルコンテンツこそ増えていないものの、Xは動画の推進を強化している。動画がアプリ内で最もエンゲージメントを引き出す要素であり、ユーザーセッションの80%にすでに含まれていることを考えれば、Xがこの要素を強化してユーザーエンゲージメントを向上させるのは理にかなっている。
だから、2025年にXは動画をより重視するだろう。例えば、トレンドのビデオクリップを強調する専用のビデオタブを設けることなどが考えられる。
すでにその実験は行われており、「コミュニティ」や「Grok」タブを専用ビデオリードに置き換えたり、新しいタブを追加したりする可能性もある。また、より多くの動画エンゲージメントを促進する手段として、メインのタイムラインから横にスワイプして移動できる新しいフィードとしてビデオを追加することも考えられる。
ヤッカリーノ氏も彼女のテレビ業界のコネクションを活用して、X独自のコンテンツのためのタレントを引き入れることを目指すだろう。ただし、これまでのところそれはあまりうまくいっていないが。
しかし、米大統領選を終え、マスク氏の政治的コメントがあまり目立つことがなくなってくれば、より多くの有名人がXに参加してくるだろう。
他のテクノロジー企業と同様に、Xも生成AI要素をできる限り統合しようとしているが、現時点ではGrok AIチャットbotの使用レベルは高くない。なぜなら、Xプレミアムユーザーにしか利用できないからだ。
データによると、現在Xの有料サブスクライバーは約130万人、ユーザーベースの0.26%にすぎない。これは、初期のAI提供のテストプールとしてはそれほど大きくない。だが、XがAIインフラストラクチャーの開発に投資を続ける中で、XがAIベースのオプションをさらに導入しようすることが予想される。
Xは、検索ツールにAIを組み込んで、出来事のまとめや強化されたガイダンス、対話形式の質問能力を追加するだろう。Xはまた、(おそらく有料ユーザー向けに)検索ツールを通じて分析的な洞察を提供すると考えられる。これにより、Xのデータやトレンドをさらに深く調べることができるようになるだろう。
実際、私はXがGrokを全ユーザー向けのデフォルトの検索エンジンにする可能性があると半ば予想している。Xは、Grokの能力を示すために、より多くの人々に使ってもらう必要があり、そのためには全ユーザーに提供することが理にかなっているからだ。
とはいえ、Xも収益化が必要であり、より多くの人にアプリにお金を払ってもらうことがマネタイズ計画の重要な柱であることに変わりはない。これがまだうまくいっていないものの、Xはおそらくそのインセンティブ構造を維持して、より多くの有料ユーザーを引きつける試みを続けるだろう。
いずれにせよ、XはAIプロジェクトにより多くの投資を求めることになるだろう。そして、それを得るためには、XのAIツールがいかに優れているかをもっと多くの人に示す必要がある。
画像作成、ポスト分析、ポストコンポーザーのヒント、これら全てはすでにテスト中であり、2025年のある段階で全ユーザーに提供される可能性がある。
しかし、実際のところ、Xの最大の起爆剤であり、その将来を大きく左右するのは、マスク氏と次期大統領ドナルド・トランプ氏との関係だ。トランプ氏が再び大統領に就任することでその関係がどのように進展するだろうか。
トランプ氏の勝利は、政府プロジェクトやマスク氏の政治的影響力に関連する新たなビジネス取引を通じて、Xに新たな機会をもたらす可能性がある。
マスク氏の真の狙いは、自身の影響力を利用してX上で有権者を動かし、自分が選んだ大義名分のためにプラットフォームのアプローチに影響を与える能力を持つことだ。マスク氏はすでに、自社に不都合をもたらした政権を追放しようと、このプラットフォームを利用している。一方、Xで最もフォロワーが多いという自身の立場を利用して、自分と取引する意思のある指導者への支持を表明している。
中でもトランプ氏はイーロン氏にとって重要なプロジェクトだ。
トランプ氏とイーロン・マスク氏は、そう遠くない過去に公然と互いを批判し合っていたことを考えれば、奇妙な仲間同士と言えるだろう。しかしマスク氏は、トランプ氏との関係によって、政府の政策を自らの事業利益に沿うように作り変えることができる可能性があることを理解している。そして、それは彼がXに440億ドルを投じた額を遥かに上回る価値をもたらす可能性を秘めている。
すでに述べたように、トランプ氏の勝利は、マスク氏自身の政治的影響力と、政治家を当選させる能力に対する貴重な裏付けでもある。これはマスク氏が世界中の他の政界の挑戦者に売り込むことができるもう一つの交渉材料となる。このことは、現在も赤字とユーザー減少で破産の危機にあるXにとって、重要な時期における新たな機会をもたらす可能性がある。
私は、もしトランプ氏が敗北していたらマスク氏はXへの関心を失い、カマラ・ハリス政権下で低迷を続けるプラットフォームの終焉が始まるだろうと予想していた。しかし、トランプ氏の勝利はその逆の結果をもたらす可能性がある。Xはより大きな注目を集め、5億人のユーザーを持つXの地位や価値を再評価する企業が増える
次の疑問として、Xがトランプ氏所有の「Truth Social」と統合し、右派勢力の巨大プラットフォームを形成する可能性があるかどうかが挙げられる。
私はこれについては懐疑的である。というのも、2人の極めて繊細な自尊心を持つ人物が直接ビジネスを絡めることになれば、いずれ対立が起きた場合に複雑な問題を引き起こすからである。
しかし、マスク氏はトランプ氏のMAGA(Make America Great Again)集会に参加することに非常に満足しているようで、おそらくこれによって両者の関係はより親密になるだろう。
個人的にはこの方面での統合は起きないだろうと考えている。だが、仮に実現したとしても驚きはしない。
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