航空業界初のコマースメディア「Kinective Media」はいかにして生まれたのか。United Airlinesの戦略的パートナーシップ担当マネージングディレクターが、短期間でのサービス立ち上げの過程で得た学びについて語った。
United Airlines(ユナイテッド航空)で戦略的パートナーシップ担当マネージングディレクターを務めるマイク・ペトレラ氏は米ニューヨークで開催された「Advertising Week」のセッションの合間にMarketing Diveの取材に応じ、航空業界初のメディアネットワークである「Kinective Media」立ち上げから得た教訓やデータプライバシー法の必要性、そしてメディア業界の今後について語った。
※本稿は「『前のめりに失敗しろ』――広告事業に参入した老舗航空会社の“驚嘆すべき”考え方とは?」の続きです。
以下のインタビューは、内容を明確かつ簡潔に伝えるため、編集を施している。
――Advertising Week New Yorkのパネルディスカッションで、数百万ドル規模のビジネスを9カ月で立ち上げ、その3カ月半後には最初のオーディエンス拡張キャンペーンを開始したとおっしゃっていました。これほど迅速に市場に参入するには何が必要でしたか。
ペトレラ 全てのメンバーの協力が必要でした。それがチームの中で最も印象的だったことだと思います。皆が学ぶことや影響を受けることに対して積極的でした。
ある友人から受けた最高のアドバイスは、「全ての答えを知っている必要はないが、正しい質問を知っていることが大事だ」というものでした。データの話に置き換えて言うと、私たちのデータセットが現時点でどこにあり、将来どこに向かいたいのか、営業組織を構築する際に、既存の基盤にどのようにうまく合わせるかを考える必要がありました。
私たちの選択は賢明でした。それによって、ダイナミックで柔軟になることができたからです。私たちは何者にも縛られませんでした。そしてそれは重要なことでした。この業界では、全てが変わりますが、一度に変わるということはありません。だから、素早くピボットできなければならないのです。
――どのようにチームを構築しましたか。
ペトレラ アドテク部門には航空業界出身者を1人も採用しませんでした。これには良い点も悪い点もあります。業界特有の微妙な違いはあるからです。それでも私たちは上級人材も含め、適切な採用ができました。ボトムアップではなくトップダウンで、経験豊富な人材を早い段階で迎え入れました。これにより、彼らの重要な業界知識やネットワークが迅速に活用されました。
急速なスケールは簡単ではありません。データがあればすぐに何億ドルも稼げるというわけではないのです適切に構築し、顧客を守る方法を整えることが重要です。
「ローマは一日にして成らず」です。 私たちはもっと違ったやり方で、データをあらゆる場所で利用できるようにすることもできたはずです。でも、そこには リスクがあり、悪言ことをする人がいる。コンプライアンスもある。 すぐに10億ドル稼ぐことはできますが、それが持続可能なのかといえば、そうではありません。
――コンプライアンスといえば、データプライバシーについてどうお考えでか。
ペトレラ 私は連邦法の制定を心から望んでいます。私たち全員がそう思っているでしょう。現在、約20の州で法律が制定されています。私たちはそれに従っていますが、まるで「モグラたたき」のようです。
私たちのチームはホワイトハウス近くにあり、彼らから政府の視点で何をすべきかについて多くの洞察を得ています。彼らと協力することで、最前線に立つという点で有利にはなりますが、やはり私は法整備を強く求めます。
――機内での「リビングルーム体験」について話をしていましたが、エンデミック広告(※)とノンエンデミック広告の間に明確な違いはありますか。
※メディアに親和性の高い広告。
ペトレラ 正直に言うと、特に違いはありません。リビングルーム体験以外でも、私たちは1億1000万人の旅行者と4000万人のマイレージプラス会員から得たインテリジェンスやインサイトに基づいてプロファイルを構築しています。目的地まで飛行機で向かうときも、家に帰るときも、あなたはあなたなのです。
重要なのは、そのパーソナライズが「補完的」であり、過度な干渉にならないことです。さすがに「ユナイテッドのラウンジへようこそ。あの湿疹を診てもらいましたか?」なんてことは言いません。それでも私たちは、あなたがグルメであるとか、メッツのファンであるとかを知っています。
Netflixはその点、とてもうまくやっていますよね。「これまでに見た内容から、これをお勧めします」と。しかし、当社はそれ以上のシグナルを持っています。見たものだけでなく、購入したもの、行動した場所、滞在した場所などのデータです。それらをお客さまの前に出してみたらどうか。それが旅への没入とパーソナライズです。旅行というのは実際に行くとなるといろいろ面倒なものです。そこで、それを少しでも簡単に、楽にできる方法を模索しています。
――メディアネットワークがますます細分化されている中で、広告主へのアピールはどのようにしていますか。
ペトレラ この業界を整理する必要があります。現在は非常に細分化されており、マーケターにとって選択肢が多過ぎ、そしてどのプラットフォームも、自分たちが世界最高のデータを持っていると言います。
私たちが、価値を証明し、しかも単にコマースメディアの指標を達成するだけでなく、真のオムニチャネルで顧客体験を可視化、追跡、測定できるようになれば、それは非常に価値のあることです
私たちは、これまで誰もやったことがないことに挑戦しています。市場に出た最初の航空会社として、ブランドが「本当に効果があった」と言ってくれるなら、それは大きな成功です。実際、初期のパートナーからの契約更新もあります。エージェンシーの中では、一人のバイヤーやプランナーが成功事例を知れば、すぐにその影響が広がります。ただし、最初の一歩で成功することが不可欠です。テストは一度きりしかできないこともあります。
――コマース メディアとコネクテッドTV(CTV)の融合はKinective でどのように展開されるのでしょうか。
ペトレラ 現在、機内スクリーン上でショッピング体験を提供しています。リアルタイムで読み込まれないので、本当の意味でのCTVではありませんが、ラスベガスへの移動中にコンサートのチケットを購入することができます。マッカランやボッテガ・ヴェネタの情報を購入したり入手したりすることもできます。
AVOD(広告付き動画配信)は、私たちにとって非常に魅力的です。データとメディアが組み合わさることで、画面をクリックするかしないかに関係なく、ブランドメッセージとショッピング可能なトランザクションメッセージの両方を効果的に届けることができます。
これは消費者側の話ですが、私はもっと個人に焦点を当てるべきだと思います。彼らはどこで時間を過ごすのか。彼らは画面のどこを見ているのか。ストリーミングしているのか。アプリを使用しているのか。うずれの場合でも、どのように経験を補完するか。
マーケター側では、まだ測定ができない新たなプラットフォームがあります。CTV測定とそこに不足しているものについて、Advertising Weekでは確か今日だけでも6つのパネルがあるはずです。当社はこの解決されるべきオムニチャネルの測定ソリューションをいち早く実現したいと考えています。銀の弾丸はなく、簡単なことではありませんが。
――業界団体や業界グループは、その点で助けになっていますか。
ペトレラ IAB(Interactive Advertising Bureau)はそこに到達するために最善を尽くしており、当社もその解決策の一部になりたいと考えています。ここでただ座って不満を言うのは簡単ですが、結局のところ何らかの答えにたどり着きたいと考えています。それが何なのかはまだ分かりません。一緒にテストして、全ての情報を一つの手段にまとめる方法を模索していきたい。標準、測定基準、その他の点で統一性があれば、それだけで作業がずっと簡単になります。
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