顧客データ主導で世界中の数十億の顧客にパーソナライズされたコンテンツを届け、ストーリーを伝えて自社のエコシステムに誘導する――。そのためにコカ・コーラは何をやったのか。アドビのコンサルタントが解説します。
コカ・コーラ(The Coca-Cola Company)は200カ国以上で事業を展開する世界有数の飲料メーカーです。コーラは世界で最もポピュラーな飲料の一つですが、コカ・コーラが扱っているのは炭酸飲料のみではありません。スポーツドリンク、コーヒー、紅茶、緑茶、乳製品、ジュース、天然水、アルコール飲料など、250以上のブランドを持っています。
多様なブランドポートフォリオを擁することで、コカ・コーラは消費者との関わり方に変化が求められました。全てのブランドを同じ人に向けて同じように販売するのではなく、消費者が最も望む飲み物を販売することに重点を置きたいと考えるようになったのです。
これは、世界中の消費者一人一人に対して、それぞれの好みに合った商品のセールを提供したり、試してみたいと思われそうな新しいブランドやフレーバーを紹介したりすることを意味します。
例えば、ジムの利用者に対して、トレーニング中に水分補給とエネルギー補給ができるスポーツドリンクのクーポンを配布すれば、パフォーマンス維持のための水分補給として重宝するかもしれません。家族に朝食用の飲み物を買いに行く人であれば、子どもにはジュースを、本人にはコーヒーをお薦めするなど、よりきめ細かいオファーを提供することも考えられます。
コカ・コーラがマーケティングDXを推進する上で解決できずにいた課題が、以下の3点です。
コカ・コーラは、古くからマーケティングに力を注ぎ、成功してきた企業です。しかし、世界中の何十億もの消費者に対してライフスタイルや現在のロケーション、趣味嗜好に応じてリアルタイムにパーソナライズされたメッセージを配信するのは、容易にできることではありません。
数十億の消費者にパーソナライズされた体験を提供するためには、コマースやコンテンツ管理からリアルタイムのパーソナライゼーションや分析までが一つのプラットフォーム上で実現できるソリューションが必要でした。
一般的には、全ての顧客のデータを統合する顧客データプラットフォームと、メール配信基盤や分析基盤、オウンドメディアにおけるコンテンツ管理、A/Bテストやレコメンデーションなどの最適化基盤に関して、それぞれ異なるベンダーのソリューションを採用されます。このため、各ツール間のデータ連携のリアルタイム性が低く、数十億の消費者にパーソナライズされた体験を提供することが難しいケースが多いのが実情です。
コカ・コーラはこの課題を解決するために、新たなマーケティング基盤として、顧客体験管理(CXM)に特化したデジタル基盤である「Adobe Experience Platform」上で動作するリアルタイムCDPの「Adobe Real-Time Customer Data Platform」と、クロスチャネルキャンペーンを展開するためのソリューションである「Adobe Journey Optimizer」、カスタマージャーニー分析により新たなインサイトを獲得するために「Adobe Customer Journey Analytics」を導入しました。
コカ・コーラがマーケティング戦略において重要視したのが、新しいキャンペーンの実施スピードと、あらゆる地域をまたいだパーソナライゼーションの実現、地域ごとにカスタマイズされたキャンペーンを構築できる柔軟性の3点です。
以前は、地域ごとにマーケティング基盤が異なっていたため、世界中の関係者からのアイデアを基にした共同作業が困難でした。新しいキャンペーンの迅速な展開や、より詳細なパーソナライゼーションの実現、あらゆる地域をまたいだエンゲージメントの向上など、とてもできる状況ではなかったのです。
この課題を解決するために、世界中の顧客データを統合し、地域をまたいだクロスチャネルでのパーソナライゼーションと分析が可能な新たなマーケティング基盤への移行を決定しました。
また、それを世界同時展開するため、新しいソリューションの運用を管理するセンターオブエクセレンス(以下、CoE)を構築しました。アドビの専門家であるアドビプロフェッショナルサービスを活用し、Adobe Experience Platform上で実行されるAdobe Real-Time Customer Data PlatformとAdobe Journey Optimizerの展開を管理するCoEモデルを確立することで、市場投入までの時間を劇的に短縮し、わずか5カ月で全ての地域でこれらのソリューションを使用できるようにしました。
導入の第1段階で100カ国以上からの9800万の顧客プロファイルを1つのCDPに統合し、完了時には数十億のプロファイルが作成される予定です。
コカ・コーラでは、以前はパーソナライゼーションを実現するためのマーケティング基盤が地域ごとに異なっていました。当然、メッセージ配信や分析などの機能もまちまちで、パーソナライゼーションの効果が限定的である上、ソリューション管理コストが高い状況でした。
この課題を解決するために、コカ・コーラは複数のベンダーのスタンドアロンソリューションをつなぎ合わせることに労力を費やすのではなく、統合ソリューションを活用してソリューション管理に必要な時間を最小限に抑えるITプラットフォーム戦略に移行することを決定しました。
統合ソリューションの活用により、個人情報(PII)を含む顧客データを複数のシステムで保持する必要がなくなるため、セキュリティおよびデータガバナンスの面でも大きなメリットが生まれます。
コカ・コーラでは、日本のカクテルドリンク「檸檬堂」やラテンアメリカ全土で人気の植物由来飲料「AdeS」など、各地域で独自の特殊飲料を展開しています。マーテックチームは卓越したCoEとして、世界中のマーケティンググループと協力して、それらの飲料に関する地域独自の魅力的なキャンペーンも開発しています。
コカ・コーラでプレシジョンマーケティングテクノロジー担当ディレクターを務めるキース・バーティング(Keith Bartig)氏は、「要求された全てのコンポーネントと機能を、誰でも利用できるリポジトリに追加しています。未来に向けてデザインすることで、全ての地域が互いの成功を基礎にして、どこにいても消費者とのエンゲージメントを高めることができるようになります」と述べています。
アドビのテクノロジーとコカ・コーラの地域マーケティングチームおよびアドビプロフェッショナルサービスの専門知識を組み合わせることで、真に革新的なキャンペーンがいくつか生まれました。
米国では、マーケティング担当者がフットボールのシーズン中に、消費者の居住地と地元のNFLチームに応じてコンテンツをパーソナライズした新しい懸賞をリリースしました。懸賞に応募した人々には、チームのロゴでパーソナライズされたメッセージや、試合当日の観戦レシピなどの地域固有のコンテンツを受け取りました。これらのコミュニケーションによって、デフォルトのコンテンツと比較してクリックスルー率が63%上昇しました。
APAC(アジア太平洋地域)のマーケティングチームは、リアルタイムCDPで顧客セグメントを有効にして、Facebookで類似オーディエンスを構築しました。これにより、Facebookでの一致率が3%増加し、ペイドメディアを通じてさらに多くの顧客を獲得することができました。
この他、リワードプログラムメンバーとのエンゲージメントを高めるために新しいキャンペーンも作成しました。消費者は、ゲームのプレイからポイントの消費まで、特典を利用するさまざまな方法についてパーソナライズされたメッセージを受け取りました。これらのメールの開封率は40%に達し、業界標準(わずか3%)を大幅に上回りました。現在、Adobe Experience Platformを通じて350以上のメール配信が多言語で実施されています。
コカ・コーラは毎年、世界中の消費者に提供する飲料を拡大し続けています。それと並行して、バーティグ氏とマーテックチーム、およびアドビプロフェッショナルサービスは、Adobe Experience Platformを基盤にしてユースケースを成熟させ、消費者とのエンゲージメントを高めていく予定です。将来的には「Adobe Creative Cloud」および「Adobe Experience Manager」と統合された「Adobe Workfront」を活用して、コンテンツ作成とアセット管理を自動化することも視野に入れています。
「コカ・コーラの消費者は、あらゆる場所で私たちとやりとりしています。例えば、店舗でお気に入りの飲み物を購入しながら、QRコードをスキャンしてオンラインコンテンツを閲覧しています。あらゆる消費者情報をリアルタイムで統合できることは、世界中の何十億もの消費者とつながる上で非常に重要です」とバーティグ氏は述べています。
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