「MFA」大増殖を後押しする生成AIの台頭 デジタルメディアに明日はあるか?デジタル広告業界が直面する「5つの課題」

生成AIの急速な普及や広告収益のみを目的とした低品質なMFAサイトの急増など、デジタルメディアを取り巻く変化とこれからの対応について紹介する。

» 2024年09月03日 12時00分 公開
[下玉利尚明ITmedia]

 デジタルメディアを取り巻く環境が急速に変化している。本稿では、DoubleVerify Japanが2024年6月27日に開催した「2024年版グローバルインサイト:Japanウェビナー」の内容を基に、デジタル広告業界が直面する「5つの課題」について紹介する。

広告主、メディア、代理店が直面する「5つの課題」

 DoubleVerifyは2024年6月、同社が2023年に世界100市場で測定した2000以上のブランドのデスクトップおよびモバイルWeb、モバイルアプリ、コネクテッドTV(CTV)の動画広告およびディスプレイ広告の1兆インプレッション以上のデータを分析した「2024年版グローバルインサイトレポート」を公開した。

 今回のレポートの主要なテーマは以下の5つだ。

  1. AIの急速な普及
  2. MFAサイトの急増
  3. アテンション指標の重要性の高まり
  4. メディア品質のさらなる向上
  5. サステナビリティへの対応

課題1:AIの急速な普及

 DoubleVerify Japanの代表取締役を務める武田隆氏は、生成AIの登場でアドフラウド(広告不正)の手口がますます巧妙化していることを指摘する。特にストリーミングでのアドフラウドの増加が顕著で、そのスキームは多様化している。「DoubleVerifyのフラウドラボの分析では、ストリーミングにおけるアドフラウドのスキームとその亜種が前年比58%増加し、スキームごとの平均亜種数が269%増加した。アドフラウドの手口がウイルスのように変化し続けていることが大きな脅威になっている」(武田氏)

(画像提供:DoubleVerify Japan、以下同)

 もちろんAIには、広告費用対効果の予測精度の向上や効率的な入札の最適化に貢献するポジティブな側面もある。例えば、DoubleVerifyの「Scibids AI」を活用することで、メディアバイヤーがキャンペーンの最適化に費やしていた約4分の1の手作業を効率化し、さらに投資収益率も平均400%向上したといったケースが報告されている。マーケターは、AIの功罪両面を理解しておかなくてはならないだろう。

課題2:MFAサイトの急増

 生成AIの登場により、MFA(Made for Advertising)サイトが急増していることも新たな課題だ。MFAとは文字通り広告掲出だけを目的とした低品質なWebサイトのこと。アドフラウドのようにbotなどによってインプレッションを偽装することはないが、広告費を稼げさえすればよいため、ユーザーに価値のある情報を提供することはなく、「通常のWebサイトとアドフラウドの間にあるようなグレーなサイト」(武田氏)と位置づけられる。DoubleVerifyの調べでは、アジアパシフィック地域のメディアバイヤーの54%は、低品質なコンテンツやMFAサイトの増加が破壊的な脅威になると考えている。実際、グローバル全体ではMFAサイトのインプレッションが19%増加している。

 MFAサイトは広告収入を目的にしているだけあって、刺激的なフレーズやビジュアルなどで注意を引き付けるスキルは高く、結果的にインプレッションは増加傾向にある。DoubleVerifyのデータによれば、MFAサイトは一般的なベンチマークと比較してビューアビリティーは同等であった。しかし、後述するアテンション(視聴者の注目度)スコアは低く、特に動画広告においてその差は顕著だという。MFAサイトのアテンションスコアが低い理由について武田氏は「広告収入を最大化するためビューアビリティーを高める一方で、ユーザーのエンゲージメントを犠牲にしていることが多いから」と語る。

課題3:アテンション指標の重要性

 DoubleVerifyは「エクスポージャー(露出)」と「エンゲージメント」の両指標を統合してアテンション指標として捉えることで、広告の質をより正確に評価することができると考えている。

 エクスポージャー指標としてはビューアビリティーに加え、画面占有率、動画表示、可聴性を測定。エンゲージメント指標としては、タッチ、画面の向き、ビデオ再生、オーディオコントロールなど、ユーザーによる広告とのインタラクションをトラッキングする。

 武田氏によれば、アテンション指標を用いたキャンペーンでは、ブランド認知度やエンゲージメントの向上が確認されている。アテンション最適化を行ったキャンペーンでは「従来のビューアビリティーを最適化したキャンペーンと比べて、さらに50%のKPIの改善が確認された」(武田氏)というデータもある。

 こうしたことから、アジアパシフィックのメディアバイヤーの58%が2024年にはほとんどのバイイングでアテンション指標を重視する予定だという。

課題4:メディア品質の向上

 メディアの品質の担保も大きな課題となっている。2024年は世界中で重要な選挙が控えており、ヘイトスピーチなどのリスクが増大することが予想される。常にメディアの品質を監視し、不適切なコンテンツの配信を防ぐことが重要になる。「DoubleVerifyの分析では、適切なコントロールが行われた場合、ビューアビリティーの向上や無駄なコストの削減が達成されることが確認されている」と武田氏は言う。

 DoubleVerifyの調査では、災害や社会問題に関連するニュースが注目されると、それにともなってブランドセーフティー(安全性)やブランドスータビリティー(適合性)の違反率が増加する傾向があるという。具体的には「2023年の能登半島で発生した地震やジャニーズ問題にともない、違反率が急増した。突発的な事態に対しても迅速に対応できるよう、常に監視体制を整えることが求められる。『オールウェイズオン』で常に監視をしていくことが重要だ」(武田氏)。

 何も対策をしなかったケースとメディアの品質を監視して不適切なコンテンツの配信を防いだケースを比較すると、10億インプレッション当たり29万4000ドルもの広告費が「無駄なコスト」として判定されることが分かった。ここで無駄というのは実際に見られていない、もしくはブランドリスクの高いところ、ブランドになじまない場所に広告が掲出されていることを指す。

課題5:サステナビリティの取り組み

 最後に武田氏は、広告業界における二酸化炭素排出量の削減について触れた。「高品質なメディアは、二酸化炭素排出量が少ない。低質なサイトはそれだけ多くの広告を表示するために消費エネルギーが大きくなり、二酸化炭素排出量も多くなる。低品質なサイトを排除することで、広告配信にともなう二酸化炭素排出量の削減が可能となり、社会的責任を果たす一助となる」(武田氏)

 具体的なデータとして、DoubleVerifyがコントロールしたメディアは、グローバルベンチマークと比較して21%の二酸化炭素排出量削減を達成したという。


 武田氏は、これら5つの課題を「広告主、メディア、代理店など各企業が自社の広告戦略にどのように取り入れるかを検討することが重要」とし、プライバシーと透明性を確保しながら、「AIの適切な活用、アテンション指標の導入、メディア品質の向上、サステナビリティの推進、これらが今後の広告業界における成功の鍵を握る」と締めくくった。

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