「かわいい」だけでは売れない 子供服大手「カーターズ」のCMOが古い常識を疑うに至ったデータとインサイトMarketing Dive

米国のキッズアパレルブランドCarter’sのCMOであるジェフ・ジェンキンス氏が、新世代の親をターゲットにしたマーケティングキャンペーン「More Than Just Cute」の背景を語った。

» 2024年08月30日 07時00分 公開
[Chris KellyMarketing Dive]
Marketing Dive

 米国のキッズアパレルブランドCarter’sが、新学期商戦に向けて“More Than Just Cute”(かわいいだけじゃない)と銘打ったキャンペーンに打って出た。Marketing Diveは、キャンペーンのターゲットである若い世代の親をCarter’はどう見ているのか、キャンペーンの具体的な取り組みや考え方について、同社のCMOに話を聞いた。

※本稿は「『親になったZ世代』にリーチする方法」の続きです。

子ども服はかつて「かわいい」が全てだったが今は……

 以下のインタビューは、明確さと簡潔さのために編集されている。

――“More Than Just Cute”キャンペーン立ち上げの背景は?

ジェンキンス氏 消費者の変化と彼らが求めるものは何かを知るために、まずはデータとインサイトを得ることにした。その後、Carter’sが方向転換するに当たって、協業に適したパートナーを探した。キャンペーンに参画した広告代理店Mischiefに、私たちの課題をこう伝えたと記憶している。「消費者は変化している。Z世代(1995年〜2009年に生まれた世代)の親が増え、彼らはCarter’sに対して違うものを求めている。ベビー服のカテゴリーも変化している」

 子ども服はかつて、かわいいことが全てだった。今では、スタイリッシュであること、子どもに自分と同じ服を着せること、ソーシャルメディアで親としての自分を表現することが重要になっている。Mischiefには、カテゴリーを押し広げ、カテゴリーの行動ではなく、消費者の行動を考えたいと伝えた。Carter’sというブランドが立ってきたコンフォートゾーンからあえて抜け出し、居心地が悪いながらも不自然ではない場所でブランドを拡大させたかった。Z世代やミレニアル世代(1980年代前半から1990年代半ばまでに生まれた世代)は、一日中スマホをスクロールしている。従来型の広告のままではスルーされてしまう。スクロールする指を止めるようなコンテンツを作り出すにはどうすればよいのか?

 世代が変化するに連れて、消費者の好みは「かわいい」から「スタイリッシュ」へと移行した。だからCarter’sも「かわいい」以上のものでありたい。私たちは1980年代から90年代のLifetouchやOlan Mills(※)がフレームに収めたような特別な瞬間だけでなくあらゆる瞬間に寄り添う。Instagramに投稿する1枚の画像の裏に、99枚のボツになった画像があることを理解しているブランドなのだ。

 このキャンペーンに、誰もが自分自身の姿を垣間見たのだと思う。Carter’sが提示したシーンは親達からの共感を呼んだ。

※編注:Lifetouchは学校の卒業写真やクラス写真を撮影する大手写真サービス会社。Olan Millsは米国で家族写真や記念写真を撮る際の定番の写真スタジオで、2000年代にLifetouchに買収された。

――「居心地が悪いが、不自然でない」といえば、子どもが自転車でバスケットボールのポストに突っ込んでいく場面や、「耐久性のある生地だけが、子どものお尻と世界の衝撃を和らげる」というキャンペーン動画のナレーションを思い出す。このような身近な瞬間をどのようなアプローチで表現したのか?

ジェンキンス氏 私たちは皆、子どもが無事だと分かった瞬間に面白く思えるような動画を撮ったことがある。TikTokやInstagramのリール、YouTube ショートで見られるタイプのコンテンツだ。多くのメディアがクリエイター領域にシフトしているが、それは広告代理店が提供するような洗練されたコンテンツではない。

 Mischiefは、伝統的な広告モデルとクリエイター領域のモデルを見事に融合させ、Carter’sのコンテンツに反映させた。Carter’sの店舗体験や広告にもその内容を展開している。

 Z世代やアルファ世代(2010年〜2024年に生まれた世代)、ミレニアル世代など、新世代の親の選択に影響を与えているものは何かを考えている。

――このキャンペーンにおけるチャネルミックスの取り組みにはどのようなものがあるか?

ジェンキンス氏 私たちは、メディアエージェンシーのAssemblyという素晴らしいパートナーと仕事を共にすることができた。キャンペーンの一部となる多くのプラットフォームに莫大(ばくだい)な投資を実施していたが、そこからさらに踏み込むにはどうすればよいか? さまざまなメディアが存在する中で、クリエイターコンテンツをどのように構築していけばよいのか? 「MomTok」や「ParentingTok」といった母親たちの巨大なコミュニティーの一員となるにはどうすればよいか? 消費者はそこでブランドに関する情報や子育てを生き抜くためのヒントを得ている。Carter'sもそこに参加し、その一部となる必要がある。

 一方で、看板広告といった伝統的なチャネルにもメディアミックスの場は残されている。このキャンペーンは、大規模な屋外広告にも展開している。パンデミック後、Z世代とミレニアル世代がショッピングモールに戻りつつあるのを目の当たりにした。Carter’sの売り上げの70%は実店舗から発生している。特に、初めて親になる人がショッピングモールで実際にベビー服を手に取り、実物を触って確かめるような場面で、Carter’sがどのような体験を提供できるかが重要だ。

――Carter’sは2024年、ロイヤルティープログラムを刷新した。これはブランドのマーケティングにどのように反映されているのか?

ジェンキンス氏 全ての要素が結び付いている。特にCarter’sがターゲットとするキッズアパレルは恵まれている。生後3カ月児用の消防車のデザインが入ったシャツを買った親は恐らく3カ月後、6カ月児用の同じデザインのシャツを買うと推測できる。このように、他では実現できないような形で、パーソナライズしたカスタマージャーニーを提供することが可能だ。家電量販店のBest Buyは、ある月にレコードプレーヤーを買った人は、3年後に洗濯機を買うと見ている。私たちはこのような周期を理解しているのだ。

 Carter’sの売り上げのおよそ90%はロイヤルティープログラムを通じて発生している。ロイヤルティープログラムの効果的な運用で顧客のロイヤルティーを高めることに成功しているStarbucksのような企業を含む業界平均と比較しても、私たちはトップクラスに位置している。これにより消費者の行動やニーズについて優れたインサイトを得ることができている。

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