映画『デッドプール&ウルヴァリン』とハイネケンやハインツなどのブランドが提携し、キャンペーンを展開している。関係者は、今作のブランド提携は「あらゆるところから持ち掛けられた」と説明する。その経緯はどのようなものなのか。
2024年7月に劇場公開された『 デッドプール&ウルヴァリン』が、歴代の興行成績を更新する勢いを見せている。2022年にヒュー・ジャックマンが『X-MEN』の象徴的なキャラクターを再演することが発表されて以降、このスーパーヒーローの続編は関心を集め続けている。
3作目となるデッドプールの人気に少しでもあやかりたいマーケターは少なくない。映画の公開に先立ち、Heineken、Heinz、ファストフードチェーンのJack in the Boxなどのブランドが映画と提携。キャンペーンにはMarvel StudiosとMaximum Effortが協力した。Maximum Effortは、デッドプール役のライアン・レイノルズが共同設立した映画製作会社兼デジタルマーケティング会社だ。
Maximum Effortは、ポップカルチャーを活用したキャンペーンでメディアとマーケティングをつなぐことに特化している。例えば、2023年にState Farm Insuranceが展開したテイラー・スウィフトとその恋人トラビス・ケルシーの関係を巡るキャンペーンや、コメディ映画『恋はデジャ・ブ』にインスパイアされたLay'sのキャンペーンなどを手掛けている。Lay'sの事例は2024年の最高のキャンペーンの一つとの呼び声が高い。
デッドプール&ウルヴァリンに関する取り組みでも時代精神をつかむアプローチを継続し、「口の悪い傭兵」のキャラクターがコミックや映画のヒーローの常識を覆したのと同様に、これまでの広告の限界を打ち破っている。
「『デッドプール』ブランドの面白いところは、マーケティングを恥じていないところだと思う。マーケティングはプロセスの一部であり、楽しみの一部だ」と、Maximum Effortの共同創設者ジョージ・デューイ氏は述べる。
今作のブランド提携は「あらゆるところから持ち掛けられた」とデューイ氏は説明する。2019年に21st Century Fox(21世紀フォックス)を買収してデッドプールのIP(知的財産)を傘下に収めたDisneyは、Heinekenなどのブランドと以前から関係を構築していた。他方、Maximum Effortは、Jack in the Boxと独自の関係を築いていた。スーパーヒーローのコスチュームをケチャップとマスタードに例えたHeinzの取り組みなど、クリエイティブなコンセプトにほれ込んだブランドもある。
「映画の中には、ブランドと渋々提携しているものもある。それが映画を世に出すための手段の一つだと分かっているからだ。われわれは全く逆の考え方で、『素晴らしい、楽しい機会』だと捉えている」とデューイ氏は言う。
各キャンペーンは、デッドプール&ウルヴァリンの世界観に結び付きながらも、それぞれが際立つ手法を見つけている。Heinekenの広告は、デッドプールとウルヴァリンのライバル関係を取り上げ、ビール缶がウルヴァリンの爪の金属で作られているかのような演出を施した。一方、Jack in the Boxのスポット広告は、デッドプールをチェーン店のマスコット風に変身させ、彼の大好物「チミチャンガ」の一種「Mini Chimi Bang Bangs」を宣伝した。Maximum Effortは、映画のプロデューサーとして、それぞれのキャンペーンに独自の視点を与えている。
「われわれは映画の中で何が起こっているのか、映画の中の関係はどのようなものか、どこに遊びがあるのかを完全に把握している。その点で戦略的な優位性がある」とデューイ氏は述べる。
これまでデッドプールは、 7-ElevenやKraft Heinzの製品ブランド「Devour」、Mike’s Hardのアルコール飲料などとタイアップを展開してきた。ブランドパートナーと一緒にデッドプールのマーケティングを仕掛けるのは、このキャラクターの世界に約10年間、精通しているデューイとレイノルズにとってはお手の物だ。彼らは経験を基に、パートナーシップ、アプローチ、コピーを素早く「直感的に判断」できる。
「われわれは、素早く行動に移すことを好んでいる。物事をあまり考え過ぎない」とデューイ氏は言う。
この映画は下品で暴力的な内容だが、ブランドパートナーシップに関するマーケティングはそうではない。ただし、R指定の映画であるため、パートナーになる広告主は限られている。アルコール飲料、ファストフード、食品などのカテゴリーと相性がよく、Maximum Effortがコンセプトを主導し、クリエイティブなアプローチを可能にした。
「パートナーシップのコンセプトは、彼らがどれだけ高額の広告費を投じているかよりもパートナーシップの価値を雄弁に物語っている。特にこのような映画の場合、ある時点で認知度は上がるが、認知度はわれわれの関心事ではない。パートナーシップを結んで何をするのか、製品について何を語るのかが問題なのだ」とデューイ氏は語る。
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