ビッグマックセット3000円弱の時代のバーガー戦争 マクドナルドとバーガーキングはインフレ下でどう戦う?Marketing Dive

ファストフード業界大手の両社は決算会見で、価格に敏感な消費者にいかに価値を訴求しているかを説明した。

» 2024年06月10日 09時00分 公開
[Chris KellyMarketing Dive]
Marketing Dive

 2023年夏以来、米コネチカット州ダリエンにあるMcDonald’sのある店舗がビッグマックのセットメニューを18ドル(1ドル150円換算で2700円)で提供したことが繰り返し話題になっている。同社CEOのクリス・ケンプジンスキー氏は2024年2月の決算説明会で同チェーンの「値ごろ感」についてコメントせざるを得なくなった。

 歯止めのかからないインフレで消費者の財布のひもが固くなる中、ファストフード全般の価格の高騰は、他のレストランのマーケターに格好のチャンスを提供している。ファミリーレストランチェーンのChili’sはビッグマックの名前を挙げて、Chili’sのハンバーガーと肉の量を比較した。

 McDonald’sとライバルのBurger Kingにとって、競争上のつばぜり合いは今に始まったことではないが、両チェーンが直面している価格設定の問題や売上高の逼迫は、価値の訴求から自社への投資の在り方まで、マーケティングの優先順位の再考を促している。両社は2024年4月30日に発表した決算報告書でその計画を提示している。

McDonald’s:13四半期連続プラス成長でもなお残る課題とは?

 McDonald’sの決算報告時に発表されたケンプジンスキー氏の声明によると、価格を上げたとはいえ、中東での不買運動や「より目の肥えた」顧客もあって、2024年第1四半期の世界の既存店売上高は61億7000万ドルと、わずか1.9%の伸びにとどまった。

 このような厳しい状況にもかかわらず、McDonald’sは13四半期連続で既存店売上高がプラス成長を続けている。ケンプジンスキー氏は継続的な成功の理由として、流行に寄り添ったマーケティングキャンペーンとモバイルファーストのデジタル機能の強さを挙げる。これらの要因は「ファストフードの来店者数が逼迫」している中でも、顧客理解に基づくパーソナライズされたレコメンデーションにより、同チェーンへの再来店を促すのに寄与しているという。

 「マーケティング投資をテレビ、印刷物、看板広告などの伝統的なマスメディアから、体験をパーソナライズするための最新のデジタル機能へシフトすることで、収益性は向上する」とケンプジンスキー氏は話す。

 ケンプジンスキー氏は、米国内のフランチャイズの90%が4ドル以下で食事セットを提供しており、加えてさまざまなデジタル特典を用意していると述べる。一方で、競合他社が全国的なバリューメッセージを訴求するのに対し、McDonald’sは地域的なバリューを重視してきたことを認めた。これに対処するため、同社は全国的なバリュープロポジション(価値提案)を展開し、消費者の認知度を高めるためにメディア力を活用する計画だ。フランスでの同様の計画は「非常に早く」まとまり、短期間で80%以上の認知度を達成した。同氏はこれが米国のモデルになり得ると指摘する。

 「このことが強調しているのは、魅力的なバリュープラットフォームに対して強力なマーケティングサポートがあるときにビジネスへの影響をどれだけ早く確認できるかということではなく、システムをどれだけ早く移行し、それを適切な場所に導入することに方向転換できるかということだと思う。どれくらいの時間がかかるかは、市場で起こる個々の会話次第だと思う。だが、いったんそれが整えば、ビジネスがかなり早く反応し始める可能性があることは明らかだ」とケンプジンスキー氏は言う。

Burger King:炎に燃料を注ぐ(Fueling the flame)

 McDonald’sの控え目な成功は、競合のBurger Kingが第1四半期に既存店売上高を3.8%増加させて3億5000万ドルの売上高としたのと対照的だ。これにより、親会社のRestaurant Brands International(以下、RBI)は投資家予想を上回る業績と売上高を達成した。RBIのジョシュア・コブザCEOは決算説明の電話会議で、同チェーンの既存店売上高と来店者数は業界標準を上回っており、2022年に開始した4億ドルの再生計画が進展していると述べた。

 「やるべきことがまだたくさんあることは承知しているが、“Reclaim the Flame(炎の奪還)”が初期の好調な業績をけん引し、どのような消費者環境においても優れた業績を実現できる体制を整えていることは明らかだ」とコブザ氏は語った。

 Burger Kingは広告とデジタルへの集中投資計画「Fuel the Flame(炎に燃料を注ぐ)」のうち600万ドルを当四半期中に支出し、フランチャイズ加盟店は来年から広告資金拠出額を50ベーシスポイント増やす予定だ。広告費の増加により、Burger Kingは価格に敏感な消費者の来店を促進することができた。また、コブザ氏は同社の提供価値について「車輪の再発明」をする必要はないと考えている。

 「当社の優先事項は、魅力的な価格帯の高品質なメニュー提供とオペレーションの改善、そしてお客さまに現代的で便利な体験を提供することを通じて、バリュープロポジションを強化し続けることだ。計画を実行し続けることで、来店者数において業界の中で優位に立つことができると感じている」とコブザ氏は語った。

 McDonald’sは全国的なバリュープランの策定を計画してい最中だが、Burger Kingは既に5ドルのセットメニューやアレンジメニュー、2.99ドルのラップなどの値ごろ商品を持っており、利幅を守りながら効果的に売り上げを伸ばすことに成功している。なお、Burger Kingは3〜5年前に行ったような大幅な値引きは避ける予定だ。過去の値引きは全国的なマーケティング活動を強化した一方で、フランチャイズ加盟店の利益に悪影響を及ぼしたからだ。

 Burger Kingは、1億5000万ドルのFuel the Flameへの投資とともに2億5000万ドルの「Royal Reset(ロイヤルリセット)」投資を行い、3億ドルを店舗改装に費やす計画を発表した。RBIはさらに2024年1月、Burger Kingの米国最大のフランチャイジーであるCarrols Restaurant Groupを約10億ドルで買収し、これらの店舗の改装にさらに5億ドルを投じた。同チェーンでは、こうした大規模な投資が今後も実を結ぶものと期待している。

 RBIのエグゼクティブチェアマンを務めるパトリック・ドイル氏は決算説明会で「数カ月前にニューヨークで皆さんにお伝えしたように、米国でブランドを正しく展開するという私たちの取り組みに疑問を抱かないでほしい」と語った。

 「マーケティングはうまくいっている。私たちはこのブランドが持つオペレーションの一貫性に最も重点を置いている。2028年までに全米でほぼ完全にモダンなイメージになる道筋が見えてきた。あとは古き良きやり方でそれを実行するだけだ」(ドイル氏)

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