「アドフラウド」の現実 広告費の4分の1が不正なインプレッションにかすめ取られている「広告のムダ打ち」をなくすためにできること【第1回】

「広告費のムダ」がなぜなくならないのか、広告費をムダにしないためにはどうすればいいのかを考えます。

» 2024年05月22日 07時00分 公開
[中村 晃DoubleVerify Japan]

 日本国内のインターネット広告への出稿はすさまじい成長を見せ、いまや総広告費の半分近くを占めるほどに伸長しています。

 しかし、実はインターネット広告の多くは、必ずしも見てもらいたい人に届いていない可能性があることをご存じでしょうか。

 ターゲティングと効果測定が可能なインターネット広告は効率と効果に優れた手法であったはずなのに、なぜ広告費のムダがなくならないのか。広告費をムダにしないためにはどうすればいいのか。この連載を通じて考えてみたいと思います。

その広告は本当に見られているのか?

 電通「2023年日本の広告費」によると、2023年のインターネット広告費は、3兆3330億円に達し、日本の広告費の45.5%を占めています。その8割はインターネット広告媒体費、すなわち広告を掲載する枠(スペース)を購入するために支出されています。

 かつてインターネット広告は、見られているかどうか判別ができないアナログ媒体広告に比べて、「データログを見れば、いつ何人に見られたかが確実に分かり、ムダがない」ことがメリットだと言われていました。しかしいまや、その常識は通用しません。逆に、油断するとさまざまな要因でターゲットオーディエンスには届いていないのにインプレッションやクリックなどに湯水のように広告費が使われてしまっているという現実があります。

 広告費のムダの中でも直感的に理解しやすいのが、アドフラウド(主に、不正に収益を上げる行為の一種)です。Webサイトに表示されるディスプレイ広告では、人ではなくbotに自動的にクリックさせることでクリック数を水増ししたり、偽造サイトに広告を配信させてbotにアクセスさせたり、広告を表示するページを改ざんして高速で広告枠内だけを再読み込みさせたりするなど、さまざまな手法による不正行為によって、広告費が搾取されています。

 スマートフォンでは、ゲームアプリやユーティリティーアプリになりすました不正なアプリも横行しています。これらのアプリはユーザーが気づかないうちにバックグラウンドで何万回も広告を読み込ませ、不正なトラフィックを増やしています。DoubleVerifyの調査によると、対策を適切に行なった場合のアドフラウドはインプレッションのおよそ1.1%前後で安定しているのに対し、対策を何もしなかった場合では、平均して5.1%と5倍近くに達します。アドフラウドの発生は日によるばらつきも大きく、多い日には1日のインプレッションの24%がこうした不正行為によるものとなっています。広告主の視点で言えば、広告費の4分の1が不正なインプレッションにかすめ取られているのです。結果として、何も対策がされていないキャンペーンでは、10億インプレッション当たり12万1000ドル(1ドル150円換算で約1815万円)の広告費がムダに費やされていることになります。

(画像提供:DoubleVerify)

CTVにおける不正インプレッションも急増

 アドフラウドのスキームも日々増えています。特に最近増えているのがコネクテッドTV(CTV:インターネット接続によってデジタルコンテンツを視聴できる端末)の広告をターゲットにしたアドフラウドです。CTVの利用者は急増しており、NetflixやHuluなどの定額制配信サービスだけでなく、YouTubeのような広告収益で成り立っているサービスもすでに、30%はテレビ画面で視聴されているのが実態です。

 利用者が増えるにつれ、CTVにおけるアドフラウドのインプレッションも急増しています。DoubleVerifyが2020年に海外で発見したアドフラウドのスキームは、スピーカーや冷蔵庫、電子レンジといったスマート家電(家庭内のIoT機器)を悪用したbotネットで、IoT機器をCTVデバイスに見せかけてトラフィックを発生させるものでした。CTV機器からのトラフィックが突然40%も増えたことで攻撃が検知されており、2022年にはこのスキームの亜種による広告主の損失が、全米で併せて最大1000万ドルに上ると推測されています。日本にもこの流れは遅れて波及すると予想され、対策が急務となっています。

寄稿者紹介

中村 晃

なかむら・あきら DoubleVerify Japan マーケティング ディレクター 日本統括。同志社大学卒業後、東芝にて営業部門および宣伝部門でキャリアをスタート。その後、アップル、アドビ、Twitter、IBMなど外資系企業にて一貫してマーケティング業務に従事し、マーケティング部門責任者などを歴任。青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科(Executive MBA)修了。


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